上司 豊田章男
トヨタの豊田章男社長(現会長)を部下(広報担当秘書)の目線から描いた豊田章男論。著者は、トヨタの広報部から社長担当の広報秘書になり、フェローという肩書をもらったトヨタ社員であり、豊田章男現会長のスピーチライターでもある。豊田章男氏の代弁者であり、側近として経営者を支えた目撃者でもある。当然、豊田章男氏を美化し過ぎじゃないかとも思える内容で、あくまでもトヨタ広報の一環と考えるべきだろうが、日本一の企業の創業家としての重責を背負った後継社長の内面にも迫ったドキュメンタリーでもある。
副題は「トヨタらしさを取り戻す闘い 5012日の全記録」。2009年5月8日から、豊田社長がトップ交代を発表した2023年1月26日までの13年8か月の記録であり、その間、赤字転落、世界規模のリコール問題、東日本大震災、電気自動車シフトなど数多の危機に遭遇し、それをどう乗り切ったかが記録されている。
社長の立場にある人なら、創業者であれ後継社長であれ、こんな秘書、代弁者がいてくれたらいいのにと感じるだろう。世界のトヨタだからこんなスピーチライターもつくわけで、普通の会社では望むべくもないが、自分の意図することが社内外にうまく伝わらず、もやもやしている経営者は多いと思う。本書を読んで「こんな社員を雇える会社にしたい」と決意するのも良いと思う。
本書では、後継者として社長になる豊田章男氏と会長になって後継者にバトンタッチする豊田章男氏の姿が描かれるので、経営者の世代交代、事業承継を考える経営者、後継者は是非読んでみると良いと思う。トヨタほどのプレッシャーはないかもしれないが、先代までの歴史を引き継ぎ、社員とその家族を支える責任を背負い、競合他社との戦いに勝っていかなければならない経営者の重みは小さな会社であっても変わらないだろう。
経営者、後継者ではなくとも、企業の組織風土や文化を良くしたい、変えていきたい、元に戻したいと考えている経営企画、人事教育、組織開発などに携わる人は読んでみる価値があると思う。あのトヨタですら、社員の意識やモラルで悩んでいるし、経営者と社員との間の溝やズレがあり、企業文化の再興に腐心している。100点満点で何の問題もないという会社はないわけで、あのトヨタですら悩んでいるのだと思えば自社でも頑張ろうと勇気をもらえるはずだ。
面白おかしい本でもないし、経営学を学ぶようなものでもないが、経営とは何か、経営者とは何かを考えるキッカケとなる良著である。













