代表長尾が語る経営の道標
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2001年版 経営の道標
ビジネス構造の再構築
21世紀最初の年、2001年も終わろうとしているが、今後の日本経済の行方は未だ見えてこない。我がNIコンサルティングの設立は1991年。ちょうど10周年の年であった。まさに「失われた10年」と重なった道程だったが、ビジネス構造の転換は「やり過ぎではないか」と思える程、前向きに行なってきたと自負している。時に早過ぎたり、辛抱が足りなかったりで、思うような結果が出せなかった取り組みもあったが、「変わろう」とする姿勢、また「産み出そう」とする発想によって時代に適応してきたのではないだろうか。ビジネスにおいて、これが正解だ、という答えは用意されていない。行動し、実行に移すことで初めて正誤の判定が出る。この10年を振り返って自己採点すると60点くらいはもらえるのではないかと思う。
翻って、この10年にお付き合いいただいた企業について考えてみると、幸いに倒産したような企業は無いものの、あまり変化していない企業が少なくないように思う。10年前から、いずれこの業態では行き詰まる、いずれこのマーケットは縮小するということが明らかで、何らかの「変化」を起さなければ、自らがその「変化」の波に呑み込まれてしまうということを認識していたにも関わらず、相変わらず同じビジネス構造のまま、縮小均衡させつつ、デフレ圧力に追い詰められている企業もある。我々コンサルタントの仕事は、企業の変化を支援することであり、変化の必要性に気づいてもらうことである。したがって、クライアント企業が変化していないというのはコンサルタントの仕事が成し遂げられていないということでもあるが、変化の必要性に気づいてもらったにも関わらず、変わろうとしない企業を支援することはできない。私は「知・行・果の一致」をモットーにしているから、最初は「行動に移してもらえないということは、気づきが足りないのだ。自分のアドバイスについて充分ご理解いただけていないのだ」と思い、何度も説得し、議論を重ねたが、必要性は充分認識していると言う。私の言うことはごもっともであり、自分でもそう考えると答える。しかし過去のしがらみや体験に縛られて新しいことを試せない。単にコストが掛かるからという理由もあった。自社の将来にとって必要だと思うのにも関わらず、多少のコストが掛かるからという理由で取り組まないというのは、本当には分かっていない証拠であるが、大の大人が、それも経営者が「分かっている」と言う以上、それ以上は手伝えない。その後どうなったか、と気にしていると、やはり変わらない。10年経っても変わっていない。相変わらずだ。残念でもあり口惜しい。
この10年だけを考えても、かなり環境変化が起こっている。パソコンは十分の一くらいの価格になったし、インターネットが普及した。携帯電話がこれほど普及するとは当時は考えもつかなかった。私はポケベルを持っていた。就職協定がなくなり、人材採用はインターネットで行なわれるようになった。マザーズやナスダック・ジャパンができ、株式公開のハードルが下がった。週休二日が当然のこととして受け容れられるようになった。10年前は毎週のように週末に泊り込みの研修をやっていたが、最近は土日をつぶす社員研修はほとんど無い。絶対つぶれないと思っていた銀行がつぶれる世の中になった。インフレからデフレへ転換した。規制緩和で外資が参入し、他業種からの参入も増えた。中国がWTOに加盟した・・・
企業は「環境適応業」であると言われる。これだけ環境が変わったのだから、企業は大きく変わっていなければならない。自社の10年前と現在を比べてみて欲しい。どれだけ変わっただろうか。2002年は、更に変化があるのではないだろうか。ペイオフ解禁もあるし、W杯もある。携帯はFOMAになる。自社のビジネス構造を変えることを考えよう。組織の在り方、人事制度、採用の方法、勤務体制、販売方法、決済方法、チャネルの見直し、生産体制の再構築など、やらなければならないことは経営の全般に及ぶ。正解は事前には分からない。事後においても正解かどうかは分からない。ただ言えるのは座して死を待つだけでは経営とは言えないということである。
