代表長尾が語る経営の道標

弊社代表長尾の経営に関するメッセージを
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2010年版 経営の道標

経営の道標11月

中小企業こそ新卒採用を

 就職内定率が「就職氷河期」よりも悪化していると言う。そんなことを言っている間に、すでに2012年度の新卒採用がスタートしている。現4年生はさらに厳しい状況になるだろう。しかし、実際には大手志向の学生と優秀な人材が欲しい中小企業の求人とのミスマッチに過ぎない。中堅・中小企業にもピンからキリまであるし、その中でも業績がよく前向きな経営をしているところは常に優秀な人を求めている。もし、この「経営の道標」を学生諸君が読んでくれたら、大手企業にばかり目を向けず中小企業にも視野を拡げて欲しいと思う。
 確かに、平均値をとれば、大企業の方が待遇も良く、中小企業の方が給与水準なども低い。だが、中小企業と言ってもその数は何百万社もあり、平均値では判断できない。自分一人が勤めることができるのは常に一社だけだから、実は本人にとっては、平均値など関係ない。たとえば、大企業の平均年収が800万円で、中小企業の平均が600万円だとしよう。これはあくまでも平均値である。大企業に入れば必ず800万円もらえるという保証があるわけではないし、中小企業に入ったら600万円しかもらえないと決まったわけでもない。大企業であれば、給与規定などもバシッと固まっているからいくら出世しても上限が1500万円だとしよう。それ以上は役員にでもならないともらえない。だが中小企業であれば、その辺は柔軟で、2000万円もらえる人がいたって構わないという会社もある。
 そもそも大企業だからと言っても、常に業績が良いわけではないし、潰れることだってある。これからの時代は、会社なんかアテにしないことだ。中小企業に入って若いうちから色々と仕事を任され、仕事を覚えて、将来は起業するという道もありだろう。そうなれば3000万でも5000万でも好きなだけ稼げばいい。会社が社員の人生や収入を保証できる時代ではないのだ。収入の面だけではないが、会社に与えてもらおうとせず、自らが稼げる人になれば良いだけだ。
 JALを見てみよ。そもそも親方日の丸の会社だって破綻するのだ。GMを見てみよ。世界一と言われた米国企業だって破綻するのだ。国鉄も、電電公社も、専売公社も、郵政公社も民営化された・・・。これから人口減少ということになれば、公務員だって減員するしかない。日本国自体が財政破綻するのではないかと言われる時代に、公務員だからと言って保証してくれるかどうか、かなり怪しい。
 大切なことは、平均値の高そうなところへ就職するのではなく、自分自身が一番成長できて、一番稼ぐ力を身につけられそうな仕事を選ぶことだ。そう考えれば、中小企業の中にも、とても素敵な職場があり、厳しく育ててくれる会社がたくさんある。
 若いうちからどんどんチャンスを与え、成長機会を提供できる自信のある中小企業は今こそ新卒採用に積極的になって欲しい。そして上述のように「会社なんかアテにするな」と学生に説いて欲しい。当然自社のことも「アテにするな」と説かなければならない。中小企業のくせに(くせにと言っては失礼だが、学生はそう感じるものだ)、「うちはいい会社です。安定しています。うちに入れば安泰です」みたいなことを言ってはならない。そんな保証ができる会社はないのだ。大企業だってできないのに、中小企業がそんなことを言ってはならないし、そんなところで競争してはならない。「会社なんかアテにはならないし、JALだって行き詰る時代なのだからうちの会社もどうなるかは分かりませんが、皆さんに成長の場、修練の場を与えることだけは自信があります」くらい言って欲しい。
 日本の将来において、問題なのは、学卒時にまともに就職できず、社会人としての初期教育をまともに受けていない人が増えることだ。これは少子化問題においても、教育問題においても、治安維持においても、将来必ず影響が出てくると思う。卒業後何年間新卒扱いするかどうか、なんてことでは解決しない。そもそも学生が行きたがる大企業が新卒で就職できなかったような周回遅れの人材を採用するわけがないし、留年して就職浪人したってすぐにバレる。大学院に行っても今は「なんちゃって大学院生」が多いことを企業も先刻ご承知だ。
