代表長尾が語る経営の道標

弊社代表長尾の経営に関するメッセージを
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2021年版 経営の道標

経営の道標11月

電帳法対応の盲点<Excel見積書>

 令和3年度(2021年度)の税制改正によって、電子帳簿保存法(略称:電帳法 正式名称:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)の法改正が行われ、令和4年(2022年)1月1日に改正電子帳簿保存法が施行されることになっているのはご存知だろうか。
 施行まであと2ヶ月を切ったというのに、未だに電帳法の改正を知らない、知ってはいるけれども良く分かっていないという人や企業が多いので、注意が必要だ。電帳法は1998年に制定された新しくはない法律だ。これまではその適用要件が厳し過ぎてほとんどの企業にとってメリットよりもデメリットが上回る、手間の割に益の少ないものだった。だが、この電帳法が令和4年、2022年から要件緩和されると同時に一部義務化されることになり、スルーすることが出来なくなったのだ。
 これまでは事前承認が必要だったり、紙の書類をスキャナ保存する際の要件が厳しく、タイムスタンプも必須とされてコストもかかるものだったが、今回の改正で事前承認は不要となり、タイムスタンプを使用しない運用も認められ、これなら中小企業レベルでも取り組むメリットがあるなと思っていたら、「電子取引」では紙での保管が認められなくなり、一気に義務化されることになった。やりたかったらやっていいよという話だったのに、必ずやれという話に変わったわけだから、要件が緩和されて良かったと喜んでばかりはいられない。
 電帳法改正の詳細については、国税庁のサイトを見てもらうのが確実だし、税理士さんなどが解説動画を公開したりしているので、そちらをご確認いただくとして、ここでは要点だけに絞って進めることにする。

「電子取引」はデータ保管が義務化される

 電帳法において電磁的記録には、「電子帳簿等保存」「スキャナ保存」「電子取引」の3つの区分がある。会計システムや経費精算等の業務処理サービスを提供している事業者が、自社の提供するシステムが対応できる「電子帳簿等保存」や「スキャナ保存」のことばかりPRするので、電帳法対応した会計システムを導入し、領収書や請求書などの書類をスキャンして保存し紙の原本を廃棄するといったところに注目が集まっているが、義務化されているのは、そこではなく「電子取引」である。
 「電子取引」とは、国税庁の説明によると「取引情報(取引に関して受領し、又は交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類に通常記載される事項をいいます。)の授受を電磁的方式により行う取引をいい(電子帳簿保存法2六)、いわゆるEDI取引、インターネット等による取引、電子メールにより取引情報を授受する取引(添付ファイルによる場合を含みます。)、インターネット上にサイトを設け、そのサイトを通じて取引情報を授受する取引等が含まれます。」とされていて、要するに紙という媒体を介さずにWEB上のサイトやメールでやり取りされる取引がすべて「電子取引」となる。これが従来の紙に出力して保管する方法が認められず、データのまま保存しなければならなくなるのだ。
 「うちはアナログな会社だから『電子取引』なんてやっていない」と安易に考えてはならない。今や注文書や請求書、見積書などをメールに添付してやり取りすることは結構あるだろうし、コロナ禍でテレワークが増えたから相手方から要求されるケースもあっただろう。さらに、Amazonなどのネット通販でちょっとした備品などを買ったりすることは小規模企業や個人事業者でもあるはずだ。これらが「電子取引」となり、その領収書などを紙ではなくデータで保存しなければならない。もちろん、ただ保存するだけでなく保存方法にもルールがあり、それに準拠した保存が求められる。保存方法の細かい話もここでは端折る。
 本題はここからである。

