諸葛亮 上・下
『天空の舟』『夏姫春秋』『重耳』『子産』『劉邦』『三国志』などで多くの文学賞を受賞して来た作家が諸葛亮を取り上げて『三国志』のスピンオフを書いたとあっては、孫子兵法家として読まないわけにはいかない。と言っても、私は宮城谷昌光氏の作品としては、孫武が登場して呉越の攻防を描いた『湖底の城』しか読んだことがなかった。それがなぜ『諸葛亮』を手に取ったか。それはやはり孫子の兵法が出て来るから。孫子兵法の研究の一環として、名軍師、名参謀と言われる諸葛孔明がどういう人物であったのかを知りたいからである。
もちろん、『三国志』は吉川英治氏などいろいろな人が書いているしマンガ版もあり、孫子の注釈書まで残した魏の曹操を知るためにも、孫子兵法の使い手としては必読のものだから当然読んで来たのだが、もうそれで充分な気がして宮城谷版『三国志』は読んでいなかったわけである。ということもあって、宮城谷昌光氏が諸葛亮をどう描くのか確認せざるを得ない気持ちになったのだ。
正直なところ、史実を淡々となぞっているような展開で、諸葛亮がなぜ名軍師、名参謀となったのかという背景や経緯のようなものは薄いように感じた。『三国志』が好きで、諸葛孔明が好きだという人にとっては、三顧の礼で劉備に仕える前のエピソードなどもあって楽しめる内容だろう。
個人的には、地名と人名が覚えづらく、やっぱり歴史ものは日本のものの方が、土地勘もあるし登場人物を知っていることも多くイメージしやすいと思う。
アニメやドラマで話題になっている「パリピ孔明」で諸葛孔明に興味を持った人や『三国志』ファンは是非本作を読んでみると良い。『三国志』には出て来ない諸葛亮を感じることができるだろう。