2001年12月
営業=パートナーシップ⇒コラボレーション営業
営業の仕事が変わりつつある。単に売ることや契約を取ることが仕事ではなく、如何に顧客との信頼関係を築き、パートナーとしての関係を構築できるかが問われている。日本の人件費は世界一の水準であり、その中でも営業職は比較的水準が高い。その高給取りがわざわざ訪問して対応する以上、扱い商品は高額なものか、リピートやメンテナンス、サプライが発生する商品である。従って、その場で売り切れば良いというものではない。小額の営業はほとんど小売店に移行しているのが現状だ。高額商品やリピート商品を売るためには、その営業担当者への信頼感や背景にある企業への信頼感が不可欠である。信頼してもらうためには、情報開示が求められる。CRMが話題になっているが、顧客の情報を一方的に吸い上げ共有するような仕組みは長続きしない。顧客の情報を教えてもらうには、まず売り手側の情報を買い手側に開示することが必要となる。このことは99年の4月に本コーナーで指摘した。売り手と買い手は本来、利害が対立する関係であり、お互いの手の内はあまり明かしたくはない。しかしそのままでは信頼感は生まれない。この利害を超越する関係を作ることが営業担当者には求められている。
ではなぜパートナーシップを構築しなければならないか、というと営業の付加価値を上げたいからだ。人間関係を作るというのは営業の基本。誰しもその必要性は感じている。しかしその多くはその人間関係に甘んじて、営業活動の付加価値を高める努力を怠っている。営業の付加価値とは、「顧客が考えていなかったことを考えてもらうこと」である。言い換えると「顧客の暗黙知を形式化すること」となる。人間関係、信頼関係を構築し、本音を語ってもらう、というのでは付加価値にはならない。既に顧客が考えていたことを教えてもらえるようになっただけで、顧客にとってメリットは生じない。しかし、顧客と営業担当者が場を共有し、暗黙知を形式化する「ナレッジ・コラボレーション」を行って、考えてもみなかったことを考えられるようになれば、そこに新たな価値が生じることになる。これを営業の付加価値という。その前提がパートナーシップなのである。共に協力し、協働することで新たな価値を生み出す関係を顧客との間に構築しなければならない。でなければ、これだけインターネットが普及してWEB上で受発注や商品説明、見積もりの提示などができるようになった時代に、高い人件費をかけて、交通費を使ってわざわざ顧客を訪問する意味はない。御用聞きのような活動しかできないのであれば、それはWEB上に置き換えて、その分見積もり(価格)を下げた方が、よほど売上が上がるだろう。
私共では、CRMやSFAの導入と同時に、営業のパラダイムを転換し、営業担当者に「コラボレーション営業」を実践していただくようにアドバイスしている。しかしこのパラダイムシフトはなかなか大変だ。これまで何年も何十年もやってきたことをゼロから見直さなければならないし、これまで実績があった人が同じようにできるとは限らないものだからである。また営業部門だけでなく、経営陣にもパラダイムシフトが求められ、そこにおいても抵抗感がある。過去の成功者はその成功故に変化を恐れるということだ。
2001年10月
人材採用の再考を
先日リクルート社から2003年度の新卒採用に向けたリクナビの提案の連絡があった。弊社は新卒採用にリクナビを使っているのだが、2002年入社の採用を決めたと思ったらもう2003年のことを考えなければならない。そう考えると「後回しにさせてくれ」と言いたいところだが、そろそろ採用モードを手控えから積極姿勢に転換する時ではないかと思う。若年人口は急速に減っている。まだ新卒の就職は厳しいと言われているが、それが果たして2003年まで続くかどうか。続いたとしても、就職環境の厳しい時に採用をしておくことが優秀な人材確保には欠かせない。特に中堅・中小企業にとってはその傾向が強いだろう。