Excel見積書の発行が盲点になっている

 これまで紙で保管していた書類をデータ保存する手間やそのためのシステムをどうするかという問題だけなら、経理部門、会計部門が頑張るかそのやり方を変えれば良い。基本的には会計に関する書類だから(何しろ国税庁からのお達しである)、紙の時代から経理部門に集まって来る書類がほとんどだ。そういう流れ(業務フロー)が出来ている。領収書や請求書はその最たる例だ。だが、ほとんどの企業で電帳法対応は経理部門が主導して、会計系のシステムベンダーが情報提供しながら進んでいるので、見逃され、抜け落ちてしまっている盲点がある。見積書の発行だ。
 さて、あなたの会社では、見積書の作成や承認、発行はどの部署で、誰が行っているだろうか?その見積書をメールに添付して顧客に提出したりすることがあるのではないだろうか?今はなくても今後増えて来ると考えるのが妥当ではないだろうか?
 見積書の発行は多くの企業で営業部門が行っている。さらにその7~8割の企業で、個々の営業担当者が見積書をExcelで作っているのではないか。それを営業部門の上司がチェックすることはあっても経理部門のチェックは受けないだろう。その誰が作り、どこに提出したかも分からない見積書を経理部門がすべて把握し収集して、データとして保存することが出来るだろうか? 全体でどれだけ見積書を作ったかも分からないのだから、一部が収集出来たとしても、それ以外にどれだけ抜け漏れがあるかすら分からない。
 電帳法対応の義務化のためにデータをどう保存するかを考える前に、どう見積書を作成し、承認し、そのデータをどう共有するかという業務改革をしなければならない。ここを経理部門、会計系ベンダー並びに税理士先生は見落としているケースが多いと思う。なぜなら経理部門に現状流れて来ない書類だから・・・。営業部門が何をどうしているか経理部門は把握していないから・・・。
 なぜこんなことを自信を持って言えるかというと、私共NIコンサルティングには、Sales Quote Assistant(SQA)という見積書作成支援システムがあって、その普及をExcel見積書の存在に妨げられているからだ。Excel見積書の問題についてここに書くと長くなるので我慢するが、Excel自体は便利なツールだが、見積書作成に使うと、それが営業担当者個々に属人化し、ミスがあったり、未承認で提出したり、他者と共有出来ない等いろいろと問題がある。だからWEBシステムで作成、承認、共有する仕組みを提供し、すでに何年も提案して来ているのだが、使い慣れたExcel見積書はなかなか手強い。その実態を知っているからこそ、今回の電帳法への対応で見積書の発行が盲点になっていて、Excel見積書のままでは現実的な運用として対応出来ないだろうと考えている。

見積書の作成・発行はWEB化して共有すべし

 売り込みのように思われるだろうが、今こそSales Quote Assistant(SQA)で、見積業務の改革を行っていただきたい。電帳法に対応して紙をデジタルデータに変えたからといって売上が上がるわけでもない。しかし、見積業務の改革は売上アップにもつながる取り組みだ。
 見積書とは、営業という戦いにおける勝利への筋書きであり、戦利品の予測リストであるとも言える。それを事前に上司とも共有し、ブラッシュしてから客先に提示する。客先に出した後になって、間違いがあったり、ヌケやモレがあっても直せないし、失注した後になって、「あんな見積を出すからだ」と部下を責めても一円にもならない。先に考えて事前に手を打つ。これを先に考える管理、「先考管理」と言い、それによって未来を変える部下指導を「フィードフォワード」と言うわけだが、見積書提出、見積金額は未来の業績を先取りする先行指標であり、それに基づいて未来に向けたフィードフォワードを行うことは、その企業の質を高め、結果をより良いものにしていくためにとても重要なことなのだ。
 経理部門にとっては、電帳法対応の対象となる一つの書類に過ぎないかもしれないが、見積書は営業の質を高める大切なアイテムである。令和4年(2022年)の1月から電帳法への対応はするしかないのだから、どうせやるならExcel見積書から卒業し見積書作成支援システムに切り替えるべきだ。売り込みやがってと思うならExcel見積書で運用してみれば良いが、抜け漏れすら分からない、とんでもない運用になるだろう。
 電帳法に関係するさまざまなシステムベンダーが、「電帳法対応」だと謳って宣伝しているが、それはその事業者が提供するシステムが電帳法の要件を満たしていると言っているだけであって、それを使う企業がそのシステムで「電帳法対応」できるわけではないことに注意が必要だ。
 NIコンサルティングでも、グループウェアNI Collabo 360の経費精算機能支払管理機能をバージョンアップして、「電帳法対応」したと訴えている。ちなみに、請求書発行システムのSales Billing Assistant(SBA)も「電帳法対応」した。だが、これらの「電帳法対応」システムを導入したからと言って、その企業の「電帳法対応」が完了するわけではない。弊社も含め、システム提供企業に悪意はないと思う。あくまでも自社が提供しているシステムが法的な要件を満たすようにしているわけで、顧客からは「電帳法に対応しているのか?」と都度聞かれるので、「電帳法対応」ですと答えるしかないからだ。
 自社がどう電帳法に対応するかは、業者任せではなく自社で考えるしかない。本来アドバイスするべきは顧問税理士の先生だろうが、中には「紙でやればいいんですよ」「どうせ電子取引なんて大した数じゃないんだから索引簿を作ればいいですよ」といった現状維持、目先の対処だけで済ませようとする先生もおられるようなので、ここでも注意が必要だ。中小零細、個人事業者であっても、今後ますますメールやWEB上でのやり取りが増えて来ることは誰が考えても明らかだろう。そして、それなりの規模の企業は今回の電帳法に対応してくるはずだ。それによって郵送して紙でやり取りするのではなく、「電子取引」を要請されるケースも増えて来るだろう。紙に出力せずに電子保存する仕組みが一度出来てしまえば、紙よりも電子の方が取り扱いが楽だからだ。
それでも「紙しか対応しません」と言い続けるのだろうか?
 自社の過去から現在までの実態が「紙ばかり」であったとしても、来年以降もそうであるとは限らない。2023年10月からはインボイス制度(適格請求書等保存方式)もスタートするわけで、もはや業務のデジタル化は避けて通ることが出来ないはずだ。電帳法対応を自社のデジタル化、業務改革の契機にしていただくことをおすすめする。

