代表長尾が語る経営の道標
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2023年版 経営の道標
顧客とつながると事業はサービス化する
DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉も食傷気味になって来たが、今やビジネスをより発展、成長させようと思えば、デジタルの活用を無視することは出来ないから、DXブームももうしばらく続くことになるだろう。あまり好きな用語ではないし、日本人には理解しにくいようにも思うのだが、現状の業務や仕事をそのままデジタル化する、ペーパーレス化するのではダメなんだという主張を含んでいる点で、まぁDXでいいか、とも思う。デジタイゼーションとデジタライゼ―ションとの違いは・・・などと更にややこしい話にするよりは、DXで経営の在り方も変える、デジタルを活用するだけでなく、経営戦略やビジネスモデルも見直すと考えた方が話が早いとも言える。
前置きはこれくらいにして、今回言いたいことの結論を先にお伝えしておこう。DXを進めようとすると、顧客とつながる仕組み(コネクティッド)を実現したくなる。そして顧客とつながれば、モノを売って終わり、にはならず、そのモノ(商品や一過性のサービス)を利用・活用・使用・消費してどのような便益が提供出来ているのかという問題を無視することが出来なくなる。それによって、ほぼすべての事業は、モノも含めてサービス(便益)提供するビジネスモデルへと転換しなければならなくなる。
なぜそうなるのかを考えてみよう。
DXが本当に意味のある取り組みになるのは、社内の業務効率化や生産性向上ではなく、社外に向けて、売上・利益獲得にデジタルの力を活用する時である。この点については、いろいろなところで述べているので良く分からない人は、この経営の道標の過去回なども読み返していただきたい。
社外に向けて、売上・利益を獲得に行くDXを「営業DX」と呼ぶことにしよう。営業DXの基本は、一度つかんだ顧客情報は、失注しようと受注しようと他社に浮気されようと休眠状態になろうとも、決して失うことなく、自社の営業プロセスを循環する無限ループを作ることである。
こう書くと、大変なことのように感じるかもしれないが、大福帳の時代から、顧客との取引情報を大切にするのは商売として当然のことであり、苦労して新規見込先や新規顧客を獲得したのであれば(人口減少時代の顧客減少期には尚更)、半永久的に大切にし、追いかけ、提案し続けたいと考えるのがビジネスの基本だろう。ただ、それがアナログな時代、紙で管理していた時代には、あまりにも労力がかかる割にいざその情報を取り出そうとした時に見つけるのが難しいという問題があったので、目先の売れそうな客ばかりに集中して、失注したような先は捨ててしまうようなもったいないことをしていただけである。
パソコンが中小企業でも使われるようになり、インターネットが一般に公開されるようになって30年が経とうとしている今でも、もらった名刺やせっかく書いてもらったアンケートをデータ化せずに紙のまま保管したり、場合によって捨ててしまっているような企業があるから、心当たりのある企業は大いに反省してデジタル化くらい考えよう。この話は営業DXの基本ではあるが、今回の本論からすると遠回りになるのでこのくらいにしておく。
顧客情報を突き詰めて行くと、その顧客が自社の商品やサービスを利用、活用して、どうなっているのか、どういう使い方をしているのか、その結果に満足しているのかといったことが気になるはずだ。その情報を獲得するための営業DXの取り組みが顧客とつながるコネクティッドである。IoTセンサーでもスマホアプリでも方法はいろいろあるが、何らかの方法で顧客とつながって、顧客の状況が分かった時に、その顧客の状況に応じてサポートしたり、情報提供したりしようと考えるのは当然のことだろう。
最近のクルマはネット接続されていて、走行状態も分かるし、事故が起これば当然分かる。さてそこでどうするか。各社いろいろな取り組みがあると思うが、これと同じことを御社のビジネスで考えてみるべきだろう。