 大企業が受け皿になれないなら、中小企業が社会人初期教育を担うしかない。大企業に任せておいてうまく行くはずがない。そもそも大企業の採用数は限られているし、大学の進学率が50%を超えたというのに、大学を出た人間が全員大企業に入れるわけがない。学生諸君も冷静に己の置かれた状況を考えよう。
 2012年入社の採用活動、就職活動はすでに始まっている。学生は危機感を持って去年以上に動きが活発だ。中小企業にも学生と出会えるチャンスがあるし、出会ったら「会社をアテにせず自己成長を選べ」と説得しよう。条件採用、能力採用ではなく、価値観採用だ。価値観の合う人を採る。学生の中には労働観、仕事観、会社観のない人がほとんどだから、それを作ってあげる採用活動が重要だ。
 「学生は大手志向だから」「今の若い人は中小企業には来てくれない」と言い訳するのではなく、中小の良さ、自社の価値を伝える努力が足りなかったことを反省しよう。もちろん、大企業を受けたけど落ちてしまって仕方なく中小に入りますといった負け犬根性の人材を採用してはならない。負け犬になる前に採用してあげよう。
 大手企業は、就職活動の早期化が問題だとして、採用選考を遅らせる案を出しているが、それこそ負け犬学生を増やし、就職活動が余計長期化して学業に影響が出ることになる。大手を受けて落ちまくり、自信喪失して、自分の存在を否定されたような気分に若者を追いやる前に、中小企業が救ってあげよう。
 新卒時に就職できなかった人材を助成金目当てに採用するなんてことはもってのほかだ。そんな「お得だから買っておこう」みたいなバーゲンハンターのような扱いを人に対してしてはならない。助成金がもらえる期間が終わったらポイ捨てするようなことになる。
 と、偉そうなことを書いているが、実は昔、私も助成金をもらって人を採用したことがある。助成金が出るからと思って、つい採用が甘くなった・・・。そして全員辞めて行った・・・。少しばかりの助成金はもらったが、結局無駄なコストを払うことになったし、採用した人たちにも時間を浪費させて申し訳ないことをした。特に新卒採用はその人にとって社会人生活をスタートさせる一生に一度の節目だから、安易な採用をしてはならない。
 ところで、ようやく「経営の道標」としての本題だが、新卒採用に取り組むためには、長期、中期の経営ビジョン、経営計画を明確にしなければならないという、経営改善効果がある。本来は、長期、中期の計画に基づいて新卒採用、中途採用の計画が決まるのが正しいが、逆でもいい。新卒採用をしようと決めれば、現時点ですでに2012年4月の人員計画を明確にしなければならないことになる。1年半くらい先を読んで意思決定する必要がある。
 そして、さらに採用活動においては、学生に対して10年後20年後のビジョンを示す必要がある。過去から現在までの説明をしても中堅・中小企業には魅力がないからだ。過去と現在では大企業に勝てない。だが、大切なのはこれから先であって、若者は未来に生きる。過去に生きるのではない。だから若い人材に対しては未来を示す必要がある。それで学生諸君が魅力を感じてくれないようでは、そもそもその将来ビジョンに希望の光が見えないということであって、それを見直す良い機会になる。学生に対して魅力を伝えることができないということは、それは中途採用においても同じことであって、「とりあえず職がないから給料さえもらえれば」という人でなければ採用できないことになる。中途採用ではそういう人もいたりするからついつい問題を見過ごしてしまう。その点、学生はシビアというか正直というかピュアだから、反応が分かりやすい。
 (これは余計なことだが、教育関係者が見てくれたなら、高校生の就職活動のあり方も是非変えて欲しい。味も素っ気もない求人票だけを見てただ試験や面接を受けるのではなく、もっと企業の実態、会社とはどんなものかを教えてあげる機会を増やして欲しい。卒業時に初期社会人教育を受けられない弊害は高卒の方が大きいと思うから・・・。)
 長期的なビジョンを明確にして、新卒採用に取り組もう。景気が悪いからと言ってすべての企業が悪いわけではないのだから、元気で前向きな中小企業は今こそ積極的に新卒採用に取り組むべきである。その際には必ず価値観採用をすること。そしてその人材を活かせる場を用意しよう。
 就職氷河期より厳しい「超」氷河期は、学生さんには厳しいことかもしれないが、企業にとっても採用される側にとっても、これから先の未来を真剣に考えるという点において良い環境だと言える。

