代表長尾が語る経営の道標
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2025年版 経営の道標
通貨の信用低下に備えよ
金(Gold)の価格が、1トロイオンスあたり3600ドルを超え3700ドルに迫っている。2025年の年初からだけを見ても4割も上昇している。日本国内でも、1グラムあたり19000円を突破した。さらに上昇するだろうというのが大方の予想だ。「金が高くなった」のではない。「ドルが安くなった」のであり、ドル基軸でつながっている各国の「通貨が安くなった」のである。日本円はその中でもとりわけ弱い。9月17日(現地時間)に米連邦公開市場委員会(FOMC)が0.25%の利下げを発表し、さらに年内に2回の利下げを見込んでいて、日銀は利上げを模索していると言われているのに、ドル-円の為替相場はほとんど動いていない。むしろ微妙に円安に動いている。米国は、インフレ加速懸念があるのに、労働統計などの数値も悪くなり景気の先行きに陰りがあり、トランプ大統領からの圧力もあって金利を下げざるを得ないという危うい状況であるにも関わらず、円高に向かわない。日本は米国債を買わされ、米国への投資を約束していて円は結局ドルに向かう(円売りドル買い)暗黙の了解があるからだろう。日銀も国債の利払いがあるから大して金利を上げられないと見透かされてもいるのだろう。ドルと円は一蓮托生にされている。
金やドル、円がどう動いているかという短期的な相場の話がしたいわけではない。問題は、ドルの信用低下(価値下落)の度が過ぎていることである。1971年のニクソンショックでドルと金の兌換停止となったことは知っていても、その時の1トロイオンスあたりの金価格が35ドルだったことは知らない人も多いのではないだろうか。そこから50年ほどで金は100倍の高値になった。のではない。ドルの価値が1/100になったのだ。もちろん円は、1ドル360円の固定相場から切り上げられていったからそこまでの下落はしていないが、ここで重要なのは通貨全体の下落、基軸通貨の信用低下である。
そんなことは分かっている人は分かっているだろう。経済学者や金融のプロなら知っていて当り前だ。その割に、いつもドルと円の為替変動ばかりニュースで流し、通貨そのものの価値が下がっている(インフレが進んでいる)ことを伝えないのは、知られたくない事情があるのではないかと疑いたくなる。
私は、日本の中堅中小企業をメインクライアントとする経営コンサルタントであって、経済の専門家でも金融のプロでもないから、普段ドル-円がどうだの、世界経済がどうだのというネタに触れることはない。専門家でもないのにあれこれ言うべきでもないと考えているのだが、さすがに黙っていられないので、多くの企業経営者、特に日本国内の事業が中心で日頃為替変動など気にしていないという経営者に警鐘を鳴らしておきたいと思ってこの道標を書いている。
今まで散々デフレが悪い、デフレから脱却すべきだと言っていたのに、ちょっとインフレになったら「物価高騰だ」と言って騒ぎ出すマスコミや専門家と言われる人たちの言うことを信じていてはいけない。事実を直視しデータを見て、自分の頭で考えてみることだ。
米国にせよ日本にせよ、どうみても景気が良さそうではないのに、NY市場も東京市場も最高値を更新したと騒いでいるのはおかしくないか? これも金価格に割り戻してみたら、東証も4万5千円ではなく40万円くらいになっていないと騰がっていることにはならない(そもそも銘柄も入れ替わっているので単純比較しても意味がないと思うが)。通貨の価値が下がっているのだから、通貨で価値を示している名目価格は信じてはいけない。NYの株高もAIや半導体銘柄が騰がり過ぎているだけで、実態として景気が良いわけではない。バブルである。バブルはやがて弾ける。弾けるからこそバブルである。2000年あたりのITバブルと同様に今度はAIバブルと呼ばれるだろう。
こうして見ると、通貨の信用低下と資本市場とに密接な関係があることが分かる。FRBも日銀もマネーサプライを増やせば増やすほど通貨の信用が低下することなど当然分かっているのに、過度に(いい塩梅を狙っているだろうが)供給するのは資本市場を盛り上げなければならないからだろう。国民の借金とされる国債を発行し、マネーをばら撒いて、それを資本市場に集めて合法的に収奪(搾取)する。バブルは危険だから避けなければいけないと言いながら、繰り返しバブルがやってくるのも、バブルの上げ相場では売って儲け、ピークまで来たら「〇〇ブームの終焉」というプロパガンダを流して、売り浴びせてバブルを弾けさせ、高値で買った庶民は、下がったところで売り、そこを安値で拾って持ち株が増え、支配企業がどんどん増えていくという成功法則があるからだろう。これを繰り返していけば、国(国民)は多大な借金を背負い、一部の資本家はより多くの企業の株を保有し配当も得る。そして物言う株主として、利益を増やし配当を増やし更には自社株買いもさせて搾り取る。