実際に採用をしていると分かることだが、就職が厳しいと言っても中小企業には簡単に人材が流れてこない。新卒も中途も同様だ。これが採用難時代になったらどうなるか。バブル期のように学生を接待し、海外旅行に連れて行きといった過剰な加熱に至るかどうか分からないが、中堅・中小、特に中小零細企業には人材が来ないと考えておく必要がある。もちろん、ただ人材を確保すれば良いわけではないし、アウトソーシングや人材派遣もある。私もアウトソーシングに関する著作を2冊書いているくらいだから、自前の社員を増やすことが絶対だとは考えていない。必要な能力は金で買えると考えているが、また反対に、完全にバーチャルな、人材のいない企業もあり得ない。コアになる人材はいつの時代にも必要不可欠である。将来コア人材になりうる優秀な人材を多少厳しい状況であっても確保し続けることが企業体質の強化には欠かせない。
先日もあるクライアント企業の社長と話をしていると「ますますデフレは進むし、今後は人口減少などもあって、いつまでも業績の拡大ばかりを追いかけるのもいかがなものだろうか。売上を落とし、人員も絞って、優良顧客だけを相手に商売していくことも検討すべきではないか」といったご相談を受けた。その社長は老荘思想に影響を受けて考えたという。確かにこれから日本の経済は構造的に大変革をすることになるだろう。人口減少社会は壮大な実験になるに違いない。人口が減れば経済活力も減退する。毎年毎期売上をあげ、利益を増やすということが難しくなるだろう。日本人の価値観も変わっていくに違いない。しかしまだ早い。まだ人間の価値観はそこまで変わっていない。毎年給料は同じで、賞与もなし、昇格もなし、と言われて「それもまた良し」と考えられるほどには成熟化していない。特に若年層ではそうだろう。組織の活力を維持していくためには、ある程度の業績向上、人員増、待遇向上などが求められる。少なくとも今いる人間がずっと同じように存在するという停滞した組織では、却って個々人の可能性をスポイルした結果になるだろう。新しい人材を組織に投入して組織にゆらぎを作ることが必要だ。誰でも良いというわけにはいかないから、コアになりうる優秀な人材を確保することだ。そのための猶予はもうあまりない。
人材は高い買い物であるが、企業価値創出の源泉である。如何なる企業価値もその発生元は個人である。高い買い物だから躊躇もするが、月額延払いの月賦で手に入れることができる。今は一生面倒を見なければいけないといった時代ではない。せめて10年リース、20年リースくらいの感覚で捉えてみてはどうだろうか。今はインターネット採用で中小でも検索に引っ掛かる可能性がある。優秀な人材は余ってはいないが、チャンスはある。3年後、5年後を見据えて採用モードを変えてみてはいかがだろうか。
弊社も来年は採用を拡大しようと思っている。一時休止していた「人材採用コンサルティング」も再開しようかとも考えているところだ。
2001年8月
PDA モバイルツール
PDA(Personal Digital Assistance)市場が盛り上がってきた。PalmやPocket PCに加えザウルスも新製品が出て、急速に賑やかになって来たようだ。私は元々ザウルスユーザーだったので、ザウルスのMI-L1を購入してみた。インターネットは対応コンテンツが少なくイマイチだが、メールは便利である。携帯電話でも同様のことはできるが、何しろ小さ過ぎて、返信が難しい。ザウルスは手書き認識で一日の長がある。新製品ではスライド式のキーボードが付いたがこれはあまり使えない。しかしアドレスを入れるときには便利ではある。ノートパソコンを常に持ち歩くのは大変だし、起動にも時間がかかって実用的ではないが、PDAなら立ち上がりは早いし、持ち運びも苦にならない。ビジネスマンのモバイルツールとして有効ではないだろうか。