2021年11月

経営の道標9月

消極的テレワークのすすめ

 みなさんの会社では、テレワーク(在宅勤務)はどれくらい実施されているだろうか? 新型コロナウイルスの感染対策として1年半に渡ってテレワークが推奨されてはいるものの、実施率は横ばいであまり進んでいないように思われる。テレワークに対して否定的な企業は、政府や感染症の学者がいくらテレワークしろと言っても聞く耳を持たない(持てない)状況になっているようだ。我々NIコンサルティングでは、ITツールを活用してテレワークを実現するお手伝いをしているので、テレワークを積極的に推進しているように思われるかもしれないが、何が何でもテレワークすべきだと考えているわけでもないし、テレワークが万能だと考えているわけでもない。そこで、本稿では「消極的テレワーク」をおすすめしてみたいと思う。

 コロナ禍で急速にテレワークは進んだが・・・

 今やコロナパンデミックによって忘れ去られたようになっている「働き方改革」もあり、東京オリンピック開催時の交通混雑を回避する狙いもあって、総務省が2017年から、2020年東京オリンピックの開会式が予定されていた7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、テレワークの一斉実施を呼びかける国民運動を展開していたことはご記憶だろう。だが、国民運動と呼ぶには程遠く、開会式が行われる東京はまだしも、遠く離れた地方企業にとっては他人事でしかない呼びかけだったように思う。
 そこに2020年の新型コロナウイルスの出現だ。緊急事態宣言が出され外出自粛や営業停止が求められて、一気にテレワーク実施率が上がった。一回目の緊急事態宣言の時には、未知のウイルス出現ということで、テレワーク出来なくても自宅待機するしかないといった状況だったが、あれから1年半。緊急事態宣言が定常的なものになってしまって、相変わらずテレワークは推奨されているものの、2021年9月時点では、いろいろな調査があるので正確かどうかは怪しいが、大企業ではおよそ5割の社員がテレワークを実施。ただし、中小企業では2割程度であって、全くテレワークできていない会社も未だに少なくない状況だ。

 テレワークがすべての問題を解決するのか

 新聞やテレビなどに登場し、テレワークは良い、テレワークの方が生産性が高い、などと言っているのは、元々テレワークをしていたような会社か、IT系の企業がほとんどである。ITリテラシーが高く、隣の席の人にも直接話しかけずメールやチャットをするような人たちは、それが在宅であろうとどこであろうと大した変わりはない。
 そうした仕事の多くは、雇用形態に関わらず、やるべきことと期限が明確で、途中サボろうと何をしようとやるべきことは期限内にやるしかない仕事であることが多い。だからアウトソーシングもしやすいし、下請業者を使うこともあるし、派遣でもフリーランスでも一定のスキルさえあれば一緒に仕事をすることができる。
 しかし、世の中はそんな会社ばかりではない。その場にいて周囲と協力しながら、時には他人の分までやってあげるようなことがあったり、営業のように、目標やノルマはあっても、達成するまで給料を払わないとは言えない職種もある。フルコミッションならそもそも独立自営のようなものであって成果が出なければ報酬もなしで問題はないが、一般的な営業マンはやるべきことが出来なくても「すみません、来月は頑張ります」と言って許してもらえる(クビにはできない)ことが多い。そんな仕事がテレワークになり、在宅になれば、プロセスがブラックボックスになってデメリットが大きくなるのは仕方ないことでもある。
 テレワークには、通勤時間、移動時間がなくなるという大きなメリットもあるが、デメリットもある。そのことを忘れてはならない。だから、GoogleやAmazon、Appleといった米国のIT企業でさえ、(今はコロナで延期されているが・・・)出社を再開させる方針を出している。在宅勤務を選択する場合には、給与を2割から3割程度引き下げるという話もある。
 私共が提唱する非接触の営業手法、コンタクトレス・アプローチにおいても、非接触の商談ではパフォーマンスは2割減衰すると考えている。だから従来3商談していた場合には5アプローチ(0.8×5=4.0)、5商談していた場合には8アプローチ(0.8×8=6.4)することを基本にする。デメリットもなく、移動時間がなくなるというメリットしかないなら、コロナウイルスがいようがいまいが、すべての営業マンがコンタクトレス・アプローチにシフトするだろう。

