代表長尾が語るおすすめBOOKS

弊社代表の長尾が読んだ書籍の中から
特に皆様におすすめのものを厳選してご紹介するページです。
自己啓発や社内教育の参考にしてください。

おすすめBOOKS 2020年版

資本主義の再構築

 ハーバード大学ジョン&ナッティ・マッカーサー・ユニバーシティ・プロフェッサーによる資本主義再構築論。資本主義は環境問題や経済格差など大きな壁にぶつかりその限界を露呈している。著者は、「株主価値最大化のみを追求することそのものが問題を生み出している」と指摘。その解決方法として、共有価値の創造、共通の価値観に根差した目的・存在意義(パーパス)主導によるマネジメント、会計・金融・投資の仕組みの変革、個々の企業の枠を越えた業界横断的な自主規制、政府や国との協力が必要不可欠であることを説いている。
 本書のサブタイトルは、「公正で持続可能な世界をどう実現するか」。その答えが書いてあることを期待して読んでみた。いくらSDGsとかESGなどを唱えても、常に成長や収益を追い続けなければならない資本主義のままでは持続可能な社会は実現できないと考えているからだ。
 実は資本主義の限界やポスト資本主義社会はどうなるかといったテーマの類書は結構読んでいるのだが、どれも理想論、綺麗事の域を出ず、現実的な回答はない。本書の著者は、15年に渡ってこの問題に取り組んで来た人で、ハーバードで最高位の名誉称号「ハーバード・ユニバーシティ・プロフェッサー」まで持っていて、本書も10年以上かけて書いたというから大いに期待して読んだのだが、やはりストンと納得できる答えは無かった。しかしさすがは「ハーバード・ユニバーシティ・プロフェッサー」、顧客所有型企業、従業員所有型企業という企業形態と「結局のところ、資本主義を再構築するうえでの中心的課題は、企業のパワーを制限することでしか対応できない。」と指摘した点については参考になった。
 その割に最後の方で「世界を救うことには、しっかりした経済合理性がある」と言っていて、収益が見込めるのだから世界を救えというロジックからは抜け出せないのだなとガッカリもした。儲かるからではなく、パーパス主導で経営すべきであり、公正で持続可能な世界にするためには儲けを制限することもある、とハーバードの第一人者が言い切ってくれたらもっと良かったのになと思う。
 難解なテーマの割には比較的読みやすく、解決の方向性は明らかにしてくれる一冊。おすすめです。

著 者:レベッカ・ヘンダーソン

出 版:日経BP

金 額:2200円




ヨイショする営業マンは全員アホ

 営業系人気YouTuberによる営業ノウハウ本。YouTube「宋世羅の羅針盤ちゃんねる」のチャンネル登録者数は出版時点で12万人超。著者の宋 世羅 (そん・せら)氏は、1989年大阪生まれの若者で、早稲田大学野球部を出て、野村證券入社。4年間勤務の後、現在はフルコミッションの保険営業をしているという人である。私もYouTubeのチャンネル登録者だ。著者が自分の恥部をさらけ出して本音で語る姿は共感を呼ぶだろうし、本書のタイトルもそうだがキャッチーな(少々品のない)言葉で人を惹き付ける。本書のサブタイトルも「1%だけが知っている禁断の法則」というもので、YouTubeのサムネールにおける動画再生回数を増やす王道のようなフレーズだ。
 本書は、そのYouTube動画の書籍化であり、YouTubeを見ている人には新発見はないだろうが、12万人もファンがいるからご祝儀で買う人は多いだろう。これまた私もその一人だ。YouTubeを見たら分かると思うが、ついつい応援したくなるキャラクターで、飄々とした語り口の中に、6000万回くらいの大袈裟な表現と関西人らしい笑いをぶっ込んで来てなかなか面白い。私としては営業指導をする際の営業担当者側の本音が分かるし、営業疑似体験をさせてもらえて参考になっている。先に本書を読んでYouTubeを見てもいいだろうし、先にYouTubeを見てから本書を読んでもいいと思うが、一般の営業担当者はこういう努力をしている人がいるということを知る意義があると思う。
 但し、経営者やマネージャーレベルの人は、この著者も営業武勇伝本によくある「自分を売り込む」人であることを忘れてはならない。証券も保険も、売り物では差別化できない。同じものを別の会社でも別の営業マンからでも買うことができるのが特徴だ。だから「自分を売り込む」し、そもそも本人にパワーとキャラが必要になる。それを普通の会社の普通の営業担当者にやれと言っても無理であり、それができるくらいなら本書の著者のようにフルコミの保険営業マンになるか起業することになる。だから、普通の会社の人には拙著「普通の人でも確実に成果が上がる営業の方法」(あさ出版)の方がおすすめなのだが、タイトルも真面目で面白味に欠けるから売れていない(笑)。
 売れない言い訳を、会社のせい、商品のせい、客のせい、コロナのせい、能力のせいにしている営業マンは是非本書を読んでYouTube動画も見てみるといいだろう。自分が如何に甘っちょろくてラクなことしかしていないかが良く分かるはずだ。それが分かっても著者と同じようなことはできないから、普通の会社で本書のエッセンスを参考にしながらもうちょっと前向きに頑張ってみよう。