そもそも資本主義というのは、小口の資本を集めて、事業を起こし、世のため人のために善なる事業を拡げて行くよく出来た仕組みだと思うが、常に成長とそこからのリターンを要求してしまうが故に行き過ぎてしまうという限界がある。先進国の人口が増えていたうちは成長余地もあって良かったのだろうが、移民や途上国頼みになって来ると経済だけの問題ではなく文化や風土の問題も出て来て機能不全を起こしているように感じる。
そうなると、一度ご破算にしてやり直す、超バブル崩壊を起こす必要があるのだろう。今は、ドル基軸、ドル紙幣の発行ではなく、仮想通貨・暗号通貨・デジタル通貨に切り替えようとしているのではないか。そこで出て来たのがステーブルコインというものだ。国債を担保にして通貨とペッグしたデジタルコインを発行する。国債は銀行に引き受けさせて、さらに発行量を増やしインフレを加速させれば国(国民)の借金も負担が減る。同時に今持っている通貨の価値も下がることになるから、それに備えておかなければならない。インフレは目に見えない課税であり、資産没収のようなものだ。
やはり現物の金(Gold)にシフトしておくしかないか。。。。と言っていたらますます金価格は上昇するだろう。それはすなわち現行通貨の信用低下が進むということである。企業経営において「現金が大事、キャッシュさえあれば大丈夫」と信じて来た人は是非見直しを。日本は長くデフレが続いたのでインフレに頭がついて行けていない人が多い気がする。米国の銀行家J・P・モルガンが言ったとされる「Gold is Money. Everything else is credit. 金は貨幣である。他のすべては信用である」という言葉を覚えておこう。トランプ大統領は第2のニクソンショックとしてトランプショックを起こそうとしているのかもしれない。
企業経営者の皆さんは目先の相場変動に惑わされず、ドル基軸体制の崩壊、通貨の信用低下に備えていただきたい。
2025年9月
情報セキュリティの見直しを
3月の経営の道標「大災害・サイバー攻撃への備え」でも触れたが、サイバー攻撃が増えている。「まさかうちのような会社を攻撃して来ないだろう」と考えてしまう中小企業経営者も多いだろうが、狙い撃ちではなく無作為に攻撃してくるのもあるからやっかいだ。「ウイルス対策ソフトを入れているから大丈夫だろう」と安易に考えてもいけない。DDoS(Distributed Denial of Service)攻撃をされたら、情報の出入り口を渋滞させて閉じ込めるようなものだから、侵入されるわけでもないのに機能不全に陥ることになる。
ランサムウェアによる被害も増えている。身代金(ランサム)を要求するものだと聞くと、やはり金を持っている大企業が狙われると考えがちだし、ニュースになるのは大企業ばかりだから、そう考えるのも無理はないが、警察庁の「令和6年におけるサイバー空間の脅威の情勢等について」というレポートによると、警察庁が把握している被害件数222件のうち、大企業61件、中小企業140件、その他団体等21件と、大企業の倍以上中小企業でも被害に遭っている。母数が多いからという理由もあるだろうが、中小企業にとっても対岸の火事ではないということが言える。実際、私の周りでもニュースなどで知ったものではなく直接ランサムウェアの被害を受けた例を見聞きすることが増えた。
ランサムウェアは、従業員が怪しいメールの添付ファイルを開いてしまったとか、不正なWebサイトにアクセスしてしまったといったちょっとしたスキを突いて入り込むものだから、対策が難しい。データのバックアップなど対策をしていても、バックアップデータまで暗号化されて復元できなかったという事例も多い。警察庁もこうした事態に対応して、暗号化されたものを復号化するソフトを開発して無料配布しているのだが、最近は、暗号化せずに情報の漏洩をすると脅して身代金を要求するケースもあると言う。
そして、身代金を支払ったとしても暗号化を解除するとは限らないという犯罪者相手の難しさがある。そんなことを考えて行くと、これも3月の「大災害・サイバー攻撃への備え」で触れたように、重要な情報はデジタルではなく紙でバックアップする「究極のバックアップ」も必要になるだろう。