私共が提供しているSFA、CRMの端末としても十分使えるのではないかと考え、対応を進めているところだ。ⅰモードには対応した製品を出していたが、PDAなら更に使い勝手のよいものが提供できるだろう。聞くところによると、PHSの接続サービスに月額の固定料金が出るそうだ。そうなれば、つなぎっ放しでもよいわけで、活用度がグンと上がる。これまでは営業マンにも一人一台のパソコンが必要だと言っていたが、PDAが使えるとなると、PCは二人に一台あれば良しとなって、IT化投資も少なくて済む。ちなみにザウルスはオープン価格だが、39,800円だった。Pocket PCのマシンでも5~6万で手に入る。PCは安くなったとはいえノートであれば20万円はするから、PDAは安上がりだ。
問題は、こうした安くて便利になったITツールを企業経営者がどこまで理解して企業経営に活用できるかだろう。中小企業の経営者には特にそういう感度が必要だ。何しろ情報システムの担当者がいないわけだから。中小企業のIT化を進めるときに、必ず出て来るのが予算の話。景気も悪くIT化投資が出来ないと言う。しかし余程大掛かりなことでなければ中小企業でもいろいろと取り組めるIT化の道はある。大体、SISブームの時にはバブルの前兆のころではあったが、その辺りの中小企業が「顧客の囲い込み」という戦略的(?)なテーマに対して何千万という投資を平気でしていたものだ。それだけの予算があったら今ではかなりのことができる。当時何千万かけてやろうとしたことが今なら何百万で十分可能だろう。まずは使ってみることである。PDAも是非使ってみると良いだろう。PCを配布する前にPDAでメールのやり取りを始めてはどうだろうか?それに慣れてきたら、一人一台ではなく、二人に一台くらいのPC導入を検討する。とは言え社内にはPCが必要ない部署もあるだろうから、全社で言うと三人に一台くらいで良いのではないか。次にLANネットワーク。そしてグループウェアだ。グループウェアの運用ができればSFAを入れて顧客情報の共有を図る。規模にもよるがここまでやっても数百万。決してできない投資ではないはずだ。通信コストの削減や物理的距離の限界を超えたりと副次的なメリットも大きい。ADSLに代表されるように固定料金の太い回線が普及すれば更に大きな効果が期待できるし、活用度も広がるだろう。
まず経営者がPDAを買ってみてはどうだろうか。
2001年7月
ナレッジ企業への転換
21世紀になって4ヶ月経つが、企業構造とそれを構成する個人のあり方が大きく変化しているように感じる。終身雇用を基盤とした身分保障の根幹でもあった企業という存在が危ういものになり、企業への求心力は急激に低下している。派遣登録者は年々増え、新卒での派遣登録も行なわれるようになった。企業は合従連衡を繰り返し、大規模なリストラも珍しいものではなくなった。退職金は前払いで取り崩され、長期勤続はそれ自体では価値を生まなくなっている。企業という組織とそれを構成する個人はそれぞれの立場を主張し、溝を深めている。しかし、そもそも企業は個人の集合であり、個人はどうしても属している企業からの影響を受ける相互補完的な存在である。
その一方で、知的資産、知識情報の価値が相対的に増している。企業の付加価値を決めるのは物質的な価値ではなく、それに付随する、またその背後にある知的な価値である。物自体の価値はデフレスパイラルの中で年々下がっている。物には付加価値をつけなければならない。ユニクロの成功は中国製の安さにあるのではなく、その製品に知的味付けをしたところにある。100円ショップの成功は、その100円の商品自体に価値があるのではなく、すべての商品が100円であるというあの空間を作った智恵にある。そしてその智恵を生み出す、知識を生み出す源泉は如何なる企業、組織においても「個人」である。
企業と個人が遊離し、企業が人を物のように扱う一方で、企業には個人の智恵が求められている。フォード傘下に入ったマツダの希望退職は象徴的だ。なんと希望退職は1分で締め切られた。一度「辞める」と決め、意思表示したにも関わらずそこで働き続ける人がいる。上司は大切な仕事を任せたいと考えるだろうか。時間をかけて悩んだ末に「辞める」ことを選択した人間がそれを一方的に拒否されて、気分を一新してやる気になるのだろうか。