2010年11月

経営の道標9月

新規開拓をルーティーン化し戦略的営業にシフトせよ

 多くの企業が新規開拓に取り組まざるを得なくなっている。デフレが続いて単価ダウンしているだけに、既存客だけを相手にしていたのでは、数量を維持できても、金額がダウンする。数量で給料は払えないから、額を稼ぐためには、数量を増やさなければならない。
 数量を増やすには、既存客により多く買ってもらうか、新規客を開拓してプラスアルファの数量を作り出すしかない。既存客を相手に簡単に数量を増やせるくらいならとっくに増やしているわけだし、数量でボリュームディスカウントして無理して数を出せば余計に単価ダウンとなってしっぺ返しが来る。ということで必然的に新規開拓せよ!という話になる。だから多くの企業が取り組んでいる。リーマンショック以降特にそういう企業が増えた。
 だが、ここからが問題だ。いつも新規開拓に注力している新規中心の企業はいつものことだから慣れたものだが(そうした企業も新規開拓が厳しくなって来ているが)、既存客が中心のルート営業をやっていたような企業が、急に新規開拓に力を入れようとしてもなかなかうまくいかない。そもそもルート営業で扱っているような商材の場合、売りに行った先には必ず既存の取引先がある。要するに競合が入り込んでいる。そこへ行くわけだから、必ず断られる。「間に合っている」「すでに頼んでいるところがある」ということになる。新規で行って、すぐに「じゃーお宅に頼もう」などということになるのは、取り込み詐欺か、支払いが悪くて既存の業者との関係が悪くなっているとか、まともな客ではないわけだから、よく言われるように、まさに「営業は断られたところから始まる」という意識で、少々断られても挫けずにアプローチしなければならない。
 しかし、ルート営業に慣れた営業マンは、断られ慣れていないから、すぐに挫けてしまうことになる。新規営業マンはHOT客でなければすぐに見切ってしまおうとする。
 こういう場合に、「とにかく毎日5件飛び込め」「一日10件の新規飛び込みをせよ」などと「手段固定」をやってしまうと、飛び込み件数だけをクリアしたらOKみたいな空気になって失敗することになる。成果が出なくても努力しているだけでやっている気になるし、やっても成果が出なければ「だから無理だって言ったんだ」「言われた通りに飛び込んだけど成果は出ないじゃないか」と、結局、指示した営業部長や社長のせいにして終わりである。
 まず、新規開拓はニーズがあって、競合に勝てそうな先をリストアップしてターゲットを明確にし、ストーリーを練った上で行うこと。思いつきや通り掛かったからという担当者任せの飛び込みではダメだ。勝つための戦略ストーリーが必要ということ。
 そして、行ったら必ず情報を取ってこさせる。すなわち、営業活動を「諜報活動」にする。失敗してもいいから情報を取ってこいということにすれば、営業活動から無駄がなくなる。行けば必ず情報は取れるから毎日成果が出る。断られても、価格で断られたのか、競合の関係か、時期の問題か、品質か、納期か、といった具体に理由が分かれば、それを蓄積してデータベース化しておく。次回は、そこで聞き出した購買ポイント、選定ポイントをクリアする提案を持って行く(クリアできる提案ができなければ行かないから無駄な活動を減らせる)。そうするとそれによってまた新しい情報が得られるだろう。「今年はもう無理だけど来年だったら見直しもあるかもよ」とでも聞き出せばラッキーだ。「来年というのはいつ頃ですか」と更に聞いて、「4月かな」とでも教えてもらえば、それをデータベースに書き込む。そして翌年4月か一ヶ月前の3月になったら行けばいい。時期が来たらそういうお知らせが来るようにシステムに仕込みをしておく。
 という具合で、何度か訪問し、コンタクトする内にだんだんと相手の情報が把握できる。こうして把握した情報に基づいて勝てる提案を持ち込む。何度も行っていれば人間関係くらいはできるから、提案くらいさせてもらえるだろう。このようにして新規開拓は進めていくものである。急に思い立ってやろうと思ってもすぐには成果が出ない。
 したがって、長期的展望を持ち、新規開拓を定常化、ルーティーン化して日々の活動に組み込み、その活動が無駄にならないデータベースを整備しなければならない。この一連の活動を私は、「顧客のダム」を作り、「観覧車」を回すと言う。この活動を組み込むことによって、営業活動から失注や無駄や徒労を排除する。実際、営業活動のほとんど97~98%は断られたり、怒られたり、雑用していたり、移動していたりで、受注や売上につながる成果の見える活動はほんの数%に過ぎない。これはつらい・・・・・。ここを何とか変えていかなければ営業マンがもたない。
 これからますます日本国内は人口減少でデフレ傾向が続き、おまけに数量も増えない縮小マーケットとなる。国内にいる営業マンはその中で数字を作っていかなければならない。目先の売上が足りないからと、焦って新規開拓に回れ!と号令をかけるような近視眼的な営業活動ではなく、もっと「戦略的な営業」(Strategic Sales)をしていく必要があるのだ。戦略的とは、長期的視野に立ち、複合的・多面的・包括的に物事を捉えて、技術の優劣ではなく思考の深さによって優位性を構築していく、ということ。
 新規開拓とは、目先の売上だけを見ずに確実に売れる販売プロセスを構築することによって、成功確率を上げ、安定的に結果を出していくものなのだ。