著 者:宋 世羅

出 版:飛鳥新社

金 額:1300円




逆・タイムマシン経営論

 一橋ビジネススクール教授と社史研究家によるビジネス流行ワードの振り返り本。サブタイトルは「近過去の歴史に学ぶ経営知」となっており、主に日経ビジネスの過去記事を振り返って、当時のキーワードや持て囃された経営手法がその後どうなったかを振り返っている。要するに、その当時はこれを取り入れないと時代に取り残されると騒いでいたものが、実はそうでもなかったよね、というもので、日経ビジネスを発行している日経BPだからこそ出せた本だろう。他社がやったら名誉棄損で訴えられそうだ。実は、私もSISに飛びついた口だ。今は無くなってしまった「日経情報ストラテジー」を1992年の創刊から定期購読してSISに乗せられた(笑)。
 本書ではそうしたブームや錯覚を「飛び道具トラップ」「激動期トラップ」「遠近歪曲トラップ」の3つに分けて紹介している。この分類にはあまり意味がないように感じたが、マスコミの言説に惑わされず本質を見極める力が必要だという学びがあると思う。この辺りは拙著「AIに振り回される社長 したたかに使う社長」で訴えた最新テクノロジーワードに振り回されたらダメですよという内容と重なっており、本書を読んだら是非拙著も読んで欲しい。その本がまた日経BP刊だから、さすが日経BP!!ということだろう。
 だがしかし、マスコミにせよコンサルタントにせよ、その時々のキーワード、トレンドに合わせた提言をするのは宿命みたいなもので、「世の中どうせ何も変わらないから何もしなくていいよ」と主張すれば良いわけではないだろうし、それでは何の役にも立たない。実際、私も80年代の終わりにSIS(戦略的情報システム)というコンセプトを知り、大いに影響を受けて、その当時は確かにコンセプト倒れになった面はあるだろうが、それをキッカケにして自分の思い描く理想のSISを実現しようと30年取り組んで来て、ようやくイメージに近いものが出来た実感がある。日経情報ストラテジーを読まなかったら・・・、SISなんてどうせ一時の流行語だと切り捨てていたら・・・、今はない。
 ブームやマスコミに踊らされ、振り回されるのではなく、一つの情報として参考にし、したたかに使いこなすことが大切だ。それを学ぶには良い本だと思う。