売って終わりではなく、売ったところから始まる顧客とのつながりだ。売った後(顧客からすれば買った後)顧客は何に困っているだろう。いろいろあるはずだ。間違った使い方をしていたり、せっかくある機能や使い方を知らないようなこともあるだろう。売る側は納品して終わりにしているが、買う側は複数社から仕入れていて、それらをまとめて在庫管理するのに困っているようなこともあるだろう。
そこをどうするのかという問題も御社の事業領域に取り込むべきなのだ。顧客が困っていることを知ってしまったのだからお手伝いするのは当然だろう。自社のクルマに乗っていた顧客が事故に遭ったことを知ったクルマメーカーが、「うちはクルマを作って販売するまでが仕事なので、その後で、客が事故しようと知ったことではありません」と言ったら、貴方はどう思うだろうか。それと同じことを自社に置き換えて考えて見て欲しい。
営業DXを進めることで、モノ売りからサービス提供企業へとビジネスモデルが変わり、新たな収益源(もしくは差別化ポイント)が生まれることになる。DXとは何ぞや、みたいな上っ面な議論でお茶を濁すのではなく、さっさと取り組んでビジネスモデル変革が自ずと進むようにして行くべき時である。
2023年11月
インボイスと電帳法への対応はセットで
いよいよ10月からインボイス制度がスタートする。「実質的な増税だ」「免税事業者いじめだ」「そもそも消費税に反対だ」「間接税ではなく直接税だから益税はない」等々、インボイスを巡って反対意見も多いが、インボイス制度そのものの問題というよりは消費税の問題についての議論が多いように思う。根本は、付加価値税と呼ぶべきものを反対派をごまかすために消費税と名付けたところに問題があるのだろうから、今さら言ってもね・・・と思う。税理士の先生など税の専門家はインボイスに反対するのではなく、根本問題と戦って欲しい。
企業経営の実務、現場の立場に立てば、理想論やあるべき論はともかく、インボイス導入による作業負荷をどうするのかを考えなければならない。何と言っても面倒なのが、インボイス(請求書や領収書)を受領した際の処理である。税率ごとの記載があるか、事業者番号はあるか、などのチェックもそうだし、それらの条件で仕訳も変わる。経過措置なんてのもあるものだから、それも考慮が必要だ。レシートに記載されている事業者番号などは、字が小さ過ぎて老眼だと良く見えない・・・。間違いなく処理のミスも増えるだろう。
日々、多くの企業の実態データを見ていると、インボイスの発行については会計システムのバージョンアップやアナログでもゴム印対応で何とかなっても、この受領側での対応が出来ておらず、負荷が増大する企業が多いように思う。
インボイスは将来的に電子インボイス(Peppolと呼ばれることもある)に統一するという話もあるから、デジタル化の流れは止まることはないだろう(現状の日本企業の実態を見ているといつのことになるやら・・・と思うが)。いずれそういう対応もせざるを得ないことを考えれば、反対ばかりを唱えていないで、さっさとインボイスのOCR読み取りから自動仕訳をし会計システムにデータを流す仕組みくらいは取り組むべきだと思う。
インボイスのOCR読み取りは、複合機のスキャンでもできるし、スマホのカメラでもできる。そこで読み込めば小さな文字だろうが自動的に登録され、必要なデータを加えてやれば、自動的に仕訳もできる。それがデジタルデータなのだから、会計システムにも流し込めば良いので、経理の手間は圧倒的に削減できる。さらにここで重要なことは、そのOCRの読み取りを、各人、各社員が行う「分散入力即時処理」にすることだ。わざわざインボイスを経理部に集めて、まとめて処理すること自体がデジタルの世界ではナンセンスだからだ。この業務の流れ、証憑の流れを変えるから業務プロセス改革となる。単にシステムを導入すれば良いという話ではないわけだ。
そして、このインボイス対応ができれば、2023年末に宥恕措置が終わる電子帳簿保存法のスキャナ保存にも対応できることになる。それによってペーパーレス化が進んで、さらに効率がアップするし、紙の保存をしていた無駄な保管コストも削減できる。