 テレワークをやれやれと言うばかりでは解決しない

 すでに、テレワークが出来る企業は取り組んでいる。テレワークできる職種の人はそうしている。今、テレワークできていないのは、やらないからではなく、できないのだ。現場仕事があるからだ。建設現場、製造現場、営業現場やサービス提供の店舗がありそこで付加価値を上げているからだ。そこに人が実際にいることでビジネスが回っている面があるからだ。そこで顧客と接し、現物を加工し、現場で作業をする仕事は、いくらコロナ対策だと言われてもテレワークに出来ない。WEB会議では代替できない。それが1年半やって来て出た答えなのだ。
 だから、そうした企業に、テレワークしろ、テレワークしないのは悪だ、みたいな批判をしてもどうにもならない。コロナ対策のために仕事をしているわけでも、テレワークのために仕事をしているわけでもないのだから・・・。

 仕方なくテレワークに取り組む消極的テレワーク

 だが、しかし、そんなテレワークに対して否定的かつ消極的な企業であっても、もし社員にPCR陽性者が出れば・・・社員じゃなくてもその家族が陽性になって社員が濃厚接触者と判定されたら・・・陽性者が社内で濃厚接触してしまい周囲の社員も巻き込んでしまったら・・・その人たちが約2週間出社できない状態に陥ることになる。このことを忘れていないだろうか。
 コロナウイルスに感染して発症していれば自宅療養か入院するしかないが、その周囲も濃厚接触で巻き込むことになってしまうのが、今の日本のコロナ対策だということを忘れてはならない。それが仮に無症状でも、PCR陰性でも、である。これがビジネス的には痛い。もし、自社で陽性者が出て、クラスターが発生したら、嫌でも業務が止まってしまうことになる。クラスターとまでは行かなくても濃厚接触が疑われればその部署が2週間停止してしまうこともあり得る。実際、クラスター発生で店を閉めたデパートもあったし、報道されないだけで他にもそうした事例はあるはずだ。
 もし、そんな事態になったとしたら、自宅療養中でも、ホテル療養中でも、入院していたとしても、業務処理や必要な連絡などが出来た方が良いのではないだろうか? テレワークというほど仕事をするかどうかは病状にもよるだろうが、濃厚接触者の隔離の場合は本人は元気なわけで、テレワークできる体制があれば、自宅でも仕事ができるのだ。今のコロナウイルス、Covid-19は変異を繰り返しながらも終息し、風邪ウイルスの一種となるだろうが、いずれまた新しい新型と呼ばれるウイルスが出現してパンデミックを起こす可能性は高い。そうしたリスクに備えて、消極的にでもテレワークの準備をしておくことは事業を継続させるために重要なことである。