著 者:楠木 建+杉浦 泰

出 版:日経BP

金 額:2200円




座右の書『貞観政要』

 立命館アジア太平洋大学学長でライフネット生命の創業者でもある著者による、「貞観政要」解説。「貞観政要」と言えば、唐の二代皇帝である太宗(李世民)による帝王学の定番だ。その「貞観政要」を座右の書とする著者が、著者ならではのビジネス体験や古典や歴史に対する造詣から分かりやすく解説してくれている。「貞観政要」そのものの現代語訳ではなく、あくまでも出口治明氏の座右の書としての「貞観政要」であることに注意は必要だが、出口流に解説され、現代のビジネス事例もあって、一般のビジネスマンには読みやすいと思う。
 いきなり古典はとっつきにくいと感じるような人は、本書を読んで、「貞観政要」にどう向き合えば良いか、「貞観政要」が生まれた背景は何かを知った上で、「貞観政要」をキッチリ読んでみると良いだろう。おすすめです。

著 者:出口治明

出 版:角川新書

金 額:860円




コンタクトレス・アプローチ テレワーク時代の営業の強化書

 客に会いに行くのが仕事、訪問してナンボ、と思い込んでいた営業マンは、コロナ自粛で自身がテレワークになり、法人客は在宅勤務でいなくなって、実質「自宅待機」状態に陥ったことだろう。徐々に訪問できるようになっても、マスクはしないといけないし、やはり来るなと言う客もいて、思うように活動できていないケースも多いだろう。そこで必要になるのが、「コンタクトレス・アプローチ」だと説く。単なるWEB商談、リモート営業の方法論ではなく、アナログも含めて、非接触でどう営業活動を進めるかを解説し、ビジネスそのものの在り方についても提言している。
 ZoomなどWEB会議ツールを使う企業も増えてオンライン営業、リモート営業という言葉も遣われるようになったが、多くの場合、面識のある既存客が中心で新規客には対応できていないのではないか。本書では、新規客の発掘からWEB商談に至るステップも解説している。
 著者は、30年以上に渡って営業現場とIT活用を見て来た私、長尾一洋。インターネットもなかった時代から日本企業の営業を見て来た私だからこそ言えるIT活用でありコンタクトレス(訪問レス)ということが重要。コロナで何でもオンラインだからと、付け焼刃でITツール活用を提案しているわけではない。「コンタクトレス・アプローチ」は、アンチウイルスだけでなく多くのメリットがある営業手法だから、コロナを逆手にとって今こそ進めるべきなのだ。
 コロナ以外にも、豪雨、地震、台風、熱中症など、営業訪問を阻害する敵は多い。それらを乗り越えるための取り組みが「コンタクトレス・アプローチ」だ。営業部門を持つ企業の経営者、管理者、もちろん営業担当者も必読です。

著 者:長尾一洋

出 版:KADOKAWA

金 額:1400円




ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか

 日経クロストレンドの記者によるワークマン快進撃ストーリー。元々は作業服屋に過ぎなかったのに、商品を変えずにターゲットをアウトドアに広げ、機能性を打ち出し、コストパフォーマンスをアピールして、あのユニクロの国内店舗数を超えたと言う。多くの経営者が「ユニクロには勝てない」と諦めてしまっているところに、「やり方次第で戦えるよ」と示してくれたのは良いことだと思う。実際には、お手本にしていて戦ってはいないのだろうが・・・。
 タイトルに、「商品を変えずに」と入っているが、作業服としても売り、アウトドアやレジャー用のウェアとしても売るという意味であって、実際には商品は常に改編、改善されていて、ユニクロやニトリのようなSPA(製造小売)業態になっている。やはり、仕入れて売るだけの小売店ではこれだけのインパクトは出せない。在庫リスクを抱えて、自社で企画し製造し、販売まで一貫して行うからこその低価格と収益性の両立だ。
 これから新型コロナの影響で、デフレ傾向が強まるだろうから、ますますワークマンが伸びて行く可能性は高いだろう。異業種、他業態でも、本書を読むと不景気、デフレ時のビジネスの進め方にヒントが見つかると思う。