2010年9月

経営の道標7月

テクノロジーの進化を取り込む

 今、流行りのiPadを買った。特に欲しくはなかったが買った。買ってもあまり使ってはいないがとりあえず買った。何ができるのか、どういう使い方ができるのか、を確かめるために仕方なく買った。
 iPhoneが出た時にも、どんなものかなとは思ったが、携帯電話に毛の生えたような感じがしたし、PDA的なものであれば、ザウルスなども散々使ったから何となく予想がついた。だが、iPadには画面が大きい分、ノートPCの代替可能性もあるし、販促ツール、営業支援ツールとしての活用度も高そうな気がした。まだコンテンツが少ないから体感はしていないが、電子書籍の端末としてもちょうどいいだろう。
 なんて理屈をこねていないで、ともかく試してみる。
 テクノロジーの進化、ネットワーク網の整備や高速化、新発想、新技術によるブレークスルーが、新しい経営、新しい仕事、新しい業務のあり方を実現することがある。携帯電話の普及は、この20年のことだし、インターネットの普及は15年ほどだ。ブロードバンド化はたった5年程度。仕事のやり方も変わってきた。
 iPhoneやiPadに価値があるのは、いつでもどこでもつながる環境があるからだろうし、ツイッターなどのネット系サービスもいつでもつながってこそ可能なものだ。もちろんネット販売や課金の仕組みが整っていることも大きい。逆に言えば、アイデアはあっても環境が整っていなければ実現させることはできない。電子書籍端末やペンタッチのPCなどiPhoneやiPadに似た製品は過去にもあったが、やはり技術革新や環境によって用途や活用度が違ってくる。
 こうしたテクノロジーの進化、環境の変化に、経営者はもっと敏感であるべきだと思う。もちろん、新しモノ好きで、それを触ってばかりいるというのでは話にならない。だが、食わず嫌いで新しい情報を遮断してしまっては良くないだろう。私もハッキリ言って新しいものは面倒臭い。だからiPhoneは買わなかったし、iPadを買うための申し込みの用紙を書くだけでイヤになった・・・。初期設定は社員にやってもらったし、未だに使い方も良く分からない。だが、そんな人間が使ってみて、どんなことを感じ、どんなことが不便で、分かり難いのか、を実証実験することができる。もしかしたら、すごく便利なアプリケーションがあって、手放せないものになるかもしれない。自社のシステムのiPhone対応やiPad対応にもアイデアが湧くかもしれない。社員任せではなく自ら触ってみようと思う。
 経営者が自ら触ってみる、試してみるということも重要だが、それには限界もあるから、是非やっておきたいのが、若い人間に「こんなことできないか」「あれはこうならないか」と問題を投げかけ、「こんなことができる」「こんなものがある」という新しい情報があったら教えてくれるように依頼しておくことだ。問題を投げかけておくと、その人間に問題意識のアンテナが立つ。意識の高い人間なら、何かしら情報を引っ掛けてきてくれるものだ。
 たとえば、私の会社では、「可視化マップスコアラー」という新製品が、そんなやり取りから生まれた。3年前くらいだったか、「可視化マップ(戦略マップ)の描画をドラッグ&ドロップで簡単にできないか?それもWEBブラウザで・・・おまけにそれが線で結ばれたりするといいんだけど・・・」と言ってみたら、「無理です」と。あっさり否定。当時はどうにも難しいようだった。
 だが、WEBブラウザもバージョンアップするし、開発言語も進化する。ネット環境も良くなる。テクノロジーは日進月歩だ。そうしたら今年に入って「できました」と。業務外でちょこちょこと試していたらできたのだと言う。それなら、ということでそこから製品化の計画を立てて、本格的に開発を行った。ちょっとした思い付きとテクノロジーの進歩と社員の自己発働。これで世に無いものが生み出せる。
 そんなことがあるから、私は社員に「こんなことできないか」「あんなことできないか」と吹き込んで回る。つい昨日も、「iPhoneやiPadでこんなアプリがあったらいいなぁ」と社員を二人つかまえて話をしておいた。さて、どうなるか、楽しみだ。すぐに実現するかもしれないし、今すぐは無理でも、技術は進歩し、iPhoneやiPadもバージョンアップするし、競合会社が対抗製品も出すだろうから、1年後、2年後にはできるかもしれない。その成果を自社の経営や新製品に取り込むことができれば最高だ。
 そんなことが実際に結構あるから、新しい製品やテクノロジーの進化に対するアンテナは常に立てておきたい。自社の経営にどう生かすか、どういう影響があるか、食わず嫌いをしていてはつかむことができない。

