代表長尾が語るおすすめBOOKS

弊社代表の長尾が読んだ書籍の中から
特に皆様におすすめのものを厳選してご紹介するページです。
自己啓発や社内教育の参考にしてください。

おすすめBOOKS 2019年版

トヨトミの野望

 覆面作家が愛知県の世界的自動車メーカーを題材に、99%は真実ではないかと言われる生々しさで書いた企業小説。「失われた20年を、高度成長期並みに駆け、世界一となったあのトヨトミ自動車が潰れるときは、日本が終わるとき。日本経済最後の砦・巨大自動車企業の真実を伝えたいから、私は、ノンフィクションではなく、小説を書きました」ということだそうだ。
 ほぼ、あの会社と特定でき、99%が真実だと言うくらいだから、企業経営のドロドロした部分も含めて学ぶケーススタティーには最適だ。おまけに文庫化されて安いし読みやすい。最初の単行本は講談社から出ているが、名古屋の書店から一瞬にして消えたらしい・・・。
 どうにも表紙の絵に違和感があって、トヨトミとかいうわざとらしい名前にもピンと来なくて読んでいなかったのだが、ある人に勧められて読んでみるとたしかにリアリティがあって面白い。特に米国との関係やロビイングについての記述はなかなか知ることの出来ない内容で興味深かった。
 企業経営者や後継者、世界進出を狙う企業に属する人は是非読んでみるといいだろう。

著 者:梶山三郎

出 版:小学館

金 額:850円




ビジネスの武器としての「デザイン」

 フェラーリ、マセラティ、秋田・北陸新幹線、大阪メトロ、ヤンマー、セイコーなどのデザインを手掛けて来た工業デザイナーによる「デザイン経営論」。単なる造形的、表象的なデザインではなく、ビジネスそのものをデザインすべしと説く一冊。具体的には、「言葉のデザイン」、「ニーズではなく、ウォンツを刺激するデザイン」 「ブランドデザイン」、「ストーリーデザイン」、「社会問題の解決デザイン」など様々な切り口からデザインするのだそうだ。
 私は、企業はデザインすべきものであり、経営とはまさに企業のデザインであると考えているので、「デザインとはコンサルティングであり、優れたデザイナーとは優れたコンサルタントの要素を兼ね備えていなければならない」という本書の主張に同意したい。が、経営コンサルタントの立場から言えば、そう簡単にデザイナーさんにコンサルティングが出来るかのように言われては皮肉の一つも言いたくなる。逆に言えば、コンサルタントにもデザインの要素、見識が必要なのであって、要はどちらも必要なのだが、もし両方できるならデザイナーは実際に絵が描けるから優位だな・・・。
 具体的なデザインの仕方、進め方について書かれた本ではないが、ビジネスをデザインするという発想、ビジネスにデザインを取り入れるということについて考えてみるのには分かりやすく、読みやすい一冊だ。

著 者:奥山清行

出 版:祥伝社

金 額:1600円




未完の資本主義

 国際ジャーナリストである編者が、ノーベル賞経済学者であるポール・クルーグマン、「フラット化する世界」の著者トーマス・フリードマン、「善と悪の経済学」の著者トーマス・セドラチェクら、7名に行ったインタビューをまとめた一冊。副題は「テクノロジーが変える経済の形と未来」というものだ。
 PHPの「Voice」誌などに一部掲載されたインタビューの完全版ということだが、インタビュー形式なので読みやすいし、それぞれの著作を読もうと思うと大変だが、簡単に要点がつかめてなかなか良い。
 全体を通した主題は、「テクノロジーは資本主義をどう変えるか」と「我々は資本主義をどう『修正』するべきか」ということだそうだ。いろいろな批判がありながらも変容を遂げながら資本主義は続いて行くということらしい。だから「未完」の資本主義。
 私としては、「資本主義の終焉」「ポスト資本主義」を考えるべきだと思うが、資本主義は終わらずに変化するのだと言う。変化するのなら、現状の資本主義は終わったと考えれば良いようにも思うが、「知の巨人」たちが言うのだから、一応そういうことにしておこうかと思う。言っておきたいのは、資源や環境の限界についてあまり触れられていなかった点だ。資本主義に代わる理想的な経済などはないのかもしれないが、資源や環境が限界を迎えれば、今の資本主義のままでは行き詰るのは必至だろう。それを「資本主義が終わる」と言うのか「まだ未完で変容する」と言うのかの違いかな。
 資本主義の在り方について考えてみるには、新書で読みやすく、7人もの泰斗の考えが分かって、おすすめだ。

