破壊なき市場創造の時代
「ブルー・オーシャン戦略」のチャン・キムとレネ・モボルニュによる最新刊。副題は「これからのイノベーションを実現する」というもので、それがどのようなイノベーションかというと「経済善」と「社会善」の両立を目指すイノベーションだそうだ。それを彼らは「非ディスラプティブな創造」と呼ぶ。
「非ディスラプティブ」とは、ディスラプション(破壊)がないということで、イノベーションによって既存市場を破壊するのではなく、まったく新規の市場を創造することによって、競争を回避(ブルー・オーシャン)する方がより望ましいという提言だ。言いたいことは分からなくもないが、まったくの新規市場を創造すると、言うのは簡単でも実際にはかなり難しいだろう。仮に何らかのアイデアを思い付いたとしてもそれを実現するだけの能力やリソースが自社にあるのかどうか。それがあったとしても、ある程度の市場規模までまったくのゼロから拡大させることが本当にできるのかどうか、と考えると現実味がない。
ということで、おすすめBOOKSで取り上げておきながら、実は、あまりおすすめではない。が、孫子兵法家の私としては戦わずして勝つブルー・オーシャン戦略には賛成なので、一応紹介しておく。きっと、ブルー・オーシャン戦略の次のアイデアがなくて、暇になったんじゃないかな。ブルー・オーシャン戦略が世界的にヒットしたので、経営学の大家に祀り上げられて、より高尚な理論を出さないと納得してもらえないという切迫感か。
ブルー・オーシャン戦略は、既存の市場、既存の競合関係の中で、ちょっとした視点を外したり、付け加えることで正面衝突を回避して、新たな市場を開拓するというプチアイデアなところが良かったのに、あれこれ高邁な理屈をつけようとするから、「言いたいことは分かるけど、実際やろうと思ったら無理なんじゃないの」という本書に着地したように思われる。
ちなみに、仮にまったく新しい新市場を創造できたとしても、その市場に魅力があれば必ず競合の参入はあるわけで、世の中のすべての破壊をなくす「非ディスラプティブ」というのは、あったとしても一瞬の幻のようなもののように思う。
「ブルー・オーシャン戦略」のチャン・キムとレネ・モボルニュによる最新刊なら読まねばなるまい、と考える私と同じような人がいてはいけないので、ここでご紹介しておきます。言いたいことはよく分かるよ、という本です。それが分かった上で読んでみようという方は是非。