代表長尾が語る経営の道標
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2024年版 経営の道標
値上げを恐れない経営
大手企業を中心に賃上げが確実となり、マイナス金利も解除され、にもかかわらず円安が続き、4月から物流や建設分野での残業規制が始まってコスト増は間違いない・・・という状況の中で、今一度お伝えしなければならないのは、値上げへのチャレンジである。昨年からこの経営の道標でも値上げの必要性について触れて来たが、新年度を前に改めて値上げできる経営に変えて行くことをおすすめせざるを得ない。
多くの日本企業は、デフレに慣れ過ぎて、インフレに対応できなくなっているように思う。クライアント企業の経営者と話していても、値上げには非常に消極的だ。如何に安く売るか、下手をすると採算割れでも顧客の要望に応えないと商売を失うのではないか、という意識が習い性になってしまっているように感じる。物価も上がらず、金利も低くて、そんな利益度外視経営でも何となくやって来ることができたこの30年程が、経営者のマインドをデフレマインドに固定させてしまっている。
ロクに利益も出せない経営をしていては、人件費が上がり、諸経費が上がり、原材料費が上がり、金利も上がる中で事業の継続もままならなくなるだろう。「まだ何とかなっている」「今はまだ耐えられている」と言っていられる内に値上げをし、業務効率を上げ、賃上げや経費増があっても利益を出せる経営にシフトすべきである。
ともかく、まずは値上げを検討すること。「顧客が納得しない」「値上げなど無理」と端から言い訳して思考停止しないように。諸経費も人件費も原材料等の仕入も上がっているのだから、値上げと言っても暴利を貪ろうとしているのではない。適正な利益を確保させていただくというだけのことだ。
真剣に値上げを検討して、本当に値上げできない商品やサービスがあったとすると、そこに改善の余地があるわけだから、集中して改善するか、別の売り先を開拓するか、撤退、停止を検討しよう。いくら顧客が大事だからと言っても、採算の取れない商売など成り立つわけがないという大原則に立ち返るべきである。値上げすると言えば、顧客は必ず文句を言う。値上げが1円であれ2円であれ、値上げを喜ぶ顧客はいない。「この値上げをご理解いただけない顧客とはご縁がなかったと諦めよう」と覚悟を決めるべし。
そして、その分、商品力アップ、サービス力アップ、他社との差別化に注力を。それを実行する現場の社員の給与も上げなければならない。「うちは中小企業だから賃上げはできないよ」などと言い訳ばかりしていては、社員もいなくなり人手不足倒産に追い込まれることになるだろう。いずれにしても行き詰るのであれば、値上げにチャレンジしてみる方が、うまく行く可能性があるだけ良いではないか。
秋にはまた最低賃金が上がることになる。この春の賃金動向を見ていればそれはほぼ確実だろう。最低賃金が上がる前に先手を打って賃金アップすれば人の確保もできるだろうが、最低賃金アップに合わせて最低ラインの賃上げをするだけでは、新規の採用に結びつかず、既存のパート・アルバイトの賃金アップだけになって、人手不足で現場を疲弊させ、経営的にも苦しいという何も良いことがない結果となる。
もはや、猶予はないので、値上げを恐れず、値上げできる経営を目指そう。現状のまま単に値上げするわけではない。値上げするに足る経営にシフトするのだ。そうしようと思わない限り、そうはならない。
すでに値上げ済みで収益改善もできて、余裕も出て来たという企業やそもそも値上げなどしなくても利益は十分確保できているという企業は、ここで敢えて値下げしてみるのもまた良し。値上げしないとやっていけなくなっている弱った企業をここで一気に叩くのもまた戦略である。
といったことを考えている競合企業があることも踏まえて、値上げをし、利益確保を急ぐべきである。値上げを恐れてはならない。デフレマインドから脱却しよう。
2024年3月
2024年 甲辰(きのえ たつ)
いよいよ新時代の幕開け、となるかどうかの分岐点。古い体制や常識が崩壊し、新しい社会、新しい環境、新しい価値観が現れる。その新しい動きが運気を上げる「昇龍」となるか、旧体制を一気に破壊してしまう「キングギドラ」となるか。ちなみに、キングギドラが誕生したのはちょうど60年前の甲辰、1964年である。東海道新幹線が開業し、東京オリンピックが開催された年である。まさに、戦後復興期から経済成長期への分岐点だった。
今年もオリンピックイヤーであり、米国大統領選を始めとして多くの国で選挙もあって、世界的な景気は無理矢理にでも上向きになるだろう。日本では新紙幣が発行されて、日銀の政策も変わって、新時代の始まりとなるかどうか。
一方で、ウクライナに続いてイスラエルでも紛争が起こり、今年はそれが第五次中東戦争へと戦線拡大することもあり得るのではないか。それがさらにアジアにも飛び火すれば第三次世界大戦となるのだろうが、そこは何とかゴジラに食い止めてもらいたい。
中東紛争の煽りを受けて石油危機のようなことが起これば、株価の暴落もあるだろう。昇龍のように株価が上がれば良いが、上がれば下がるのが株式市場というものだろう。「まだ上がるだろう」と思っている間に利益確定した方が良いように思う。