著 者:大野和基

出 版:PHP新書

金 額:900円




孫子とのおしゃべり

 靴下屋で知られるタビオを上場まで導いた孫子の達人と1年で借金1億5000万円を完済し利益を200倍にしたという不動産関係のコンサルをやっている人による孫子入門書。不動産会社を舞台に会話形式でエピソードが語られ、そこに孫子の達人として越智タビオ会長が登場して孫子の兵法を伝授するという構成。
 孫子の「五事」すなわち「道・天・地・将・法」について、架空の不動産会社でのエピソードの中で、孫子の解説がなされるのだが、「道・天・地・将・法」だけで一冊の本にしてしまうのがすごい。私なら、もっと孫子の智恵を盛り込んで、あれもこれも紹介したくなるが、本書は「五事」だけ。それ以外は、不動産会社のエピソードなので不動産関係以外の人には余計に長く感じる部分もあるだろうし、孫子についてもっと知りたいという人には不満が残るかもしれない。
 だが、孫子の兵法が現代のビジネスにも応用できるということを分かりやすく伝えてくれているという点で、孫子兵法家の私としては嬉しいし、タビオの越智会長自身が孫子を応用して上場企業を作り上げた人だから、冗長であっても説得力がある。タイトルと表紙が軽い感じだが、孫子に触れるキッカケとしては読みやすくておすすめだ。

著 者:越智直正+小原秀紀

出 版:光文社

金 額:1500円




デジタルエコノミーと経営の未来

 神戸大学大学院経営学科教授とNTTデータ副社長によるテクノロジー経営論。NTTデータが提唱しているのか「エコノミー・オブ・ウィズダム」という「データを価値に転換する者が生き残る」とするコンセプトを中心にIT化、デジタル化の解説がなされている。前半の三品教授による第4次産業革命の解説は第1次産業革命からの流れを整理するもので参考になったが、結局のところ第4次産業革命が何なのか、その変化が革命と呼ぶにふさわしいものなのかはよく分からず。私としては、第3次産業革命としての情報革命の途上にあって、AIの隆盛や通信環境の整備などでデジタルデータの持つ価値が一段と高まりつつあると考えた方がしっくり来る。
 後半は、NTTデータの立場からデジタル化が経営にどのようなインパクトを与えるかという話が展開する。そこではMaaSなどどこかで聞いたことがあるような話が語られているが、要するに限界費用がゼロに近いデジタルデータをどう活かすかという問題だろう。ネットフリックスやウーバーなどの事例が登場するが、どれもまだビジネスモデルとして確立出来たとは言いにくい段階のものであって、一般の企業の参考にはなりにくいと思う。巨額の資金を背景に赤字を垂れ流しながらも世界中にユーザーを増やしてシェアを取るという米国IT企業の遣り口は、投資先がない金余りの時代だから成立しているものであり、日本企業が真似をするべきものでもないだろうから、日本を代表するIT企業、NTTデータとして、これからの日本企業がどういうデジタル戦略を持つべきかを提言してくれると良かった。
 とはいえ、現状のデジタル化の流れ、デジタルデータの経営応用について考えを整理するには良い本だと思う。ただ、革命が本当に世の中を変えたら、それが当り前になってそれだけではビジネスにならなくなることを知っておくべきだろう。ワットもエジソンもフォードも歴史には名を残したが、役割を終えたらビジネスの一線からは消えて行った。