2010年7月

経営の道標5月

リーダーたる者の言動とは

 昨年10月に、この欄で「改革は新しい人にやらせてみる」と題して鳩山首相について触れた。やはり経営コンサルタントが専門外の政治について余計なことを言うものではない。その時は、改革、変革、チェンジに期待があったが、その後の迷走ぶりは誠に残念だ。この話題には触れたくないが、すでに触れてしまった以上、放置するわけにもいかない。自分の言葉には責任を持たなければならない。
 昨年「改革は新しい人にやらせてみる」べきだと提言したことについては、やはりその通りだと思う。失敗もあるかもしれないが、やらせてみてこそ変化も起きるし、変化することによって、また新しい問題点も発見できる。たとえば、事業仕分けなどについても、いろいろと批判もあるようだが、少なくともこれまで一般国民に見えていなかった部分が可視化されたという点については評価すべきだろうし、「見える化」されたものをどう改善し、処置していくのかは次の問題だ。自民党ではできなかったことが民主党に変わったからできたという面も少なからずあるだろう。企業経営においても人を替えてみる、新しい人を抜擢してみるということが、変革、改革という局面においては有効だ。
 だが、鳩山首相の顔がどうだとか、自信が感じられるとか、会ったこともないのに余計なことを書いたのがいけなかった。普天間基地の移設問題では一国のリーダーがこんなことでいいのか、と本当に不安になった。「最低でも県外」と明言し、「腹案がある」「5月末には決着する」と言い張り、オバマ大統領には「Trust me」と言ったとか言わないとか・・・。最も驚いたのは沖縄に基地があることによる抑止力について認識が甘かったという点だ。それを素直に言ってしまうところに人の良さは感じられるが、そもそも基地問題を考えるのに軍事問題や同盟関係を考慮せずにどうするのか。そんなことも考えずに「最低でも県外」などとよく言えたな・・・と思う。平和ボケとはまさにこのことだ。人が良いにも程がある。
 百歩譲って、平和ボケでも、鳩派でも、海兵隊のことを知らなくても、軍事に疎くてもいい。もしそうなら、専門のスタッフを抱えればいい。周囲がキッチリと支えればいい。だが、リーダーたる者、その言動が安易に右往左往する軽いものであってはならない。
 孫子の兵法ではこう教えている。
 「将軍の事は、静かにして以て幽く、正しくして以て治まる。」
 将軍たる者、表には常に平静を保ちつつ、内面の思考は周囲からは窺い知れないほど奥深いもので、何事につけ公正で的確な判断をするから、組織を統治することができるのだと孫子は説いた。
 帝王学として是非「孫子」を学ぶべきである。兵法書だから軍事についても勉強できる。リーダーの考えていることが浅薄で、周囲から見透かされ、裏読みされるようでは話しにならない。常に「腹案がある」のは当たり前のことであって、それをいちいち人に言うようなことではないし、リーダーが「腹案がある」と言っているのに、部下から「どうせ腹案なんかないよ」と言われているようでは・・・・・・・・。もうこれ以上は書けない・・・。
 人の上に立つ人は、自分の言動に責任を持ち軽薄な振る舞いを慎むべし。私心や個人的な感情に流されるのはもちろん、正しいことであっても表に出してはいけないことがある。誰にも相談できず、孤独に耐えなければならないこともあるだろう。悩み、苦しみ、泣きたくなるようなこともあるだろうが、それを見透かされてはならない。調子に乗って言わなくてもいいことをベラベラと得意げに喋るようなことは恥ずかしいことこの上ない。
 そんなことを書いている私自身も、昨年10月に、専門でもない政治のことについて軽いノリで触れてしまったことを大いに反省している。今回はその懺悔でもある。
 「将軍の事は、静かにして以て幽く、正しくして以て治まる。」孫子の教えを改めて胸に刻み込む。