 ウイルスだけでなく天災もある
 
 さらに言えば、コロナパンデミックだけでなく、毎年起こる風水害などへの備えも考えておくべきだろう。阪神淡路や東日本級の大震災は別としても、大雨、洪水、河川の氾濫、土砂崩れ、台風、冬には大雪の被害が毎年起こっている。社員が直接被災して出社できなくなることもあるだろうが、より多いのが、交通手段の寸断、運休によって出社できなくなるケースだ。
 災害まで行かなくても、大雨や台風が予想されると、JRや私鉄などの計画運休もある。明日電車が止まるとなったら、どうか。それでも無理して出社しろと言うのだろうか。それが実際可能かどうか。こうした時にテレワークができれば、1日2日の業務はこなすことが出来るだろう。
 現場の人間はテレワーク出来ず、現場作業は止まってしまったとしても、現場が止まったからこそ、他の部署は稼働して、営業は顧客への連絡や調整をして、その危機を乗り越える必要があるだろう。「現場ではテレワークは無理だから」と言って全社的にテレワークを否定する必要はない。イザという時にはテレワークできる体制を整えておくことで、企業活動が完全停止とならずに済む。
 月末月初に業務が集中する経理業務などは、仮に2日3日出社出来なかっただけだとしても、それがたまたま月末月初に当たっていれば、影響は大きい。それが2週間となったら目も当てられない。普段は出社するのが原則としても、イザという時には自宅からでも経理システムを動かせるようにしておくことはリスク回避のためにも必要だろう。
 ということで、自社にはテレワークなど無理だと諦めておられる企業に是非「消極的テレワーク」をおすすめしたい。テレワークを推奨するわけでも、テレワークの方が生産性が高いと言いたいわけではなく、イザと言う時、仕方のない時には、テレワークができるように備えておくこと。「消極的」にでも良いから取り組んでいただきたい。
 そうして、一部でもテレワークをやってみれば、やってみたことでまた新しい気付きもあるだろうし、業務のやり方、たとえばペーパーレスなども必要になってくるだろうし、それにまた取り組むことで、テレワークができる部署や職種が増える可能性もある。近い将来には、リモートで操作出来る機械やロボットのようなものも登場することになるだろう。そうして現場仕事も遠隔で出来る範囲が広がるはずだ。「食わず嫌い」で避けていては、そうした流れにも乗り遅れることになってしまう。「消極的テレワーク」をおすすめする。