著 者:三品和広+山口重樹

出 版:東洋経済新報社

金 額:1500円




アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

 英国人ジャーナリストによるアマゾンやウーバーなどの低賃金労働現場への潜入レポート。日本ではユニクロに潜入した横田増生氏が帯にて推薦。そもそも著者は、左翼系ウェブサイト”Left Foot Forward”の元編集者ということで、企業側を批判的に捉えた論調であることは差し引く必要があるだろうが、なかなか知ることの出来ない現場の実態をつかむには良い本である。英国での事例だけに、EU離脱の要因ともなった移民問題も絡んでおり、単純に日本に当てはめることは出来ないが、日本でも外国人労働者の受け入れ拡大などもあって今後の移民政策によっては参考にすべき点もあるだろう。
 アマゾンの倉庫で働くことがそんなに素敵なことだと想像する人はいないだろうが、ウーバーのドライバーになって自分の都合で働けるはずのギグ・エコノミーが、そう都合の良いものでもなく、スマホアプリに指図されGPSで追跡されるかなり拘束された仕事である点などは興味深い。ネットを使おうがAIを使おうが、生身の人間が動く部分でのコストダウンには限界があり、そこの限度を超えて行けば本書で指摘しているような人間性を否定したような職場や仕事にならざるを得ないということだろう。
 何より、この本がアマゾンの倉庫から送られて来たわけだが、その作業に携わった人がタイトルを見てどう感じたのかが気になる。自動化されていて人の目に触れないならいいが・・・。

著 者:ジェームズ・ブラッドワース

出 版:光文社

金 額:1800円




本業転換

 早稲田のビジネススクール教授とその教え子(なのかな?)による存続企業と消滅企業の経営比較本。サブタイトルは、「既存事業に縛られた会社に未来はあるか」というもの。取り上げられている事例は、富士フイルムとイーストマン・コダック、ブラザー工業とシルバー精工、日清紡とカネボウ、JVCケンウッドと山水電気である。
 如何なる企業も時間の経過とともにマーケットの変質や技術動向、規制や環境変化などによって本業が衰退もしくは成長できなくなる事態に遭遇することになる。そこを本業転換で生き残った企業と消滅してしまった企業との違いは何かを解き明かすことを狙った本だ。
 今の日本では基本的に人口減少のマーケット縮小で本業のパイも消失しかねないから、本業を転換して時代の変化に合わせることはどこの企業でも考えてもらいたい点である。その点で本書も読んでもらいたいが、外形的に何年にこうした、何年にこういう事業を始めた・・・と対比して終わりではなく、なぜその意思決定が出来たのか、なぜその事業構想が生まれたのか、逆に消滅企業ではなぜその構想や意思決定が出来なかったのかについて踏み込んでくれているともっと良かった。既存の本業に縛られていてはダメなことは分かっても、どういう新事業に取り組み、本業転換をすべきかが難しいのだから・・・。とはいえ、自社の本業とは何かを見直すには良い本です。

著 者:山田英夫+手嶋友希

出 版:KADOKAWA

金 額:1500円




心。

 言わずと知れた京セラの創業者で、JALの再生でも活躍された稲盛和夫氏の経営論。経営の神様と言えば松下幸之助だったが、今の生き神様はやはり稲盛さんということになるのだろう。90年近い人生を振り返り、京セラ、KDDI、JALといった経営経験を踏まえて行き着いた答えは、「すべては〝心〟に始まり、〝心〟に終わる」ということ。本書では、この心の持ち様や人格のあるべき姿について繰り返し説かれている。
 批判的に読めば、宗教っぽく感じたり、精神論に過ぎないのではないかと受け止められなくもないだろう。50を過ぎ60、70と歳を重ね、稲盛さん同様、経営者としての苦労をして来たような人が読めば、「たしかにそうだ」「その通り」と納得がいくようにも思う。まさにこの受け止め方が、心のあり様であり、本書を活かすも殺すもその人の心次第。
 私は経営コンサルタントなので、自社のビジネスモデルや戦略を後回しにし、時流の変化にもついて行けていないのに、「すべては心次第」で何とかなると考える経営者がいることを危惧する。京セラもKDDIもJALも、時流に合った商品や技術力があり、戦略実行の努力があってこそ成り立ったものであって、経営者がただ「真善美」を追及したから成功したわけではない。そのことを無視する人がいることには懸念があるが、自分さえ、自社さえ儲かれば良い、利益さえ出れば良いという経営者には是非本書を読んで大いに反省もしてもらいたい。きっとそんな経営者は本書を読んだりしないのだろうなぁと諦めつつも、私の「心」がおすすめせずにスルーできないので、ここで紹介しておく。