2010年5月

経営の道標3月

クラウドコンピューティングは万能か

 クラウドコンピューティングという言葉がネット上や新聞紙上などで氾濫しつつある。クラウド(Cloud)とは雲のことでインターネットを指す。クラウドコンピューティングとは、インターネット経由でシステムを利用するということ。自前(自社・自宅)ではサーバーもアプリケーションも持たない。
 何しろ、自前でシステムを所有しないわけだから、初期投資も必要ないし、メンテナンスなどの手間もかからない。そして利用度、利用期間だけの月額料金を払えば済む。クラウドコンピューティング事業者がすでに設置しているサーバー設備やネットワークを利用するだけだから、システム構築の準備、テストなどの期間も短縮できる。期間短縮はスピードアップであることはもちろん、人件費などの目に見えにくいコストもカットすることになる。
 ハードもソフトウェアも購入していないから、そのシステムを利用しなくなれば、契約を切ればそこまでのコスト負担で終わり。莫大な費用をかけてシステム構築、導入を行ったのに、うまく活用できずそのまま・・・ということがない。
 手軽に始められて、費用も月額で繰り延べて払えば良く、要らなくなれば契約ストップすれば良い、と良いことづくめで、システムをお守りする人材がおらず、初期投資も厳しい中小企業や、逆に規模が大きく開発、テストなどの多大な工数がかかる大企業では、システム利用の新しい形として期待されている。
 だが、冷静に考えてみれば、クラウドコンピューティングなどと新しい言葉で飾られているものの、アウトソーシングと考えれば当たり前のことだし、すでにあったASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)やSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)というIT用語のすげ替えに過ぎないのではないかとも思われる。
 ASPでもSaaSでもクラウドコンピューティングでもなんでも、呼び方はどうでも良いのだが、大切なことはそのシステムを活用してどういう成果なり業務改善効果を出すかということ。流行言葉に影響されて安易に飛びついてはいけない。
 私の会社でも、買取り形式とクラウド形式の両方でソフトウェアの供給を行っているが、その企業の事情、目的に応じて使い分ける提案をしている。何しろ、エンドユーザー(システム利用者)はそのシステムが雲の上(クラウド)からやって来ていようが、自社内に置いてあろうが、関係ないのだから。
 クラウドコンピューティングのメリットを活かすためにも、導入に当たっては、必ず以下の点について検討して欲しい。
 ① 初期費用、月額費用は低いが、継続利用した場合の支払総額はどうなるか?
 導入費用が安いと言われるが、それは、開発期間、開発コスト、テスト工数などを排除し、ハードウェア費用、ネットワーク回線費用などを他社と共有し、月額で繰り延べるというものだ。たとえば、30名が月額7,500円で5年間利用したとすると、13,500,000円となり、10年間利用したとすると27,000,000円となる。買い取り利用の場合にはサーバーを入れ替えたりする費用もかかるので、どちらがトータルコストが安いのかよく吟味する必要がある。