企業における人材は「コア人材」と「非コア人材」に二極化し、コア人材には権限と情報を与え、自律的な仕事を促すようになるだろう。非コア人材は派遣やアウトソーシングなどを通じて外部化していくことになる。そしてコア人材だけでは不足する知識や情報については外部とのネットワークを通じて確保するようになるだろう。その結果、企業という枠組みはあまり重要ではなくなり、企業(法人)という法的な枠組みよりも個人と個人のネットワークを基盤としたプロジェクト型の組織が中心となっていくことになるだろう。
そういう将来予測に立てば、急いでナレッジ企業への転換を行なわなければならないことになる。まず、社員個々人に属人化している情報や知識についてはITによって形式化(簡単に言えばコンピュータに載せる)しなければならない。担当者でなければ分からない、という状況を打破しなければならない。次に蓄積された形式知から暗黙知を取り出す教育をコア人材に施さなければならない。これは形式知を読む座標軸を与えるということだ。物の見方、考え方を教えるということである。この座標軸は極めて企業固有のものであり、決して外部化できないものであるため、コア人材に確実に伝えていくべきものである。そしてコア人材と情報を共有する。情報を共有しなければ自律行動は取れない。社内外の必要情報を必要な時に利用でき、コア人材がすべて共通の情報基盤の上で意思決定していく状況を作り上げることだ。そしてこの情報ネットワークは社内にクローズしたものでなく、必要に応じて社外のブレーンとつながるものでなければならない。
ここで必要となる情報ネットワークツールはグループウェアであるが、従来のグループウェアは社内の共同作業をメインに考えたものであった。これからのグループウェアは企業という枠を超え、社内外の垣根を取り払った情報共有とナレッジ共有を可能にするツールに進化発展しなければならない。NIコンサルティングでは、「ナレッジ・コラボレーション」「リンクソーシング」というキーワードで21世紀の企業や個人に適応したITツールとそれを使うための経営コンセプトを提供していく予定である。
2001年5月
顧客接点の整備(CRM)
相変わらず企業環境は厳しい。しかしこれは景気の良し悪しの問題ではなく、日本の経済構造、社会構造の問題である。要するに人口減少社会になって、無限の荒野がなくなったということだ。物が余り、土地が余り、金が余っている。どんどん新規の顧客を増やしていくことは難しい。リピートさせるためには本物でなければならない。偽物は一度は騙せても二度目はない。だから二極分化する。経済成長の中で物まね、横並びで誤魔化してきた偽物企業は淘汰されるだろう。本当に価値ある商品を価値あるサービスとともに提供している企業は生き残ることになる。
とは言え、本物企業であっても客数が増えなければ事業は厳しくなる。現在のようにデフレ傾向が続けば、数量を維持しても金額ではダウンだ。数少ない新規客を大切にし、既存客を上手にリピートさせ、愛顧客、優良顧客へと育てていかなければならない。特にローカルのエリア限定商売をしている企業はこの兆候が著しい。限定された市場で既に何年も前から人口減少していたりすると手詰まりになるのは当然だ。これが地方経済圏の景況感がなかなか好転しない根本原因だと思う。首都圏で商売していれば全国を対象にしている。だからまだ人口は増えている。すなわちマーケットの余地(荒野)がある。しかし地方企業は荒野がない。
そこで出てくるのがCRMだ。カスタマー・リレーションシップ・マネジメント、顧客維持管理と呼ばれるものであり、私は個客維持管理と書くようにしている。一言で言えば、木目の細かい顧客管理ということだ。言うのは簡単で当たり前のことだが、徹底できている企業はそう多くはない。私はこのCRM(個客維持管理)を「顧客接点を整備し、全社的顧客対応力を強化することで、顧客を育て、顧客のニーズをつかみ、顧客満足を生み出す価値創造をする仕組み」と定義しているが、大きく「WEBチャネル」「電話チャネル」「営業チャネル」「サポートチャネル」の4つに分けられる顧客接点を通じ、未認知客→認知客→顕在客→見込客→試行客→既存客→愛顧客→優良顧客へと顧客を育てる仕組みをITの力を使って整備することになる。