著 者:稲盛和夫

出 版:サンマーク出版

金 額:1700円




リッツ・カールトン 最高の組織をゼロからつくる方法

 14歳で始めた灰皿洗いからスタートし、欧州の一流ホテルで修業した後に渡米して、ヒルトン、ハイアットでキャリアを積んで、1983年のリッツ・カールトン創業に参画した著者による組織運営論。リッツ・カールトンのサービス品質や顧客満足度については、多くの本が出ているが、それらはすでにリッツ・カールトンのサービスレベルが確立された後の話である。だが、本書はゼロからリッツ・カールトンを作った話であり、綺麗事だけではない苦労話も出て来て参考になる。
 正直なところ、普段リッツ・カールトンに泊まったりしないし、すごいサービスもあれだけの高い料金を取っているから出来ることでしょと思っているのだが、その高い料金を取れるホテルを作り上げるのは大変なことだっただろう。その要諦は、ホテルの従業員を顧客に奉仕する下僕ではなく紳士淑女であると捉えたことにあると思うが、これからの企業組織が見習うべきポイントだと思う。テイラーにNOを突き付け、アダム・スミスの「道徳感情論」を参考にした辺りは、すべての企業経営者に読んでもらいたい内容である。
 綺麗事のリッツ・カールトン本に飽きた人、リッツだから出来るんでしょと批判的だった人に是非おすすめしたい一冊。

著 者:ホルスト・シュルツ

出 版:ダイヤモンド社

金 額:1600円




PIXAR <ピクサー>

 トイ・ストーリーやファインディング・ニモなどの制作で知られるPIXARの成功裏話。副題は、「世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話」というものだ。著者は、シリコンバレーの弁護士から会社経営に転じ、1994年にスティーブ・ジョブズから声をかけられてPIXARの最高財務責任者になったという人。赤字会社だったPIXARを上場させ、後にディズニーに売却するまでと、最後に東洋哲学と瞑想を広める活動をする話が紹介されている。
 300ページ超の大部だが、スティーブ・ジョブズとの生々しいやり取りやシリコンバレー流のIPOの進め方などが書かれていて、面白くてついつい読んでしまう内容だった。やはりジョブズは天才ではあっても経営者には向いてないようにも思うし、著者のような実務家をうまく使って企業を成長させた結果から言えば経営者としての才能もあったということなのか・・・などと考えながら読んでみると面白いだろう。
 自由度や創造性を維持しながら上場企業としての業績管理や組織統制をどう実現するかというバランスはPIXARでも難しくて、最終的にはディズニーに包含されることでバランスを保ったということだろうか。おすすめです。

著 者:ローレンス・レビー

出 版:文響社

金 額:1850円




「発想」の極意 :人生80年の総括

 1930年生まれで、東京大学経済学部を卒業後、日本長期信用銀行取締役、(社)ソフト化経済センター理事長を経て東京財団会長を務めた著者による、人生の総括。人生80年どころか90年に迫ろうとしているわけだが、ソフト化、サービス化が進んだ1980年代から90年代にかけて、まさにソフト化経済の中心に立って推進、啓蒙して来た人である。
 私も、その著作やテレビなどでの発言から影響を受け、多くのことを学ばせていただいた。その日下先生の「人生の総括」と銘打った本を読まないわけにはいかない。過去の著書もほとんど読んでいるので、新しい発見があったわけではないが、日下先生の生い立ちやビジネス体験を知ることで、その発想の極意を何となくつかむことができる。
 何でも米国礼賛、米国追随ではなく、日本には日本の伝統ややり方があり強みもあるのだということを分からせてくれて、日本に勇気を与えてくれる先生だった。最後の著作になるのかは分からないが、是非読んでおきいたい一冊である。

著 者:日下公人

出 版:徳間書店

金 額:1400円




始皇帝 中華統一の思想

 映画化された人気漫画「キングダム」の内容に触れつつ、中国大陸が統一されてきた仕組みについて解説する一冊。副題は、「キングダムで解く中国大陸の謎」。漫画キングダムでは秦の始皇帝が中華統一するストーリーが描かれているわけだが、中国が民族や言語を超えて統一されてきたのは秦による法治主義、法家の思想があったからだと説く。
 本書を読むことで、なぜ秦が中華統一を目指し、他の六国が目指さなかったのかが良く分かる。この歴史的必然を知った上で、漫画キングダムを読むとまたストーリーの理解が深まるだろう。そう考えると、そもそも漫画のキングダムが史実を踏まえて良く練られた漫画であることが分かる。たかが漫画と侮るべからず。映画も良いが、拙著「キングダムで学ぶ乱世のリーダーシップ」も漫画の理解を深めるためにはおすすめだ。
 中国の歴史も、法家思想も、リーダーシップも学べる漫画、「キングダム」恐るべし。