 ② 最初はクラウドで立ち上げたが、その後利用範囲を広げようとした際に、システムを買い取って自社運用に変更できるか?
 導入当初にはクラウドコンピューティングが最善策であった場合でも、その後、コスト面、利用環境面、利用範囲、利用人数などの関係で、システムを買い取っての自社運用へ切り替えが必要になるケースがある。その場合に、クラウド提供事業者が、買い取りシステムを用意していなければ、別システムへの移行が必要となり、想定外の費用が発生する懸念がある。
 ③ 既存システムなどとの連携や自社業務に適合させるカスタマイズが可能か?
 クラウドコンピューティングで提供されるアプリケーションサービスは、多数の企業が利用できるように、システムの設定を変えることで簡単にカスタマイズ(自社用に変更すること)できるように柔軟な仕組みになっているものがほとんどだが、既存システム、他システムとの連携、データ連動などは、相手方のシステムが不特定なために簡単に連携できないケースも少なくない。特に、基幹システム、業務系システムは社内閉鎖環境に置かれていることが多いため、将来的に連携を検討する場合には注意が必要だ。
 ④ データセンターが海外に置かれている場合、通信スピードが確保されるか?トラブルが起こった場合に国内法が適応されず、当該国の法律に従わなければならないリスクはないか?
 インターネットは全世界に張り巡らされているとは言え、実際には物理的な距離があり、通信スピードを考えれば全世界が一律ではない。また、データセンターが海外に置かれている場合、データの保管や処理にかかわる法的権限、プライバシー保護についての規制は、国内の法律や規制を受けないことになる。米国の愛国者法(PATRIOT Act)やイギリスの捜査権限規制法(RIPA)などでは、捜査当局が、国内のサーバー上にあるデータを調査の対象とすることを認めているので、注意が必要となる。
 ⑤ クラウドコンピューティング提供会社の事業継続性は充分か?海外企業の場合、日本からの撤退リスクはないか?
 クラウドコンピューティングは、大切な経営情報、顧客情報などをクラウド提供事業者に預けるIT活用法である。当該事業者が充分な経営基盤を持ち、継続してサービス提供を行えるかどうか、また行う意思があるかどうかを確認しなければならない。「安かろう悪かろう」にならないよう、必ず信用調査を行い事業者の信頼性を確認することをお勧めする。また、クラウド提供事業者が海外企業の場合、グローバル展開の中で、日本からの撤退、日本語対応サービスの停止といったリスクもある。高い収益性、成長性を求められる海外企業の場合、人口減少で縮小する日本語マーケットを切り捨てる可能性もあるだろう。
 ⑥ ネット経由でシステム提供するのはいいが、それに付随するリアル(実地)サービス、フォロー体制は充分なのか?
 業務用のアプリケーションソフトなどは、単にシステム提供されればうまく運用できるというものではない。システム導入に合わせて業務の見直しを行ったり、システム利用者に対する教育を行う必要もあるし、運用が軌道に乗った後も、継続的にその運用レベルの見直し、向上が求められる。クラウド提供事業者を選定、選別する際には、クラウドコンピューティングの提供のみならず、それに付随する教育研修、コンサルティング、運用サポートのサービス体制、リアル世界でのフォロー体制についても確認することが重要だろう。