電帳法で義務化される電子取引の電子保存についても、「分散入力即時処理」ができるようになっている必要がある。各社員がメールやWEB上で取引したものをわざわざ経理にデータで送って、経理部門が改めてデータ保管するというのも全くもってナンセンスなデジタル化だからだ。電子取引した際には、その場で各人がデジタル処理をしておしまい。データは共有されるのだから、各部署・各人から経理部に送るということ自体が不要なのだ。
電帳法の宥恕措置が終了するまであと3ヵ月となったところで、インボイス制度がスタートするわけだが、これを別々に考えるのではなく、セットで対応することを考えるべきである。そして、どうせ対応するのであれば、業務のプロセスを変えて、DX(デジタルトランスフォーメーション)の端緒とすべきである。
インボイスに対応しようとも、電帳法に対応しようとも、税務上の最低限の対応だけであれば、企業経営には何のプラスもなく、手間とコストが増えるマイナスが生じるだけである。だが、この法改正を契機として業務改革を行えば、経営スピードが上がり、コストも下げられる。さて、貴社はどう対応するか、よく考えてみていただきたい。
このご時勢に、インボイスも電帳法も紙で充分、アナログ処理でいいと指導する税理士さんを顧問にしている企業は、この機会に税務顧問を変えることをおすすめする。税金のために経営をしているわけではないのだから、企業経営を前に、上に、未来に向けてリードしてくれる先生を探すべきである。
2023年9月
給与を上げ価格を上げ余剰利益は還元せよ
人手不足、採用難が広がっている。ニュースとして報じられることも多いし、実際クライアント企業を見ていても、求人を出しても応募がないというケースが少なくない。それに対して、外資系や大手企業は時給アップ、給与アップを進めている。そこで中堅・中小企業はどうするか。
どうせ最低賃金も上がることになるだろうから、先手を打って給与アップするしかなし。特に最低賃金ギリギリでパート・アルバイトを使っているような場合には、何とか安く雇用したいという発想から相場より少し高くても前向きな人材を確実に確保するという発想に転換してもらいたい。時給が低くては応募もないから、結局採用費にコストがかかる。タイミーなどの即日短時間バイトに頼ると、その場は凌げても結局高い時給を払っていることに変わりはなくなり、人は入れ替わり立ち替わりで習熟度も上がらない。
「そんなに時給を上げたら採算がとれない」という場合は、値上げをすべし。世間は値上げラッシュで、実際、原価や経費のコストも上がっているわけだから、値上げには絶好機である。私の肌感覚ではあるが、それなりの商品を提供できているなら、5%から10%程度の値上げは充分可能だと思う。(商品力にそれだけの自信がないという会社は、魅力のない商品を人に頼って売りつけようという考えから見直しを。)
値上げして収益が改善されたら、そこからさらにもう一段時給を上げよう。上げ幅はわずかでも良いが、今度は対象となるスタッフに目標も与えてみよう。たとえば、5名のパート・アルバイトがいる店舗があるとしよう。話をシンプルにするために常時5名体制で、社会保険など付随的なコストは置いておくこととする。そこで時給を20円上げたとするとその店舗における1時間当たりのコストアップは100円である。それを踏まえて、スタッフに「もっと良いお店にしたいから皆さんの時給もさらに20円アップさせてもらいます。これはお店としてのチャレンジです。その分皆さんは1時間にプラス1点(もしくは2点・粗利額100円分)頑張って追加売上、追加注文、点数追加を作ってもらいたい」といった趣旨の話をして欲しい。
スタッフと一緒に、時給20円上げながら1点売上追加するゲームをするようなものだ。結果が分かるようにデータは見える化しよう。これをゲーミフィケーションと言う。間違いなく時給アップ以上の成果が出るはずだ。
現場の仕事は、スタッフが前向きに取り組むようになれば、生産性も上がるし、楽しくもなる。感じも良くなるから客も喜ぶ。そうすれば定着率も上がり、採用難も解消され、結果として収益改善もされる。
