合理的なのに愚かな戦略
セブン&アイ・ホールディングスの社外監査役で、立命館大学大学院経営管理研究科教授でもある著者が書いた企業戦略論。書名通り、合理的に理詰めで戦略を検討して行ったら、どう考えてもこの戦略にならざるを得ないというほど考え抜かれた戦略であっても、愚かな戦略だと言われることがあるという指摘かと思って読んでみたが、そうではなかった。有名企業の優秀な経営者であっても、不合理な判断をすることがあるという話だ。一見正しいような、顧客の声を聞き、おもてなしをするといったことをしているだけでは生き残れないという事例や、しがらみを断ち切るのは難しい、過去の成功体験が合理的な判断を阻害する、といった事例が挙げられていて、合理的なのに愚かなのではなく、合理的だと思っても実はそうではなく愚かだったという指摘である。
そもそも合理的に考えるだけでは、他社も同じような結論になってしまって、戦略とは呼べないものになる。だから本書のタイトルを私がつけ直すなら「合理的だから愚かな戦略」としたいところだ。すると次には、何をもって合理的と言うのかが、事業内容や環境変化、競合状況などによって変わるので、これまたなかなか難しい。
本書は、合理的に戦略を立てようと思っても、そう簡単にはいかないよという警告の書としておすすめ。実例も多くて参考になるだろう。じゃーどうすればいいかは、本にするのは難しいな。だから戦略は面白い。タイトルと中身は違うが、戦略の通説を疑ってみるキッカケとなる本。