 クラウドコンピューティングは多くのメリットがある。だからこそ、マイナス面もよく理解した上でうまく活用して欲しい。そして大切なことはそれによって業務を変え、成果を生み出すことだ。目的を忘れて手段の検討をしないようにしたい。

2010年3月

経営の道標1月

2010年 庚寅(かのえ とら)

 今年は庚寅。剛にして健であり陽。大地から出でて芽吹く。過去を償い浄めて再生、出直しを図る。曲がったものを真っ直ぐ正す一年。
 2008年、2009年と厳しい環境、逆風に晒されて露呈した自社の弱み、綻び、不具合を改善し、見直し、修復する年にすれば良いだろう。逆境は、慢心に警鐘を鳴らし、自社の弱点を直視するチャンスを与えてくれる。2010年も決して楽観はできないし、デフレの進行は避けられそうにないから、まだまだ逆風が吹くだろうが、いつまでもシュリンクしてはいられない。待っていても誰も助けてはくれない。JALですら法的整理に追い込まれた。国の経済対策にも大した期待はできないだろう。だが、前進あるのみ。前に踏み出そう。
 前に踏み出そうと思っても、既存事業、既存客、既存ルートは縮小傾向、単価ダウン傾向にあるだろうから、これまでと同じことを単に頑張って前に押し出すだけではダメだ。新事業、新分野、新商品、新チャネル、新用途など新○○○に挑戦しなければならない。
 そこで是非考えてみると良いのが、自社の事業ドメインを従来の物理的定義から機能的定義に変えてみて、新○○○を発想してみることだ。ほとんどの企業は自社が何屋か、何業かという事業ドメインを、扱っている商品などに着目して物理的定義を行っている。たとえば花を売っていれば花屋、魚を売っていれば魚屋という具合だ。これでは新○○○を考えようと思ってもなかなか新しいアイデアは出てこない。
 これを機能的定義に変えてみる。機能的定義とは、自社の提供している商品なりサービスが顧客に対してどのような機能、効用を実現しているかに着目した事業ドメインの設定方法だ。たとえば、花を商材として提供することで、顧客の暮らしにうるおいを与えていると考えれば、「うるおい提供業」としても良い。生活にうるおいを与えることが自社の事業だと思えば、従来の商材である花に限定する必要はなく、絵画を売って「絵のある暮らし」を提案しても良いし、加湿器や空気清浄機を売るのも悪くはない。
 魚を売っている魚屋が、魚の機能、効用に着目して、「メタボ対策業」になっても良い。健康やダイエットに配慮した魚中心のメタボ対策レストランを開くというのはすぐに思いつくようなことだし、いっそフィットネスクラブを併設してみても面白い。
 このように、事業ドメインを機能的に定義すると発想の自由度が上がっていろいろとアイデアが出るものだ。単なる多角化ではなく、一つの切り口を持った事業の多重化、多面化であるとも言えるし、一つの切り口に絞込み集中して一番領域を明確にするというものでもある。
 放っておくと、日本国内は人口減少でマーケットはどんどん縮小していく。これは21世中ずっと続くから、いずれにしても、新しいチャレンジは企業存続に必須である。すでにバブル崩壊から20年。21世紀に入って10年。人口減少が始まって5年。過去のしがらみ、固定観念を捨てて、新創業、第二創業を目指してみても良いのではないか。今年2010年はそんな年にすべきだと思う。

2010年1月

経営の道標 年度別

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