資本主義の再構築
ハーバード大学ジョン&ナッティ・マッカーサー・ユニバーシティ・プロフェッサーによる資本主義再構築論。資本主義は環境問題や経済格差など大きな壁にぶつかりその限界を露呈している。著者は、「株主価値最大化のみを追求することそのものが問題を生み出している」と指摘。その解決方法として、共有価値の創造、共通の価値観に根差した目的・存在意義(パーパス)主導によるマネジメント、会計・金融・投資の仕組みの変革、個々の企業の枠を越えた業界横断的な自主規制、政府や国との協力が必要不可欠であることを説いている。
本書のサブタイトルは、「公正で持続可能な世界をどう実現するか」。その答えが書いてあることを期待して読んでみた。いくらSDGsとかESGなどを唱えても、常に成長や収益を追い続けなければならない資本主義のままでは持続可能な社会は実現できないと考えているからだ。
実は資本主義の限界やポスト資本主義社会はどうなるかといったテーマの類書は結構読んでいるのだが、どれも理想論、綺麗事の域を出ず、現実的な回答はない。本書の著者は、15年に渡ってこの問題に取り組んで来た人で、ハーバードで最高位の名誉称号「ハーバード・ユニバーシティ・プロフェッサー」まで持っていて、本書も10年以上かけて書いたというから大いに期待して読んだのだが、やはりストンと納得できる答えは無かった。しかしさすがは「ハーバード・ユニバーシティ・プロフェッサー」、顧客所有型企業、従業員所有型企業という企業形態と「結局のところ、資本主義を再構築するうえでの中心的課題は、企業のパワーを制限することでしか対応できない。」と指摘した点については参考になった。
その割に最後の方で「世界を救うことには、しっかりした経済合理性がある」と言っていて、収益が見込めるのだから世界を救えというロジックからは抜け出せないのだなとガッカリもした。儲かるからではなく、パーパス主導で経営すべきであり、公正で持続可能な世界にするためには儲けを制限することもある、とハーバードの第一人者が言い切ってくれたらもっと良かったのになと思う。
難解なテーマの割には比較的読みやすく、解決の方向性は明らかにしてくれる一冊。おすすめです。