2021年9月

経営の道標5月

「省人数経営」で更なる危機に備えよ

 コロナウイルス騒動による婚姻先送りや出産手控えで、出生数が急減している。2020年度は、前年度比4.7%減の85万3214人だった。丙午の1966年(昭和41年)ですら、出生数が136万人だったのにそこから50万人も減っている。さらに、2021年になり、1~3月期の出生数は19万2977人と前年同期比9.2%減った。すでに厚労省が受理している妊娠届の数を勘案して試算すると、2021年度の出生数は80万人を割ることがほぼ確実なようだ。第一生命経済研究所の試算では、76万9千人まで落ちこむと予想されている。
 コロナが治まれば多少の反動はあるだろうが、婚姻数も大きく減っているし、そもそも自粛続きで男女の出会いが減っているから回復には時間がかかるだろうし、景気の低迷もあるだろうから急反発は考えにくい。コロナで一気に少子化が加速したことは間違いないだろう。コロナ対策で守る命と減る命。どちらが多いのかと考えれば、この国の将来に対して暗澹たる気持ちになる。
 企業の実体は人である。人のいない企業は、ダミー会社、幽霊会社であり実体のないペーパーカンパニーだ。国のことは専門ではないが、国の実体も人だろう。国土があるだけで人がいなければ国とは言えまい。
 企業経営に話を戻そう。人口減少が進んで人材確保が難しくなっている中で、この国では、働き方改革だ、最低賃金アップだ、70歳まで雇用する努力義務を果たせと人材コストを高める政策が打たれている。そこにコロナ禍だ。休業しろ時短しろと営業自粛を求められたら雇用はリスクでしかない。助成金がある内は何とかなっても、それにも限界がある。これでは、仮にコロナが治まっても、安易に人を増やそうとは考えられないだろう。
 だから、あのパナソニックですら、4000万円の割増退職金を払ってでも人を減らそうとしている。創業者の松下幸之助は世界大恐慌の時にも社員の雇用を維持したことで有名な経営の神様と呼ばれる人である。人を大切にする、雇用を守るという意識、企業文化はどこよりも強かった企業であるはずだ。だから表向きは人員削減ではなく、キャリア開発プログラムということになっている。だが、そのパナソニックでさえも、人を抱えておくことはリスクだと判断したわけだ。あくまでも上限額だが、4000万円も割増金を払ってでも辞めて欲しいというわけだから、その人がいることで4000万円以上の無駄やリスクが生じると考えているのだろう。中小レベルなら5年から10年分の給与額であって、とても割増で払えるような金額ではない。辞めてもらうのにもこんなにコストがかかるなら人の雇用など怖くてできないと思う経営者もいるのではないか。
 今こそ、人を省いてより少ない人数で生産性を上げる「省人数経営」へシフトするべきである。お国が何とかしてくれるだろう、人口問題は政治課題だから経営者が考えても仕方ないと傍観していても、コロナ騒動の迷走で分かったように、何とかしてはくれない。何とかしてくれるどころか、却って個別企業にはマイナスな施策を次々と打って来る。少なくとも、民間企業の経営者はそう考えて備えておかなければならない。
 ただ単に人を減らす「少人数経営」ではない。勘違いしないで欲しいので繰り返すが、企業の実体は人である。人がいなければ価値を創出できない。だが、頭数を揃えれば良いのではない。5名で10名分の仕事、30名で100名分の仕事をしていくのが、「省人数経営」だ。価値を創出できる人材に絞って、より少ない人数でより多くの成果を上げて行く経営にシフトしなければ、今後やってくるであろう新たな、より大きく、より深刻な危機に対応できない。
 ここで言う人が創出する価値とは何か。それは無形資産と呼ばれるものだ。ソフトウェア、ノウハウ、特許・商標、デザイン、知識・技能、ブランド、ビジネスモデルなど、B/Sに資産計上されないものを無形資産と言う。これらを生み出せる人が「人材」であり、それ以外の部分は、ヒューマンタッチが重要な部分を除いて、省人化、機械化、デジタル化して行くべきである。
 それでは人が二極分化してしまう、雇用を守る責務があるのではないか、と政治家のようなことを言う余裕のある企業は雇用を増やせば良い。だが、あの松下幸之助が生んだパナソニックでさえ人員削減している現実を直視しよう。私も松下幸之助を尊敬しているし大好きだ。特に水道哲学は最高だ。ダム経営の教えもまだ残っていて、パナソニックにはダムの余裕があるから4000万円支払えるが、貴社にはその余裕があるだろうか?
 私は政治家でも経済学者でもないので、個々のクライアント、一企業の経営を考える。無形資産を生み出せない人に追加で報酬を払う余力があるなら、それを無形資産を生み出す可能性を持った人の報酬アップに回す。そうしなければその企業は生き残れないからだ。自社が存続できないのに、地球環境を語ったり、SDGsやESGに取り組んだり、雇用を守るなどと訴えたら恥ずかしいだろう。まずは自社の持続可能性を高めてから人様の心配をするべきである。
 ちなみに、人もB/Sに資産計上されていない。企業の所有物ではないのだ。自社のモノでもないのに、その人たちの生活や将来を心配するようなことを言うのはおこがましいし、経営者の傲慢ではないか。人は共に目標に向けて努力してくれるパートナーであり、そのパートナーに選ばれる経営をしなければ立ち去ってしまう。そういう意味で人には形があるけれども企業の資産としては無形であり、永遠ではない。パートナーが進んで協力してくれるような経営をすることが経営者の仕事であって、生活のために渋々働く人たち(もしくは働けない人たち)を保護することは政治家の仕事である。
 戦後の、食うためにどんな仕事でも喜んで働いてくれていた人がどんどん増えていた時代は終わり、人口が減り、なるべく働きたくないという人が増えている時代になれば、企業における雇用の在り方も変わって当然だ。日本で作った安くて良いものを世界中が買ってくれた時代も終わり、日本が得意とする分野は環境を盾に制限されたりルール変更されて競争力が削がれている。これからますます日本企業の置かれる環境は厳しくなるだろう。人口も減り、人のコストも高くなる一方だ。コロナのようなパンデミックもある。
 世界を変えることは出来なくても、自社の経営を変えることは出来る。将来のさらなる危機に備えて「省人数経営」を徹底すべきである。