著 者:酒井大輔

出 版:日経BP

金 額:1600円




コーポレート・トランスフォーメーション

 経営共創基盤のCEOによる日本企業再興論。「コロナショック・サバイバル 日本企業復興計画」の続編だそうだ。要するに、史上最悪のコロナ不況、コロナショックがやって来て、日本型企業(カイシャ)は消え去る運命にあるのだから、会社ごと生まれ変わらなければならないという話だ。書名のコーポレート・トランスフォーメーションは、DX(デジタル・トランスフォーメーション)をもじっているもののようだが、小手先でDXをやってごまかすようなことでは間に合わないので、経営そのものを見直せというわけだ。
 本書の前半はグローバルな大手企業向け、後半はローカルな中堅・中小向けに書かれている。前半は、日本的経営の歴史を紐解きながら、終身雇用や年功序列を引きずったままではGAFAなど欧米企業には太刀打ちできないという話が続く。電機もやられ自動車も先が見え、銀行、メディア業界も破壊的イノベーションにやられてしまう、となったら日本に未来はない。
 だが、日本経済の7割ほどを占めるローカル(L型)中堅・中小企業は、域内チャンピオンになれば生き残れるのだそうだ。著者のいうG型、グローバルな世界では日本は勝てない。何しろ東大を出ても能力が低いと言われたら、たしかに日本人のほとんどは負け組だ。なのに、日本ローカルなら大丈夫と言われても、ローカル中堅・中小には東大卒なんてほぼゼロじゃないですか?と突っ込みたくなる。結局は、世界で戦うことは諦めて日本国内で何とか頑張りましょうということが言いたいのかな。
 と、いろいろ突っ込みたいところはあるけれども、なぜおすすめするのかというと、日本アズナンバーワン、日本的経営は素晴らしい、という日本型企業(カイシャ)が拭い去れない幻想から脱却する必要があるという点は大いに同感だから。コロナショックで、テレワークを推奨し、DXを進めて、ジョブ型の雇用にすべきと言いながら、解雇規制をそのままにして定年延長させて社会保障を企業に押し付けるような矛盾を放置したままでは、本書の言う通り、仮にデジタル化を進めたとしても「DXごっこ」で終わってしまうという危機感があるからだ。東大も出ていない、ローカル企業の人が読むと気分が悪くなるかもしれないが、上っ面なIT化でお茶を濁すのではなく危機感を持って経営を変えていく決意を固めるためには参考になる一冊だと思う。

著 者:冨山和彦

出 版:文藝春秋

金 額:1500円




WHO YOU ARE

 米国のベンチャーキャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者兼ゼネラル・パートナーで、『HARD THINGS』の著者としても知られるベン・ホロウィッツ による企業文化論。自らテクノロジーベンチャーを起業しHPに売却した経験も持つ著者が、日本の武士道やハイチの指導者、チンギス・ハンといったビジネス外の事例を元に文化をどう作るかを語っている。
 要点は、原題にある。「WHAT YOU DO IS WHO YOU ARE」あなたが何をするかがあなたである。口でいくら良いことを言っても行動が伴わなければ文化にはならない。日本での副題は「君の真の言葉と行動こそが困難を生き抜くチームをつくる」となっている。リーダーが言行一致の人でなければ、思うような文化は出来ない。たしかにその通りだ。さすがベン・ホロウィッツ。またも実践の書を世に出してくれた。
 企業経営者はもちろん、私のような経営コンサルタントも重々気を付けなければならない。口先だけで行動が伴わない綺麗事を言っても相手は動いてくれない。部下はあなたの言葉ではなく行動を見ている。おすすめです。