これまでもあったのだが、お互いの連携、情報共有ができていなかった「電話チャネル」「営業チャネル」「サポートチャネル」に加え、最近重要性を増してきた「WEBチャネル」を統合してマネジメントすることはITの力を使わなければまず無理だ。IT革命などと叫んで、中堅・中小企業でもパソコンの導入などIT化が進んでいるが、せっかく買ったパソコンが結局ワープロや表計算程度にしか使われておらず、たまにメールをやり取りするといった具合では成果に結び付くIT化とは言えない。どうせなら売上を上げ、企業体質を強化する「売るためのIT化」から進めるべきだ。それがCRMである。それを実現するための機器やソフトも安くなってきて、中小企業でも導入が可能になった。我々NIコンサルティングでも安価に導入できるCRMパッケージを開発中だが、今年はCRM元年となるだろう。
2001年3月
2001年 辛巳(かのと み)
いよいよ21世紀のスタートである。その第一年は辛巳(かのと み)。陰にして潤、軟にして温、終わりて始まる年。改革による混乱が一進一退し、波乱を呼び、バランスを崩す恐れあり。しかしその中にあって創造しイノベーションを断行することが次の新しい一歩となる。まさに世紀の変わり目に相応しい年であるとも言えるだろう。
今年は、人材需給のバランスが逆転する年となるだろう。新卒学生の就職難が叫ばれているが、学生数は減り、IT関連を中心に人材の需要は増している。中途市場も同様。ただしミスマッチが起こっていることは間違いないので、質の高い人材の取り合いになるだろう。失業率は高止まっても必要な人材が採れないという状況が現れる。人材の二極分化とも言える。インターネットを使った求人システムは好調で、利用者もどんどん増えている。今やパソコンを使いインターネットに接続することは当たり前であり、それだけではとてもIT人材とは呼べない。しかし従来の企業の中には依然としてパソコンを使いこなせず、インターネットも利用しない人材が居座っている。しかし今年の4月に入社する新卒新人は全員がインターネット求人の利用者だ。すなわち全員がパソコンを使い、メールのやり取りは当たり前にこなす。その新人を受け容れる上司や先輩がパソコンも使えなかったらどうだろう。もちろんパソコンを使えるからといって仕事ができるわけではないが、今どき、そんな上司や先輩が新人に尊敬されるだろうか。自分の将来像として目標になるだろうか。そんな人材がヌクヌクと仕事をしているその会社に対して将来性を感じることができるだろうか。ということで今年は社内人材の需給バランスも急速に変化する。混乱し、バランスを崩すだろう。経験年数とIT活用、業務知識と創造力といった物差しが人材の評価を変え、人事政策を変えることになる。
同時に今年は、労働形態、就労形態の多様化が進み、個人の仕事への価値観が問われる時代のスタートとなるだろう。派遣人口が増えている。紹介予定派遣も始まっており、新卒から派遣というのも増えてくる。一般的な事務は派遣が当たり前となり、IT関連などの人材は自社での確保ができずに派遣を使うことになるだろう。仕方なく派遣というよりは派遣の方が便利で質も高く、コストも見合うようになったからだ。ということは逆に派遣以外、すなわち正社員とは何かが問われるようになるだろう。「なぜ正社員なのか。」このことが個人にも企業にも突き付けられる。単なる労働契約の問題ではない。
今年はコア人材を見極め、コア人材とともに5年後10年後のビジョンを明らかにすべき年である。5年後10年後を考えた時に自社が生き残っていないことが予想されたら、すぐに清算を考えるべきだ。売却や吸収されるのもいいだろう。
今年は終わりて始まる年。イノベーションの年である。
2001年1月
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