2021年5月

経営の道標3月

Customer Support Automation(CSA)に着手せよ

 コロナ禍の騒ぎが1年以上にも渡って続いていることで、日本経済が人口減少によって縮小トレンドにあることや消費税アップによる消費の減退が起こっていたことが忘れられているようだが、コロナウイルスが仮に消え去ったとしても、好景気がやってくるわけではない。東京オリンピックも海外からの観客を入れなければ経済効果は小さいだろうし、4月からは、なぜ今やらないといけないのか理解できない消費税の総額表示もあって、消費者は財布の紐を決して緩めないだろう。買い手は減り、購買意欲も下がっている。
 売り手はどうかというと、働き方改革で投入時間を減らさざるを得ない状況にある。残業は増やせないし、休みも取らなければならない。頭数を増やそうと思っても、買い手(マーケット)は減っていくのだし、人口減少は人材減少でもあるから、思うような人材を確保できるとは限らない。需要が減退する中では、人を増やす余力もないだろう。さらに、この4月に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正され、70歳までの就業機会の確保が求められるようになれば、安易な雇用は将来に禍根を残すことにもなりかねない。
 顧客も減り、売りに行く営業担当も増やせない中で、どうやって業績を伸ばすかと考えれば、IT化、デジタル化を進めるしかないという答えに行き着く。そこで今回は、Customer Support Automation(CSA)を提案する。
 Customer Support Automation(CSA)とは、「ICT、IoT、AI等を活用し、販売・契約後の顧客へのサポートやサービス提供を効率的に行い、顧客生涯価値(LTV)を高め、リピートや紹介を促進し、解約・他社への切り替えを防止する仕組みのこと」である。要するに、既存顧客への販売後フォローを自動化し、人間の工数をなるべくかけずにサポートを厚くする仕組みだ。
 ベイン・アンド・カンパニーのフレデリック・ライクヘルドが調査結果から見出した法則によると、新規顧客の獲得コストと既存顧客の維持コストは、5対1になるそうだが、人口減少の進む日本ではそれ以上の比率になる可能性もある。無理に新規を獲りに行くよりも既存客を確実にフォローした方が業績的にはプラスが大きいかもしれない。すでに新規客に対するアプローチには、SFAやMAといったITツールが用いられていたりするので、取り組みとして甘くなっている既存客へのCSAをここでは取り上げる。
 Customer Supportは、商品やその提供方法などにより様々なシチュエーションが考えられ、一律の型はないが、ネットにつなげるIoTを活用した「コネクティッド」と、自動的に情報提供という撒き餌をし育った顧客を網目で篩いにかける「スプリンクラー&メッシュ」の仕組みを構築することを考えると良い。
 「コネクティッド」の典型は販売・納入した商品にIoTセンサーをつけ、随時情報を取得できる仕組みを考えることだ。個人向けの商品であれば、センサーのコストや電源確保のハードルがあるので、スマートフォンアプリを活用して情報を取得したり、逆に情報を送り付けられるようにする方法も良いと思う。開発費やセンサーの費用はかかるが、初期費用だけで人は動かなくて良いから客数が増えてもコストは増えにくい。こうしたソフトウェアによる顧客価値アップは、継続的に追加していけるし、限界費用ゼロだから客数が順調に増えればコスト負担はどんどん小さくなる。
 「スプリンクラー&メッシュ」は、メール配信からの反応をトラッキングして、反応のあった先、すなわち関心やニーズのある先だけに絞ってアプローチする仕組みだ。一軒一軒、一人ひとりをフォローし、サポートするのはコスト面でも人的リソースの面でも難しいから、ダムに貯めてスプリンクラーで撒き餌をする。そしてその反応を見る。開封率とリンクのクリック率が分かればそれで充分だ。MA(Marketing Automation)のようにページの遷移などまで追わなくて良い。WEBサイトのメンテナンスが大変だし、監視されているように顧客が感じたらそもそも見てもらえなくなる。メールくらいなら作るのも簡単だし、それで反応があるかどうかは分かるから、その度合いをスコアリングしてメッシュにかける。メッシュにかかった、要するにニーズのある顧客に絞って対応すれば効率も上がるのは当然である。
 溜まった水はそのままにすると腐るから、定期的に撹拌してあげる必要があるし、魚を育てるには餌も必要だ。時節に合わせて必要な情報提供を行うべきである。大した手間はかからないし、ダムの中の客数が増えれば増えるほど1件当たりの手間とコストは下がって行くから、どんどんダムを大きくすれば良い。これがCSAの仕組みだ。
 このCSAと似たような言葉に、初期費用で金をとれないサブスクリプション企業が提唱するCustomer Successがあるが、顧客の成功を目指すのは当然であって、そのためにCSAを活用するのだと考えれば良い。同様に、以前流行したCustomer SatisfactionのためにもCSAが有効だ。どちらも略すとCSとなるが、顧客成功も顧客満足も当然そうあるべき結果であって、誰もが是とする当たり前のことを目指しているだけでは何もしていないに等しいことになるので要注意だ。その成功や満足を実現する具体的な取り組みとしてCSAが必要になるのだ。是非取り組んでみていただきたい。

2021年3月

経営の道標1月

2021年 辛丑(かのと うし)