著 者:ベン・ホロウィッツ

出 版:日経BP

金 額:1800円




テレワーク導入の法的アプローチ

 新型コロナウイルスで一気に経営課題として取り組まざるを得なくなったテレワークに関して、弁護士である著者が法的な面からの懸念と就業規則などの改訂について解説した一冊。2020年の2月に出たばかりの新しい本で内容も新しいし、テレワーク礼賛本ではなくテレワークのデメリットにも触れていて、テレワークを進めようとしている企業は是非読んでおくと良いだろう。
 テレワークにはパンデミックだけでなく自然災害などにも対応する事業継続策としても、時間と場所の制約を超えることによる生産性向上面でも、育児や介護などの問題への対処法としてもメリットがあるが、万能ではない。メリットの裏にはデメリットもあり、また職種によってテレワークの可否があって不公平感を生むような組織的な問題もある。本書は、それらの問題にも触れていて、コロナウイルス対策の急場凌ぎでテレワークを始めたような企業にはとても参考になるはずだ。
 足りない点とすれば、テレワークにおいては当然ICT活用が必要になるのだが、WEB会議やチャット等のメッセージング及びコミュニケーションツールへの言及しかなかった点だ。弁護士の先生にとっては専門外だから仕方ないが、企業がテレワークを実現するためには、情報のやり取りだけでなく、その内容が蓄積保存され、時間と場所を超えて共有され、業務処理に回されなければならないし、それがあってこそ生産性向上も実現する。業務上のやり取りなのだから、その場のチャットで済むものばかりでなく、回覧して閲覧の日時確認をしたり、稟議書のように承認が段階的に進むようなものもあり、そして最後は、経費精算のようにお金も流れて行く仕組みにつながる必要があるのだ。当然それらは、適切な牽制が効いていなければならないので、個人間のチャットのようなわけにはいかない。
 弊社では、月額360円でテレワークを支援する機能をまとめた「NI Collabo 360」というツールを提供しているのだが、本書に書かれた法的な問題や社内諸規定の整備と同時にツール活用を進めてもらうと良いと思う。緊急避難的な短期間の在宅勤務は出来ても、継続的なテレワークが出来るわけではない。本書はコロナウイルス対策で書かれたわけではないだろうが、非常にタイムリーな出版で素晴らしいと思う。

著 者:末 啓一郎

出 版:経団連出版

金 額:1600円




渋沢栄一に学ぶ「論語と算盤」の経営

 一般社団法人経営倫理実践研究センターの会員を中心とした18名の共著者による渋沢栄一研究本。渋沢といえば、「論語と算盤」ということになるのだが、「論語と算盤」を読んでいるだけでは、渋沢の功績やそこに至る背景が理解しづらい。その点、本書は、いろいろな角度から渋沢栄一論を展開しており、他の渋沢栄一本にはない構成になっている。各章のテーマは、「渋沢栄一と職業倫理」「渋沢栄一とコーポレート・ガバナンス」「渋沢栄一の教育イノベーション」「渋沢栄一と社会貢献活動」「ドラッカーが見た渋沢栄一の魅力」といった具合に多方面から渋沢栄一を知ることが出来る。
 さらに、商工会議所や東京ガス、IHI、東急など渋沢栄一ゆかりの企業の紹介や渋沢が関与した経営などが書かれていて、渋沢栄一が日本資本主義の父と呼ばれる所以もよくわかる一冊となっている。「論語と算盤」を読んで、渋沢栄一に興味を持ったら、次に本書を読んでみることをおすすめする。参考文献も細かく記載されているので、そこから更に進んで行く糸口をつかむのにも便利である。