著 者:渡邉義浩

出 版:集英社新書

金 額:800円




ザ・ビジョン

 広告代理店出身のブランド戦略コンサルタントが企業の成長にはビジョンが必要であると説いた一冊。私もビジョンの必要性については全く同感で、本書はそれをとても分かりやすく、かつ説得力を持って書いている良い本だと思う。後半のビジョン作成の手順や方法については、広告的というかブランディング的というか、抽象的で企業経営の実務からすると、多少言葉の遊びのようにも感じるが、前半部分のビジョンのあるべき姿についての解説は良いと思う。
 経営者や次期経営者は是非読んでみると良いだろう。ビジョンなくして採用なし。目的地も分からずに一緒に来てくれる人はいない。企業成長にビジョンは欠かせない。但し、本書の副題になっている「あの企業が急成長を遂げる理由」は、恐らくAmazonのことを言いたいのだと思うが、ビジョンだけを急成長の理由だとするのは無理があると思う。だが、ビジョンが明確だったことでAmazonの経営が良い方向に進んだことは確かだろう。

著 者:江上隆夫

出 版:朝日新聞出版

金 額:1600円




歴史を応用する力

 「天空の舟」「重耳」「子産」などの中国歴史小説で知られる著者が、歴史から何を学び、どう応用すべきかについて述べた文庫オリジナルエッセイ。主に、著者の小説が中国の歴史のどこに着目しどう小説になったかを解説する内容になっている。私としてはもう少し汎用的というか広く歴史から何をどう学ぶかという内容を期待していたのだが、それとは少し違った。ただ著者の小説を読んだ人にはその背景が分かって面白いだろう。
 正直なところ、著者の小説で読んだことがあるのは、伍子胥を主人公とした「呉越春秋 湖底の城」だけで、それも孫子兵法家として孫武が登場するところに興味があって読んだだけだったので、小説の内容について触れた部分はピンと来ないところも少なくなかった。本書に書かれた内容からすると「呉漢」は読んでみないといけないなと思う。
 ただ、歴史や歴史上の人物から学ぶためには、その時代のことだけでなく、中国の歴史全体を理解しておかなければならないという指摘は、なるほどそうだろうなと納得できたし参考になった。孫子の兵法でも、その時代の背景、すなわち春秋戦国時代に至るまでの経緯を知らなければ、なぜそこで孫武がこういう考え方をしたのかについて深く考えることができない。本書では、夏、殷から周へと至る流れについても解説してあって非常に分かりやすかった。中国の歴史や古典に興味のある人は是非読んでみると良いと思う。

著 者:宮城谷 昌光

出 版:中公文庫

金 額:640円




ホンダジェット誕生物語

 タイトルそのままだが、ホンダジェットの開発秘話。日経新聞の記者によるもので、2015年に出た単行本の文庫化だ。ご存知のように、主翼の上にジェットエンジンをつけるという画期的なアイデアでジェット機の常識を覆し、小型ジェット世界シェア1位という成果を実現したホンダジェットの40年におよぶ苦闘が書かれている。まさに無から有を生む遠大な挑戦で、読んでいてワクワクしパワーをもらえる。これがたった900円で買えてコンパクトに持ち歩けるのだから、読まないわけにはいかないだろう。全ビジネスパーソンならびに学生さんたちにもおすすめだ。
 特に、自社に「人がいない、技術がない、金がない、経験がない」と言い訳ばかりしている中小企業経営者には是非読んでもらいたい。ホンダジェットも、あのホンダだから出来たのだろうと別世界の話として片付けてしまうかもしれないが、当時のホンダは四輪車への参入で存亡の岐路に立っていたし、そもそも飛行機への挑戦は本田宗一郎の創業時からの夢だと言う。そして、自動車メーカーとして大きくなっても、飛行機については経験もなく人材も不足していて、「ないもの」だらけだった。その苦闘の歴史が本書には書かれている。
 やろうともせずに出来ない言い訳ばかりしていては、本田宗一郎から「やってみもせんで」と怒られることになるだろう。日経ビジネス人文庫に感謝。