今回お伝えしたいのは、被害に遭った際、災害があった際の挽回方法ではなく、そもそもサイバー攻撃に対するセキュリティ対策を見直そうという話だ。「メールの添付ファイルは安易に開かないように」とか「怪しいWebサイトにアクセスするな」といった心得レベルの注意をしても、意図せずついついやらかしてしまうことはあるだろうし、手口はどんどん巧妙になってくるから人の注意では防ぎ切れない。
そこで、パスキーの導入を検討すべきである。「あぁ、パスキーね」とすぐに分かる人は、これ以上読まなくてOK。しかし、「は?パスキー?なにそれ?」と思った方は、要注意だから最後まできちんと読んでいただきたい。
パスキーとは「公開鍵暗号方式」を使ったセキュリティ技術の一つであり、デバイス側で指紋や顔などを認証し、システム側では最終確認のみを行うので、ログイン情報が第三者に盗まれるリスクが大幅に軽減され、セキュリティと利便性を兼ね備える方法として評価されている。要するに、パソコンやスマートフォン側で指紋認証や顔認証させることで、デバイスの所有情報、本人の生体情報の「多要素認証」を実現し、パスワードを使わないことで、パスワードを盗まれる心配もなくなるということだ。
セキュリティの強化をすると必ず利便性が犠牲になるというのがパスキー以前の常識。簡単なパスワードでは簡単に突破されるし、パスワードを長くしたり記号などの組み合わせを増やすと覚え切れない。二段階認証などは手間がかかって面倒臭い。このトレードオフをクリアするのがパスキーだ。
「パスキー」の名称は、Apple社が2021年6月に発表して、その後GoogleやMicrosoftなども追随したものだ。22年から23年にかけてパスキーに対応したデバイスなども発売され、利用が拡大しつつある比較的新しい技術である。サイバー攻撃を防ぐためにも有効だし、仮にサーバーなどに侵入されてもパスワードがなければ盗みようもないという点で是非検討すべきだと思う。最近は、生体認証に対応したスマートフォンやパソコンも増えて来たので、私共NIコンサルティングでも、パスキー対応を行った。
但し、パスキーに対応したデバイスが未だ限られていたり、従来のパスワードが社内外のシステムを連携させる場合にも利用されていて、すぐに廃止ができないケースもあるので、その場合は、パスキー導入と同時に、パスワードの文字数を増やし大文字小文字、記号などを組み合わせて強化することをおすすめする。システム利用者がシステムにアクセスする一番フロントの部分をパスキー対応にすれば、普段はパスワードを打つ必要がないのでしっかり強化できる。数字、アルファベットの大文字小文字、記号を組み合わせ、10文字か11文字くらい設定しておけば、一応安全と言って良いのではないかと思う。もちろん、利用者が覚えておく必要はなくなるのでさらに文字数を増やせばその分強化できる。
そして、システムの更新、改修に合わせて、段階的にパスワードを廃止するように持って行くのが現実的だろう。AIがサイバー攻撃して来て、パスワードが10文字だろうと20文字だろうと瞬殺で突破できるような時代が来る前に情報セキュリティーの見直しを進めておくべきである。
2025年7月
AIはインターネットやPCの登場と同じ
AI(人口知能)、特に生成AIについての話題が尽きない。クライアントの経営者と話しても、他のコンサルタントと話しても、若い人と話しても、AIの話が出て来る。もちろん、マスコミでもネット上でもAIの話題が取り上げられている。
弊社でも、すでに10年以上も前から「AI秘書」というコンセプトで、Sales Force Assistantというシステム(クラウドサービス)を提供しているが、今年はそこに生成AIを活用した「GenAIオプション」を投入した。他にもAIを活用したサービスがどんどん登場しているし、生成AIの進化のスピードも非常に速い。日に日に便利になり、賢くなり、使いやすくなっている。
まだコスト的に障壁があるだろうが、これもいずれ低価格化が進んでいくだろう。AIを研究し、製品化している人たちは「AIの民主化」を目指すことになる。誰もが手軽に使えるようにするわけだ。
これは、パソコンの登場やインターネットの登場の時と同じ流れである。歴史は繰り返す。スマートフォンの時にも起こった。
1980年代の後半、ワープロ専用機からパソコンへのシフトが起こった時、「パソコンなんて何に使うか分からない」「どうせ文書の作成くらいしかしないからワープロ専用機の方が使いやすい」「PC本体だけでも高いのに、さらにソフトを買わないと動かないなんて」と否定的な意見を言う人が多かった。だが、今はどうだろう?