著 者:水尾順一+田中宏司+蟻生俊夫

出 版:同友館

金 額:1800円




慶應義塾大学大学院SDM伝説の講義

 タイトル通りだが、慶應義塾大学大学院のシステムデザイン・マネジメント研究科(SDM)における伝説の講義を本にしたという一冊。そう言われたら、どんな伝説か気になる。ということで読んでみた。
 伝説の講義をしたのは、税理士の先生で、2011年から17年までの7年間、慶應SDMの特別招聘教授として「経営・財務戦略論」を担当した吉田篤生氏。吉田篤生会計事務所の所長さんだ。1947年神奈川県生まれで1970年慶應義塾大学商学部を卒業。その5年後には吉田篤生会計事務所を設立し所長に就任している。20代で事務所を立ち上げ、税理士として多くの企業を見てきた経験に基づいているところが、普通の学者先生とは違うところか。
 本業は税理士で、「経営・財務戦略論」だから財務会計の話ばかりかと思いきや、「経営の成果物として表れた会計の数字だけを追っていても、本質的な問題を見つけ、解決することはできません。」と言及し、企業や経営の在り方そのものに触れる内容になっている。
 特に、企業の持続可能性についての関心が高いようで、老舗企業の事例も紹介されているので、同族オーナー企業の後継者は是非読んでみると良いと思う。過大な借入を返済した事例もあるので、借入過多の後継者は必読。金融機関は結構批判されているので、金融関係の人も読んでみると良いだろう。
 システムデザイン・マネジメント研究科の伝説の講義ということで、システムデザイン・マネジメントなるものが会計や財務でどう表現されるのかが気になったのだが、その点の踏み込みはあまりなし。ちなみに、システムデザイン・マネジメントとは、慶應SDMのHPによると、「技術システムの設計から社会システムの構想提言まで、大規模・複雑で不確定要素の多いあらゆるシステムを創造的にデザインし、確実にマネジメントするための学問体系およびその実践を表します。」ということだそうだ。

著 者:吉田篤生

出 版:日経BP

金 額:1800円




ビジョナリー・カンパニー 弾み車の法則

 「ビジョナリー・カンパニー」の著者、ジム・コリンズが「弾み車の法則」に絞って書いた、わずか90ページほどの本。「弾み車」とは、「ビジョナリー・カンパニー2」で取り上げらている概念である。「ビジョナリー・カンパニー2」は、シリーズの中で最も秀逸で、参考になる本だと思うが、出版されたのは2001年。すでに20年近く前のものだ。あれから20年経ち、「弾み車」を20年回し続けた企業がAmazonだ。この分かりやすい、誰でもが知っている成功例を基にして、「弾み車の法則」について改めて整理されたのが本書であり、「GOOD TO GREAT」という「ビジョナリー・カンパニー2」の主題を実現するキーになるのが「弾み車の法則」だったということなのだろう。
 恐らく、本書を読んだだけでは、「ビジョナリー・カンパニー」が目指す姿や、何をもって「ビジョナリー・カンパニー」と言っているのかという背景が分かりにくいだろう。だが、「ビジョナリー・カンパニー」シリーズを読み込んでいる人が本書を読めば、新しい事例で「弾み車の法則」を確信し、たった90ページ読むだけで「ビジョナリー・カンパニー」の復習が出来るはずだ。

著 者:ジム・コリンズ

出 版:日経BP

金 額:1200円




一倉定の社長学

 日本経営合理化協会専務理事による1999年に亡くなった日本経営合理化協会看板講師「一倉定」回顧録。日本経営合理化協会と言えば、創業した牟田学と一倉定の二枚看板で、鉄板のテーマは「社長業」「社長学」だった。私も20代の頃に受講したことがあるし、書籍も読ませてもらった。牟田さんの「社長業」はとても参考になったし、後には講師もさせてもらったので、日本経営合理化協会にはお世話になった。その時に窓口だった人が本書の著者の作間さんで、その人が一倉先生について書いたとなれば読まないわけにはいかない。
 20年前に亡くなった人の回顧録なので、具体的な中身は多少古いなと感じる部分もあるが、社長としてどうあるべきか、どう経営を考えるかという点は参考になる部分が多い。米国流の横文字マネジメント用語を盲信しているコンサルタントや後継経営者は是非読んでみると良い(きっと批判するだろうが・・・)。綺麗事を並べているだけでは経営は出来ない。売上を上げ、利益を出す以外に存続の道は無し。その覚悟をもたらしてくれるのが鬼の一倉先生だったのだろうが、その指導スタイルを今やったらパワハラだなんだとまた批判されることになるだろう。今となっては、牟田・一倉の両先生の傍で何十年と薫陶を受けて来た作間さんを通じて、社長とはどうあるべきかを自ら省みるしか無し。
 二代目三代目四代目・・・後継社長は必読。「古い」「時代が違う」とバカにせずに真摯に読んでみることをお勧めする。

著 者:作間信司

出 版:プレジデント社

金 額:1800円




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