著 者:杉本貴司

出 版:日本経済新聞出版社

金 額:900円




ビジネスに使える! 孫子の兵法見るだけノート

 今、売れていると評判の「見るだけノート」シリーズの孫子兵法版。本なのに「見るだけ」。マンガですら「読む」のに・・・。簡単なイラストを「見るだけ」で孫子の兵法が理解できるという一冊だ。
 実際には、まったく文字がないわけではなく、「読む」部分もあるのだが、全ページ2色刷りでイラスト中心の構成になっている。孫子の入門書としてはマンガ同様、読みやすいというか見やすく、入りやすいものになっていると言えるだろう。
 そして、大切なことはこの本の監修者が、私だということ。自分が企画したわけでも書いたわけでもなく、監修者として数ヵ所、孫子の解釈や表現を指摘したくらいだから大したことはしていないのだが、孫子兵法家として孫子の兵法が広く知られて、孫子に興味を持つ人が増えることに貢献できるのは嬉しいことだ。
 なぜ、私のところに監修の話が来たのかは聞いてもないので知らないが、タイトルに「ビジネスに使える!」とあるように、ビジネス応用の孫子解釈だからだと思う。単なる現代語訳、普通の孫子解釈であれば、私に話は来なかっただろうし、私も監修を引き受けていない。まぁ、他の人に依頼したけど断られたから・・・という理由だったらガッカリだな。
 「見るだけ」で孫子の兵法がわかるという本が一体どのようなものなのか、一度「見て」みて欲しい。

著 者:長尾 一洋 (監修)

出 版:宝島社

金 額:1200円




サイボーグ時代

 遠隔操作ロボットOriHimeを開発した「ロボット界の若き鬼才」による人生論のような仕事論のような一冊。自らの不登校体験などを元にして、遠隔操作できる分身ロボットを開発したそうだ。テクノロジーによって不可能を可能にしていくことから、本書名も「サイボーグ」としているのだろう。
 場所の制約を超えるという点から、遠隔操作ロボットには興味があるので、その開発秘話なども書かれているのかと期待して読んでみたのだが、開発の具体的な話はあまり出て来ない。自分の弱み、病気や障害などを乗り越えるために、「努力と根性と我慢」ではなくテクノロジーを使うべきだと説く。それによって自分らしく生きられるのだと。
 著者と同年代か下の世代の人は、これからの時代をどう生きるかを考えるために一例として参考にすべき点があるだろう。常識に合わせる努力ではなく、自分オリジナルの生き方や仕事があっても良いという事例だ。
 経営者、管理者世代は、著者のようなマニアックというかオタクというか、著者の言葉によると「コミュニケーション・非ネイティブ」だけれども、何かしらの才能なり可能性を持っている若者をどう活かして行くかを考えるのに参考になるだろう。恐らく従来の企業や組織の枠組みには収まらないから、著者のような独立した存在とのネットワークを組むような形が望ましいだろう。私はそれを「ネットワーク・アイデンティティ」と呼ぶ。これからの時代は、サイボーグを使うかどうかは別にして、個々の才能や能力をネットワークして活用していくことになるはずだ。
 「働き方改革」を国や企業が推進し、それに甘んじて働き方を変えていることに疑問も持たないような人や企業は、いずれにしても本書のような話にはならないだろうが・・・。

著 者:吉藤オリィ

出 版:きずな出版

金 額:1480円




営業デジタル改革

 各種デジタルツールが普及し、SFAやCRMといったシステムを活用した営業活動が当り前になる中で、あるべき営業の姿を描いた一冊。主に、BtoB型の営業を対象に書かれている。著者は25年以上に渡って営業系ITツールの活用をコンサルティングして来たという人である。そんなことを言われると、私も負けてないぞと対抗したくなるが、たしかにSFAが日本に紹介された初期の頃から関連著作を出している人で、SFAが単なる日報のIT化レベルに留まっているといった指摘は当たっている。私も同感だ。
 本書では、営業側のデジタル化、IT武装を進めるというよりも、顧客側がデジタル情報を得て主導権を握る中で営業プロセスをどう見直すかを説いている。その処方箋として示される「セールス・イネーブルメント」と「営業デザイン」がどう優れていて何が新しいのかが分かりにくいが、今年は「働き方改革」もあり、いよいよ「足で稼ぐ」営業スタイルが通用しなくなる中で、デジタルツールをどう活用し、どのような営業組織にし、営業プロセスを見直すかを考えてみるには、ちょうど良い問題提起本だと思う。新書で手軽でもあるし、営業責任者や営業企画担当者は読んでみると良いだろう。