ワープロ専用機は消えてなくなって、PCが一人一台どころか、職場にも自宅にもあるのが当たり前のようになってしまった。
1990年代の前半、インターネットが登場し日本でも商用利用が始まった時、「パソコン通信があるからインターネットなんて必要ない」「無修正のポルノ画像を見るくらいしか使い道はない」「外国とつながって犯罪に巻き込まれるのではないか」などと否定的な意見を言う人が多かった。現に、通信速度は遅かったし、接続方法も面倒臭かったので、話題にはなったが大して使い道はなかった。だが、今はどうだろう?
ビジネスはすべてとは言わないが、7割8割ネットに依存するか、ネット上に移っている。リアルなビジネスも裏ではクラウドサービスで処理されている。インターネットに接続すると意識する前に勝手にネット接続状態になっている。
同じような話になるのでスマートフォンの話は省略するが、AIも同じような道を辿ると断言できる。
必ず、ほとんどの人や企業が使うようになるし、それに依存するようになる。それを使うことが当たり前になり、やがて差別化要素ではなくなる。
AIも否定的なことを言えば、いくらでも否定できる。そもそも人間が頭を使わなくなるからダメだと言えば、誰も否定できない。テレビが登場した時も、パソコンが登場した時も、ネットが登場した時も、人間の頭が悪くなると言われた。それと同じ。そうなるかもしれないが、みんなが使って、みんなの頭が悪くなるなら、相対的には変わらないから、何が正解かは結局分からない。
AIも間違うことがある。いや、むしろ間違ったことを言う、と否定する人もいる。たしかに間違うことがあるし、微妙な答えを出すこともあるが、それよりも、正しく、賢く、気の利いたことを答える割合の方が圧倒的に大きい。
まず必要なことは、食わず嫌いをせずに使ってみる、会社で取り組んでみることだ。100%完璧を求めてはならない。人間がやったってどうせ100%完璧になどならないのだから。そして、その人間が年々減って行くのも確定なのだから。団塊の世代は後期高齢者になり、現役世代からほぼ離脱することになる。若者はどんどん減っていて、働き手は確実に減る。働く人がいなくなれば、AIでも、それが身体を持ったロボットでも使うしかない。
どうせ使うことになるなら、早めに、なるべく上手に使った方が良い。
PCはほぼすべての人と企業に行き渡ったが、それを使ってビジネスを成功させた人もいるし、ただ使っているだけの人もいる。
インターネットもほぼすべての人と企業に行き渡ったが、それを使ってビジネスを成功させた人もいるし、ただ使っているだけの人もいる。
AIもやがて、ほぼすべての人と企業に行き渡ることになるだろうし、その時それを使ってビジネスを成功させた人とただ使っているだけの人に分かれるだろう。
要するに、うまく使えばそれで成功もするが、ただ使うだけでは差別化要素にはならないということ。
避けることはできないし、早く、うまく取り入れるべきだが、それだけでは先行できても差別化できない。誰しもが使うようになったら相対的な差はなくなるからだ。
だから、AIを使えば、導入さえすれば、すべてはうまく行く、人間などいなくてもなんでもできるということにはならないが、それなしではやっていけなくなると考えて、AIを活用するべきなのだ。
パソコンを導入しさえすればうまく行くなんてことにはならなかったし、インターネットを使えば必ず成功するというわけではなかったのと同じである。
それだけ大きな世の流れであり、流れが大き過ぎて、流れに乗るだけでは他も同じということだ。だが、流れに乗れなかったら消え去る運命が待っていることを忘れてはならない。
2025年5月
大災害・サイバー攻撃への備え
3.11と聞くだけで、多くの人が東日本大震災の惨禍を思い起こすだろう。災害対策やBCP(事業継続計画)の策定などはできているだろうか。「あの時は大変だった」「被災者は可哀想だ」と振り返り、同情するだけで終わっていないだろうか。3月11日の前後に過去のこととして思い出すだけでなく、過去の教訓を未来に活かしたいものだ。
東日本大震災だけでなく、阪神淡路、熊本、北海道胆振東部、能登半島と結構大きな地震が数年置きに起こっている。首都直下や南海トラフなど大規模地震が予測されている地域だけの問題ではなく、大地震は日本中どこで起こってもおかしくない。