それで客数も落ちず、買上げ点数も落ちなかったら、まだ値上げの余地があるから、さらに価格改定をしても良い。顧客支持のある強いアイテムとそうではないアイテムの見極めをしながら取り組んでみよう。
そして次に、自社の適正利益率を定める。これは現場単位、店舗単位ではなく、全社の営業利益率か経常利益率で設定した方が全社員の意識が高まって良い。全社員、全スタッフが頑張って売上を作り、経費削減に努め、効率よく働いてくれたら利益が出る。それがもし適正利益率を超えたら、それは儲け過ぎか、コストを絞り過ぎの「余剰利益」だから、社員もしくは顧客に還元するというルールを作ろう。ここで、利益は最大化するべきだとかグローバル企業みたいなお題目を唱えないことが重要。
還元方法は、まず決算賞与で社員に還元。次に値下げもしくは商品改善で原価率のアップを行う。これができれば社員も気分が良いだろうし、顧客も嬉しいだろう。商品が良くなり安くなったらまた顧客が増え、買上げ点数が増えて、利益が出る。このサイクルが回るようになったら、企業経営のサスティナビリティが上がったと言える。
せっかく値上げしたのに、また値下げするのか?と疑問に思う人もいるかもしれないが、値上げも値下げも全商品一律にやる必要はない。商品価値(すなわち顧客支持)に応じて上げるものもあれば下げるものもあると考えよう。そんなことができるのも、現場の社員やパート・アルバイトが頑張ってくれてこそだから、まず給与を上げる。
給与を上げ価格を上げ余剰利益は還元する「善循環」を作り出そう。但し、順番を間違えてはならない。
2023年7月
事業継続への備えを見直そう
コロナ禍が終息し、未だマスクの着用を続ける人はいるものの、外国人観光客も戻ってきてコロナ前の状態に近づいているように思う。「あぁ、良かった。やっとコロナが終わった」と油断していたところにやって来たのが地震だ。
2023年5月、能登半島、千葉県南部、トカラ列島と来て、さらに日本からは遠いが南太平洋でもマグニチュード7以上の地震が数回起こっている。弊社で運用中のグループウェア「NI Collabo 360」のポータル画面には、地震発生時に自動発報される安否確認の結果が並んでいる。土日だろうと夜中だろうと地震が起これば自動的に安否確認してくれる。全国に社員がいるから自分がいる場所が揺れていなくても大きな地震が起きていれば把握しておかなければならない。ちなみに弊社では震度5以上で発報するように設定している。
震度5クラスであれば結構揺れて被害も出たりはするが人命にかかわるようなことは少ない。だが、このくらいで運用しておくことで予行演習にもなる。どうしても通知に対して応答しないような人、スマホにアプリを入れない人などがいたりするから、イザという時に使えなかったとならないように運用しておきたいところだ。
地震は連動して起こると言われるし、大地震の前にちょっと小さめの地震が起こるとも言われる。首都直下地震や南海トラフ地震など数十年内に確実に起こると予測されている大地震のリスクもあるから、日本全国、いつどこで大地震が起こってもおかしくないと言えるだろう。さて、あなたの会社では地震発生時の対応について事業継続計画を立てて対策しているだろうか。
弊社では自動発砲安否確認機能である「NI Collabo NOW!」を提案することがあるので、多くの企業の対策状況をつかめているのだが、災害発生時の安否確認方法すら準備されていない企業がほとんどだ。「電話かチャットで確認します」という程度が多い。イザという時に、電話もチャットもできなかったらどうするのか、できたとしてもその情報を誰がどう取りまとめて、事業継続上の判断は誰がどうするのかといったところまで考えられていない。弊社では実際に2011年の東日本大震災の時に社員の安否確認に苦労したから「NI Collabo NOW!」を作った。イザという時にしか出番がないが、イザという時がやって来てから後悔しても遅いのだ。