4月1日からは、建設業、物流・運送業、医療業界で時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」の影響が出て来る。建設費の高騰は避けられず、物流はコストアップだけでなく一部運べない地域や時間帯も生じる可能性がある。ビジネスとは直接関係なさそうではあるが、医療分野での影響は結構大きいのではないか。ドクター不足で診療時間が制約を受けることになるだろう。
そうなって来ると、業界を問わず、人材獲得のために賃上げ競争も激化するだろう。政府からの賃上げ要請によるものではなく、給与を上げないと人が採れないという切実な事情によるものだ。大手が上げれば、中小は余計に人材獲得が難しくなる。同時に最低賃金も上がることはほぼ確定だろうから、新規の採用もせず現状維持でいいという中小零細ビジネスにも影響が出るだろう。
金利も多少なりとも上がって来るだろう。低金利で救われていた中小企業は人件費アップや諸経費増に加えて金利上昇でじわじわと首を絞められることになる。
と、予想していると、ネガティブな内容が多くなって来たのでこの辺で止めておく。
そこで、どうするべきなのかを考えよう。
まずは、どんな騒乱や天変地異が起こっても持ちこたえられるように、収益性を高め、事業継続の備えをしておくべきである。元旦に能登半島で大地震があったのはたまたまとしても、天変地異は正月だからとかお盆だからとか人間の都合を考えてはくれない。
人が生き残っていなければ話は進まないが、企業が存続するためには収益性があることが大前提となる。儲からない商売では復興しようという気にもならないだろうし、借入しても返せない。諸経費が高くなり、人件費も上がり、原材料費、仕入価格も上がっているのだから、それに見合った価格改定をしよう。もし値上げができないとしたら、そこにこそ解決すべき問題があるわけで、できないから仕方ない・・・で放置してはならない。値上げできないのには原因がある。気分は悪いだろうが冷静にそれを認めて改善すべきである。今までのやり方ではダメなのだ。現状維持では済まない現実が突きつけられているのだ。そもそも天変地異があろうとなかろうと、世界で紛争が起ころうと起こるまいと、金利が上がろうと上がるまいと、収益性を高める手を打っておくべきだったのだ。
そんなことを言われてもどうしていいか分からない・・・それができるくらいならとっくにやっているという企業も少なくないだろう。が、本当だろうか? 本当は何をすべきか分かっているのでは? 言い訳を探してやっていないだけなのでは?
個別企業の細かな事情を置いておくと、どんな企業でもやるべきことはまず客数を増やすことである。ディスカウントせずに客数を増やすアクションを始めよう。じっとしていて客が増えるわけがない。下請け企業で営業マンがいなくても、経営者自ら発注元を増やす努力を。客にこちらからアプローチし、ビラを配り、メールを送り、電話をかけよう。
客数増が実現したらそれに応じて給与アップを。営業のインセンティブではなく全社員が対象だ。そして商品やサービスの改善に全員で取り組もう。同じモノを同じように売っていて、急に儲かるようになるわけがない。
商品の改良・改善ができたら、値上げを実施。ここで「難しい」「客が逃げる」と自分たちが感じるなら、まだ商品改良が足りない。客に逃げられそうだと感じる点を改良せよ。自社の商品が負けそうだと感じるのは、理想の姿との乖離を認識しているからだろう。何をすべきか、答えは分かっているはずだ。
要するに、収益性を高め、事業継続させるためには、やるべきこと、当り前のことを、逃げずにやることである。それもやらずに、景気が悪いだの、国がどうした、世界がどうのと批判めいたことを言うのは止めよう。
次にやるべきことは、デジタル活用による省人化。如何に少ない人数で業務を回すかをデジタルを使う前提で考えるべきである。人を雇う時には給与を高くしてなるべく優秀な人を。その代わり人数は減らして少数精鋭に。デジタルを活用するにも人はなるべく優秀な方がいい。少ない人数で仕事を回せるなら高い給与も払える。高い給与を払うから、人手不足の時代でも人を採用できる。
そして3番目に、自社のドメインを変えて、戦略ストーリーを見直す。自社は何屋さんか、何業か、というところから自社を変革していくことである。そうすると、将来への見通し、勝ち筋が見えてくる。災害復興でも大切なことは未来への希望が感じられることだ。目指すべき行先が分からないのに、一緒に努力しようとは思えないし、踏ん張りも効かない。経営論の教科書的には、この3番目から始めるべきだと書いてあるが、客もいない、商品もイマイチ、人もいないし低賃金でやる気もない、デジタルのデの字も分からない・・・といった状況でいくら考えても「下手の考え休むに似たり」で前向きな考えなど出てこないし、耳障りの良い綺麗事を並べ立てても何の役にも立たない。
龍の如く、空高く舞い上がり、過去の経営(しがらみ)から脱却して新しいステージに舞い降りることができるかどうか。甲辰(きのえ たつ)は新しいものが動き出す年である。
2024年1月
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