さらに、最近無視できなくなっているのがサイバー攻撃やウイルスによる被害だ。ウイルス感染させてコンピュータをロックしたり暗号化して使えなくさせ、それを解除する「身代金」を要求するランサムウェアという手口も横行し、何ヵ月にも渡って業務が停止、支障を来したという事例が増えている。大手企業ではニュースにもなるが、ニュースにならないだけで中堅・中小企業でも被害が発生している。
DDoS(ディードス)攻撃と呼ばれるサーバー攻撃も増えている。これは複数のコンピューターから大量のアクセスを送りつけて、ウェブサイトやサーバーなどの運用を妨害するもので、侵入や破壊されるわけではないので、逆に防ぐのが難しいものだ。家には入られていないけれども、家の前の道路を渋滞させて家に入れない(出られない)ようにするわけだ。戸締りして鍵をかけていても意味がないことになる。
サイバー攻撃を受けて、事業活動ができない、もしくは業務に支障が出た場合の対応マニュアル、対応手順、対策は立てられているだろうか。
もっと言えば、テロ、紛争、有事への備えはどうだろうか。日本は徴兵制もなく平和が当り前のようになっているが、紛争地域に隣接した危険なエリアにあることを忘れてはならない。何かあった時に、自国第一を掲げる米国が守ってくれる保障はどこにもない。
加えて、これは日本全土というわけではないが、富士山の噴火もあり得る。もし、噴火すれば降灰は首都圏にも及び、灰が30センチを超えるほど積もる可能性もあるとされる。そうなると、電気、水道などのインフラはもとより交通網もストップし、都市機能は完全停止すると言ってもいいだろう。
富士山は5600年前から小中規模を含めて約180回噴火しており、1707年の「宝永噴火」から300年にわたって大きな火山活動がないものの、気象庁が噴火リスクを常時監視している活火山である。「宝永噴火」の時には途中に小康状態もありながら16日間降灰が続いたとされ、必要な備蓄は首都直下地震で推奨する1週間分よりも多く用意するべきだと内閣府が注意喚起している。
こうした、いつ起こるか分からず、その規模や強度も予測が難しいリスクに対して、企業がどこまで準備しておくかについては、個別の事情や判断があって当然だが、まったく検討もしていない、何の備えもない、という状態ではまずいだろう。滅多に起こらないことではあるだろうが、万一起こった時には致命的、壊滅的なダメージを被る。
非常時の水や食糧、避難用具などの備蓄は説明するまでもないので割愛するが、事業継続という観点からは、まずクラウド化・リモート化・拠点分散でリスク軽減しておく必要があるだろう。自社でサーバーなどを管理するのではなく、堅牢なデータセンター(クラウド)に置く。地震や水害にも強いし48時間までの停電なら自家発電もあるから耐えられる。
社員が出勤できなくなる可能性も高いので、リモートで仕事ができるようにしておくことも必要だ。普段から在宅勤務をする必要はないが、イザという時にはできなければならない。何の準備もせずに自宅にいたのでは、在宅勤務ではなく自宅待機でしかない。
そして、ビジネスが一定の規模を超えていたら拠点を分けたい。できれば東日本と西日本くらいに距離をとってどちらかが被災、被弾、被爆、倒壊、焼失、占領されても、一方の拠点で事業継続できるようにしておきたい。
何としても守りたいのが、社員およびその家族の人命、そして顧客情報である。何か起こったとしても命さえあれば再起は可能だ。そして再起しようとした時に必要となるのが顧客情報である。
社員の安否確認は発災時に自動発報するデジタルツールを用意しておきたい。電話やメール、チャットなどで連絡するといった誰かが手動で行うようなものでは、イザという時の対策にはならない。建物が倒壊して下敷き、生き埋め状態になっているような場合でも、安否確認で応答があれば位置情報が分かって救出もしやすい。
顧客情報は、当然デジタル化、データベース化してクラウドに置いておく。データのバックアップも東日本と西日本に分けて分散させておきたい。顧客対応を考えると、社員のスケジュールとメールデータも必要だろう。
問題は、火山の噴火による降灰で、電子機器が使えなくなったり、地震や津波、被弾によって停電が長期化した場合だ。サイバー攻撃でせっかくバックアップしてあったデータが見れなくなった場合も同様だ。
普段の情報の取り回しや短期間のバックアップを考えれば、デジタル化が有効で、クラウド化もリモート化もそれが前提となる。しかし、一週間、二週間、さらにはそれ以上長期化した場合、デジタルだけでは解決できない。そこで必要となるのが、究極のバックアップ、紙による情報保全だ。せっかく紙からデジタルに移行したのに逆行することになると言うなかれ。情報の取り扱いはデジタルにすべきであってそれが正しい。だが、万が一のための、究極のバックアップと考えれば、紙でもバックアップしておきたい。