そんなことを考えていたら、ちょうど社内に備蓄していた非常用食糧が期限切れになったということで、フードロス対策もあって廃棄せずに社員に配られた。私も試しに食べてみようと思って、水を入れるだけでご飯が食べられるというアルファ米を食べてみた。封を開け、脱酸素剤を取り出し水を入れるだけ。お湯の方が速いのだが非常時のテストだから火も電気もないことを前提に水でやってみた。待つこと60分。「美味い!!」ということはないが充分食べられる味だ。水を入れただけだから熱さもなくぬるい感じだが、非常時なら文句は言えまい。こうした非常食の試食もしておくといいように思う。
と思っていたら、弊社の本社がある品川のビルでちょうど避難訓練があった。常備してある防災ヘルメットを被って19階から地上へ降りる・・・。まるで苦行のようだが、ヘルメットの置き場所も確認できて良し。あなたの会社ではこうした天災への備えは十分だろうか。
もちろん天災は地震だけではない。もうすぐ梅雨がやって来る・・・。このところ毎年のように各地で水害が起こっているわけだから、こちらも備えておかなければならない。さらに台風シーズン。風水害の際には、直接の被害だけでなく、交通機関が止まったりして出社や移動ができないという事態が想定されるから、やはりいつでもテレワークができるような体制にしておく必要があるだろう。常時テレワークする必要はないが、コロナ禍が終わっても、イザという時にはテレワークできる体制は必須である。あなたの会社では備えは万全だろうか。
天災は忘れた頃にやって来る。地震や風水害はもちろん、コロナを忘れたころに新しいパンデミックが来るかもしれない。油断せずに事業継続への備えをしておこう。
2023年5月
AIによる「省人数経営」へ
あのMicrosoftが巨額出資をしたOpenAIによる、ChatGPT、GPT-4が話題になっている。生成型AIと呼ばれたりもするが、事前に学習された大規模言語モデルにより自然な会話のような受け答えができるというものだ。そしてそれがすでにMicrosoftのサービスに組み込まれて広く使われようとしている。
経営者向けの「経営の道標」としては、AIの技術的な内容を理解する必要はない。押さえておくべきことは、彼らAI企業、テクノロジー企業が「AIの民主化」「技術の民主化」を志向しているということだ。マニアックな技術で、高価なために一部の人や企業にしか活用されないというものではなく、誰にも使いやすく、安価に提供することを彼らは目指しているわけだ。
OpenAIのCEO、サム・アルトマンがテレビ東京のインタビューで、「ChatGPTのAPI使用料を安くしたのはなぜか?」と質問されたのに対し、「私たちは普通の企業とは違うんですよ。非営利団体によって運営されています。会社の目標は技術を民主化し広く普及させることです。もし安価に提供できる技術ができた時にはすぐに値段を下げます。昔ながらの企業のように利益を最大化することは狙っていません。」と答えている。
APIとはApplication Programming Interfaceのことで、他のシステムと連携させる口を用意することを指す。すでにOpenAIのGPTには他のシステムと連携させるための口が用意されていて、その料金の引き下げも行われているということだ。今までの常識なら、世界中で話題になるほどの技術でありサービスなのだから、自社で抱え込んで、利用料も高くするのが普通だろう。だが、OpenAIはそうはしない。なぜなら「技術の民主化」をしようとしているから。
利益を最大化することを目指すのは、「昔の」企業であるとまで言い切っている。それを、素晴らしい、大いに結構だと喜んでばかりはいられない。最先端の技術が安価に開放されて世間に広まるわけだから、それをうまく活用して自社のビジネスにつなげる企業と「AIなんてうちの会社には関係ない」と知らん顔して出遅れる企業との差が一気につく可能性があることに注意して欲しい。
もちろん、まだこのOpenAIが世界中のスタンダードになると決まったわけではない。Googleも対抗するだろう。最近は聞かないがIBMのワトソンはどうなったかな? AIがどこまで使えるものになり、どれだけ働き方を変え、人間の仕事をどれだけ置き換えることになるかはまだ分からない。だが、「だから関係ない」と無関心でいてはならない。