 つらく苦しい終焉と新たに立ち上がる芽生えがやって来る転換の年。泣きたいほどの辛苦を乗り越えた先には光があることを信じて、悲しくても涙がこぼれないように上を向いて歩くしかない。
 年初から新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が出て、米国の大統領選挙では民主主義を揺るがす事態が起こった。昨年から一年延期された東京オリンピックは、あっても不完全なものになるだろうし、中止か再延期となる可能性が高いのではないか。五輪需要をアテにしていた人は無いものとして次の手を早めに打つべきだろう。コロナ禍はワクチン接種が始まり気温も上がってくれば収束に向かうだろう。しかしまた冬場になれば風邪やインフルエンザが増えるのと同様に感染が広がり変異種も出てくるだろう。それがもう常態となりWithコロナが当り前となれば、騒いでも意味がなくなり、ビジネス上は問題なくなるだろう。
 コロナ禍が加速させたものが、デジタル化と人と企業の関係性の変化だ。東京オリンピックの開会式に合わせてテレワークをしようと悠長に訴えていたのが、その何か月も前に強制的にテレワークせざるを得ない状況に置かれて、ペーパーレス、ハンコレスは言うまでもなく、デジタル化は避けて通れないものになった。また、コロナ禍で需要が一気に消滅する事態に遭遇する中で、人々の働き方や雇用の在り方も見直しを迫られた。雇用調整助成金の増額と対象拡大で表面上は取り繕ったが、企業経営において雇用維持は大きな足かせとなることを多くの経営者は思い知ったはずだ。今年は、在宅でも副業兼業でも、好きなように働ける力のある人と働く場を失う人およびデジタル化についていけない人の二極分化が一層進行するだろう。
 艱難辛苦に遭いながらも、勉強し努力しデジタル化にも挑戦して這い上がる人には光が差すだろう。そもそも人口減少で働き手は減っているのだし、デジタル分野の求人は堅調で、やってみれば案外面白くなって活躍する人もいるはずだ。IT業界だけでなくすべての企業においてITが分かるデジタル人材が必要とされる。
 逆に、いつまでも助成金を求め、保護を求め、国に何とかしてくれと不満ばかり言っているようでは、いくら能力があっても役に立たない。もらえるものはもらっておけば良いが、これからの時代に必要なことは自発性と自律性だ。何事も自ら進んで取り組まなければ身につかないし、成果も出にくい。
 決まった作業、誰でもできる業務、ひたすら回数をこなす作業、など受け身で義務的にでもこなせる仕事は、ITやAIやロボット、すなわちデジタルに置き換えられる。待っているだけでは仕事は出来ない。これは在宅勤務も同じ。同じ職場にいれば、周囲から声をかけてもらい、教えてもらうことも出来ただろうが、在宅では自分が発信しなければいないも同じこと。アウトプットも出せなければいる意味はないし、在宅で出来る仕事はアウトソースを使っても処理できるわけだから、専門業者に依頼するか、副業兼業でやってくれるフリーランスに置き換えることも容易だ。
 デジタル化の先に明るい未来、明るい光が差すためには、デジタルを効率化やコストダウンや人の置き換えに使うだけでなく、限界費用ゼロで顧客価値を高め売上・利益を上げて行く仕組みに活用しなければならない。デジタル庁が出来てそうした指針が示されるかどうかは分からないが、デジタルの活用方法で年後半から来年以降に向けて差がつくことになるだろう。
 「先が見えない時代」というのは、もう恒例の決まり文句のようになってしまっているが、今年は東日本大震災からちょうど10年。記憶も薄れつつある中で改めて大地震など天災への備えも忘れないようにしたい。コロナ感染が収まっていない状態で大地震や豪雨災害などがあると、思うように避難もできず、また避難によって更に感染が広がるというパニック状態もあり得る。
 日本も米国もトップが代わったことで環境問題への関心が高まるだろうが、地球全体の持続可能性を訴えながら、自社が持続出来なくなった・・・などという恥ずかしい話にならないように、自社の事業継続、サスティナビリティをまずは高めるべきである。自社の本業(商品やサービス)が地球のためにならない(SDGsのどの目標にも当てはまらない)ようなら、そもそも本業自体から見直すべきで、本業を深化し進化させ広めることで地球も自社も持続可能性が高まるようにしたい。
 「艱難汝を玉にす」と出来るかどうか。厳しさをバネに飛躍のための実力を磨いておくべき一年。

2021年1月

経営の道標 年度別

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