先日、あるIT企業の人に、紙による究極のバックアップの話をしたら、「時代に逆行していますね。停電に備えてローソクを用意しておくようなものに過ぎない」と一笑に付された。自分達が進めて来たペーパーレス化、デジタル化への反論、反対と捉えられたのかもしれないが、万が一の究極のバックアップではIT業界は自己矛盾を抱えてしまいアテにならないことが分かった。笑われた私の答えは、「まさにそのローソクですよ」というもの。停電への備えとして、ローソクや懐中電灯を用意しておくべきなのだ。みなさんはローソクや懐中電灯を用意しているだろうか。もし、用意がないなら、万一の時のために用意しておこう。
IT業界に期待していても、究極のバックアップ体制を作ってくれそうにないので、仕方なく自社で作ることにした。定期的に顧客情報やスケジュール情報を紙に超極小の文字でプリントアウト(資源とコストを節減)して、それを耐火金庫か鍵付きのキャビネットに格納する。マイナンバーの保管に準ずれば良いと思う。社員個々人のメールデータを紙で出すのはプライバシーの観点からも微妙な話になるので、スマホのアプリにバックアップさせる仕組みを作った。急な停電でもスマホの充電が残っている間は情報を確認できる。紙による究極のバックアップがあれば、サイバー攻撃で自社データが見れなくなった際にも有効である。
イザという時にしか役に立たないし、役に立たずに終わった方が良いようなものなので、究極のバックアップ機能は無償で提供することにした。イザという時にローソクよりは役に立つと思う。
いずれにせよ、もし、大地震、大津波、大水害、長期大規模間停電、サイバー攻撃、富士山の噴火など万が一の事が起こった時のことを想定して、自社の事業継続についてイメージトレーニングしておくことをおすすめする。社員の安否確認は予行演習もしておいた方が良い。避難訓練もそのためにやっているだろう。ビジネスの避難訓練も万一に備えてやっておくべきなのだ。
2025年3月
2025年 乙巳(きのと み)
トランプ大統領の復活で幕を開けた2025年。トランプの動きに世界中が振り回されて右往左往している。なぜトランプに再度出番が回って来たのか。トランプに託された役割は何か。何かしらの意図があるだろうが教えてもらえるわけがない。彼が起こす変化がプラスに作用するかマイナスに作用するかはなかなか見通せない。
乙巳(きのと み)のキーワードは、再生と復活であり、脱皮し変化する年となる。
相場の格言に「辰巳天井」という言葉がある。辰年と巳年に株価が天井をつけやすいというものだ。昨年の辰年には日経平均の最高値を更新した。まさに新たな天井を示した格好だ。巳年の2025年にさらに天井を高くできるかどうか。いずれにしても、辰巳が天井ならやがて下降局面に移ることになるだろう。
トランプはドル安に誘導して輸出を有利にしたいところだろうし、それに呼応して日銀も金利を上げたが、いずれも物価が上がって、金利差は縮まらず、結局ドル高円安に逆戻りとなる気がする。
だが、そんなことばかり考えていても、自社の経営は良くならない。株式市場がどうであれ、為替相場がどうであれ、大切なことは自社が確実に利益を生み出すことである。環境変化は必ずあるのだから、金利が上がろうとも、円安になろうとも、キッチリと利益を残せる経営をしたいところだ。
「2025年問題」も「2025年の崖」も何年も前から言われていたことなのだから、今さら言い訳にはならない。そこでどうするのかを考えるしかなし。
脱皮である。そして再生。
トランスフォーメーションだ。
人口が減るのだからデジタルトランスフォーメーション(DX)は必須。言うまでもなし。
自社の事業、ビジネスモデル、事業戦略、経営方針を過去のしがらみに囚われず見直すべし。過去から脱皮し、再生しよう。
株式相場に左右される必要はないが、「辰巳天井」を忘れないようにしたい。今年が天井で、来年以降は下がる一方だと想定してみると良い。今年のうちに何とかしておくべきことが見えて来るのではないだろうか。
今年は変革の年である。脱皮し生まれ変わろう。
2025年1月
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