50代以上の経営者ならインターネットが登場した時のことを思い出して欲しい。日本では1994年の暮れに商用利用が始まった。当時の通信回線は普通の電話線で、モデムという機器をつないでピーピーガーガー言って画像一枚見るのにも待たされるような代物だった。とても仕事には使えない、ビジネスでは利用できないと多くの人は思っただろうが、AmazonやGoogleはその可能性に気付いて起業したし、日本でもホリエモンや楽天が立ち上がった。98年頃までは自社のホームページがあるだけで進んだ企業のような感じがしたが、今やそんなものでは差別化にもならない。大切なことはそれに気付いて追いかけようと思った時にはAmazonやGoogleが世界を席巻していてとても勝負にはならなかったということだ。
インターネットは民主化され、誰もが安価に使えるようになった。スマホがあればPCもいらない。一般の人は「あぁ、便利になったな」と感想を述べていれば良いが、経営者は民主化される技術を活かしてどうビジネスを作るかを考えるべきだろう。今度はAIが、民主化されようとしている。さて、そこでどうするか。経営者はその問いに答えなければならない。
経営の道標で、再三指摘している「省人数経営」もAIの民主化によって急速に進んで行くだろう。組織の在り方、経営の考え方、働き方が大きく変わって行くことになる。少なくとも日本国内は、人口減少で、顧客も働き手も急速に少なくなる。昨年の出生数は80万人を割り込んだ。従来の想定以上に人口減が加速している。間違いなく人手は減り、AIの民主化も進むのだから、答えは明らかではないかと思うが如何だろうか。
さらに、考えておくべきことは、サム・アルトマンが「昔ながらの企業のように利益を最大化することは狙っていない」と述べたことだ。企業経営のあるべき姿が変わろうとしている。実際に変わっているという現実があるということ。AIにせよITにせよ、デジタル技術は限界費用が限りなく小さくなる。だからIT巨人たちは巨額の利益を上げるわけだが、それを安くされたら・・・対抗のしようもなくなるだろう。競合がAIなどのデジタル技術を駆使して高品質の商品やサービスを安価に提供する仕組みを作ったら、貴方の会社はどうやってそれに対抗するのだろうか。やられる前に先手を打って自社がそれを実現するべきではないのかと考えてみる必要があるだろう。
私は、自社の「適正利益」を決め、それを超えた利益は値下げなどの形で社会に還元する「余剰利益還元理論」を提唱している。「昔ながらの利益最大化」ではダメなのだ。なぜダメなのか説明したいが長くなるので別の機会に譲ることにする。
テクノロジーの民主化によって経営の在り方、人々の働き方が変わろうとしている。流行りのDXもそこまで考えて取り組むべきである。だからデジタル化で終わらずに、X(トランスフォーム)することになるわけだ。ChatGPTやGPT-4は、目に見えるから話題になっているが、大切なことはその裏に目には見えない変化が生じていることである。
2023年3月
2023年 癸卯(みずのと う)
いよいよコロナ騒動も終わりを告げ、これまで押し込められてきたエネルギーが溢れ出て、ウサギのように飛び跳ねる年になるかどうか。いずれにせよ、時代の変わり目、時流の分水嶺となる一年になるだろう。
しかし、ウサギはウサギ。跳ねはするが空高く飛び上がりはしない。飛び出たかと思ったら、すぐに穴にもぐるウサギもいる。天敵も多い。今年は、再生、復活、好転する可能性が高まるが、まだまだリスクへの備えが必要になるだろう。グレートリセットされて、ゼロから再生するしかない状況に突き落とされる懸念もある。
グレートリセットはなくても、日銀総裁の交代による金融政策の変化がどう影響して来るか。紛争の長期化による食糧危機、エネルギー危機にどう備えるか。物価上昇に対応して大企業を中心に賃金上昇も見られるだろうが、最低賃金スレスレで攻防している中小企業にとっては、採用面でも収益面でも苦しい展開が予想される。
追い詰められ、行き詰まって、穴の中に逆戻りしなくていいように、自社の付加価値を高めて収益率の改善に取り組み、賃金の引き上げも他社に先んじるくらいの勢いが欲しい。