著 者:角川 淳

出 版:日本経済新聞出版社

金 額:950円




なぜ今、世界のビジネスリーダーは東洋思想を学ぶのか

 東洋思想研究家、田口先生の本を連続してご紹介してみよう。西洋文明が世界の中心であった時代は行き詰まりを見せ、東洋文明の時代へと変換しようとしているという文明法則史学による指摘があるように、世界というか地球は曲がり角に来ているように感じる。西洋、東洋と分けなくても、分析、分解の思想から統合、全体の思想へとシフトしつつあると考えても良いのかもしれないが、従来の発想をそのまま延長して行くだけでは、人類が抱える課題を解決できないのかもしれない。
 という時代認識の中で、本書の指摘のように、すでに世界のリーダーたちは東洋思想を学んでいると言う。その中心は中国の古典などになるのだろうが、それを古典の勉強と考えずに、文明の中心が西洋から東洋へと移ろうとしていて、そのテキストが老子や論語や禅などであると考えると良いだろう。古典などに馴染みのない人はちょっと取っ付きにくいかもしれないが、平易に書かれているので、東洋思想とはどのようなものかを知るのには良いと思う。

著 者:田口佳史

出 版:文響社

金 額:1380円




人生に奇跡を起こす営業のやり方

 「キリンビール高知支店の奇跡」の著者と東洋思想研究家による営業談義。営業は人生の「修行」(営業道)であり「利他」の精神で営業に取り組むことで奇跡が起こると説く対談。ちょっとキリンビールならびに元副社長を持ち上げ過ぎではないかと思うが、「自分のためではなく、誰かのためにと思うと頑張れる」という経験談は多くの営業パーソンに読んでもらいたい。自分のためには人生(命)をかけることはできない。他人のためだから踏ん張れるし、やり切った時に感謝もされ達成感だけではなく幸福感が生まれると。もちろん、他人のためと思った方がうまく行くからという自分のための自己暗示では意味がないので、田口先生から東洋思想を学んでみるのもいいだろう。
 自分や自社のために売り込むのではなく、目の前の顧客のためにお役に立つという姿勢で取り組むことは本当に大事なことなのだが、それがうまく行くのは相応な商品力がある場合であって、キリンビールの例もあのキリンビールが変な商品など作っているはずもなく、商品力もあるから営業の姿勢で勝負が出来るのだということを忘れてはならない。どうしても営業力強化の話は、営業パーソンや営業部だけの話にしてしまいがちだが、全社的な理解や取り組みがなければ継続的な成果には結び付かない。この視点で部分と全体の関係性を田口先生に指摘してもらえると尚良かったが、営業に関係する人は読んでみると良いだろう。

著 者:田口佳史+田村 潤

出 版:PHP新書

金 額:860円




生産性とは何か

 2019年は改元の年でもあるが、働き方改革を迫られる働き方改革関連法が施行される年でもある。そもそもなぜ働き方改革を進めるのか?と言えば、人口が減ることが確実な中で国力を維持するためには生産性を高めなければならないからである。そのための働き方改革であらねばならないのに、先に働き方改革があって、そのためには生産性を高めなければならないという話になって来ている。そしてその生産性という言葉が非常に曖昧というか、いい加減に使われていて、その定義もよく分かっていない人が多そうなのが問題だ。
 生産性が先か働き方改革が先かを議論するべきところだが、もう法律が施行されてしまうので、取り急ぎ生産性とは何かということについて整理しておくべきだろう。難しい専門書ではなく新書レベルでと考えたら本書がおすすめだ。
 但し、新書レベルと言っても分からない人には分からないかもしれないなとも思うので、最低限本書の136頁にある「働き方改革に対応しながら企業業績を維持するのは、まさに投入量が減る中で産出量を維持するということなので、労働生産性の向上なくしては達成できない。」というところだけでも理解してもらいたい。この引用部分の意味がピンと来ない人は本書を必ず読むべし。仕事の仕方や中身を変えることなく、ただ休日を増やしたり、労働時間を減らしたりしたら、確実に業績は下がるということだ。

著 者:宮川 努

出 版:ちくま新書

金 額:800円




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