「それができたら苦労しない」「それができないから困っているんだろう」と自ら弱者・敗者であることを認めて開き直っていては、何も改善しない。時代の変化、時流の分かれ目を乗り切り、生き残っていこうと思うなら、やるしかないのだ。せっかく飛び跳ねるチャンスなのに、穴の中でじっとしているだけでは、仮に景気が良くなっても、採用難の人手不足倒産となり、景気が悪くなったらそのまま力尽きて終わりとなる。
ではどうすれば良いのか。
日本は人口減少で、働き手が急速に減り、顧客数も増えないのだから、デジタル武装して「省人数経営」をするしかない。そのためには、業界の常識も捨て、ビジネスモデルも変える覚悟が必要だ。現時点のテクノロジーを前提に、自社のビジネスを再構築してみることをおすすめする。ほとんどの企業が、戦後、高度成長期、パソコンもインターネットもなかった時代のビジネスモデルのまま進化できていない。パソコンが当り前になり、スマホを常時持ち歩くようになったものの、やっていることは紙の時代にやっていたことの載せ替え、置き換えであり、多少スピードが速くなった程度で終わっている企業がほとんどだ。もっとドラスティックに、業務プロセスを見直し、人の配置も見直し、本当にその業務が必要なのか、そこに人を置かないといけないのか、それが顧客にとってどれだけの価値を生んでいるのかと考えてみるべきである。
そうすると、やはり流行りのDX(デジタルトランスフォーメーション)かということになる。またDXか、と辟易する人もいるだろう。「デジタル人材がいない中小企業のためのDX入門」なんて本を書いているから言っているだけではないのかと疑いたくなる人もいるだろう。
そうではない。
本を書いたからDXを唱えているのではなく、DXが流行っているから本を書いたのでもなく、すでに20年以上前からデジタル活用や「省人数経営」を提唱しているのであり、まさにここに来てデジタル活用待ったなしとなったから本も出したのだ。そもそもDXなる言葉も気に入らないのだが、単なるシステム導入ではなく、会社を変え経営を変えるデジタル活用を指す言葉として便利なのでDXと言っているに過ぎない。
話は逸れたが、デジタルは手段であって、目指すのは「省人数経営」であり、企業変革だ。どんな危機がやって来ても耐えられる強靭性、ウサギのような俊敏性を身につけておくべきだということだ。
奇しくも今年は、10月からインボイス制度が始まり、12月末で電帳法の宥恕措置が終わる年である。法改正に対応することは個々の企業にとって何のメリットもないし、手間が増えるだけだが、対応するしかないのだから、これを良い機会としてデジタル活用を進めるべきである。まともな企業体なら、インボイスも電帳法もアナログでの対応は無理だと思うので、システム導入は必須だろう。しかしせっかくシステムを入れても、最低限の法対応をするだけであれば、手間が減りはしてもメリットがないのは変わらない。
そこでどうせシステムを入れてデジタル化を進めるのなら、それを活かして、業務プロセスを変え、経営のスピードを上げよう。それができたら、デジタル活用の基礎ができたことになるので、続いてビジネスモデルの見直しだ。自社の経営を根本から見直し、デジタルをフル活用してどういう経営にすべきかを考えれば良い。
デジタル化、システム活用のメリットは明らかなのに、未だに「アナログでいい」「紙のままでいい」「システムなどいらない」と言っている専門家や経営者がいるが、本気でそんなことを考えているのだろうか。ジリ貧になって、そのまま消え去りたいのならそれで構わないが、生き残る意思があるのなら、気休めみたいなことを言って先延ばししていないで、インボイスと電帳法を良い機会としてデジタル化を進め、企業体質強化に着手すべきである。
ウサギは可愛く、のんびりしているように見えて、種類によっては時速80キロに迫るスピードで走るそうだ。癸卯(みずのと う)の年には、ウサギの俊敏性に負けない経営をしたいものである。
2023年1月
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