代表長尾が語る経営の道標

弊社代表長尾の経営に関するメッセージを
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2009年版 経営の道標

経営の道標12月

会社を売ることも経営手法の一つ

 日本全体の高齢化が進むと同時に、企業経営者の高齢化が進んでいる。すでに何年も開業率よりも廃業率の方が高くなっていることはご存知の方も多いだろう。企業も高齢化というか少子化が進んでいて、出生率が下がっている状態だ。若い会社が減り年老いた会社が増えている。
 そこにもってきて、後継者不足である。中小企業の経営を継ごうという若者が減っている。何しろ、人口減少のマーケット縮小で、経営が難しくなっているし、すでに経営が苦しい会社が多い。いくら息子や娘に継がせたくても、赤字続きで存続が危ぶまれるような状態では無理強いはできない。今は、業績が良くても、5年後、10年後を考えると楽観できない企業が少なくない。
 優秀な子供であれば、それなりの大学を出て、そこそこの企業に勤めていたりするから、そこでサラリーマンをしていた方が良いのではないかと考える。放蕩息子でロクに学校も行っていないようでは、例外はあるだろうが、経営がそもそもできるのかと不安に思うこともあるだろう。中小企業でも経営者であれば、それなりの報酬が取れて、好きなことができていた時代には、小なりといえども一国一城の主としてやっていこうと考える子供もいただろうが、自分の親を見ていて、とてもあんな苦労はしたくない、と考えてしまうようでは、継ぐのは勘弁してくれと言いたくなるだろう。
 ではどうするか。会社を清算して廃業してしまうという手もあるが、それでは経営者一族は良くても、社員はどうなるのか。せっかくの事業も価値がなくなってしまう。建物や機械設備の評価も一気に落ちる。切羽詰ってどうしようもなくなる前に、M&Aを考えてみるべきだろう。
 私の会社でもM&Aの仲介業務をやっているが、良質な「売り案件」がなかなか出てこない。売りが出てきたころには「そりゃーもう誰も買わないだろ」と突っ込みたくなるような状態に陥っている。これでは売るに売れない。もっと早く売ることを考えてみてもいいのではないか。どうしても中小企業では、先祖代々の家業、先代からの商売を潰すわけにはいかない、売るなんて逃げるようで恥ずかしいという意識があるが、売れるうち(企業価値があるうち、事業が回っているうち)に手を打たずに、ズルズルと深みにはまり、最終的に潰してしまってはそれこそ恥ずかしいこととなる。そして社員も路頭に迷う。
 「うちの会社に売るほどの価値があるだろうか」と謙虚なことをおっしゃる経営者もいる。債務超過で明日にも危ないという状況ではなく、事業が継続しているのであれば、まったく価値がないということは少ないし、仮に価値がなくても、ゼロ円ででも事業をうまく譲渡すれば、雇用は守られるし、事業継続はできる。いきなり経営者が変わったりすると取引関係に影響があるから、契約次第では何年間かはそのまま仕事を続け、一定の報酬を得ることも可能だったりする。
 こうした話は結構あるのだが、通常のM&A仲介会社は、売買金額の%でフィーをとるから、ゼロ円ではフィーがゼロになってしまうし、ゼロではなくても安い売買金額だと大したフィーを取れないから、安い中小企業案件を手がけようとしない。だから第三者の仲介(事業評価等)なしで進めてしまうこともあるのだが、これがまた後でトラブルになったりする。
 やはりM&Aは間に第三者が立った方が良いし、第三者の評価があってこそお互いに納得する金額に落ち着くことになる。そこで私の会社では着手金を引き下げ、最低の仲介フィーも低く設定して間口を拡げた。ケースによればゼロ円でもお手伝いできるから是非相談して欲しい。売れるうちに。事業が回っているうちに。
 後継者もいない、今は何とかなっていても将来の成長が見込めない、しかし社員もいて雇用は維持したいし、取引先にも迷惑をかけたくない、となれば一度M&Aを検討してみるべきである。企業と企業の組み合わせによっては新たな価値が生まれることもあるし、検討するだけならタダである。企業経営の選択肢を拡げていただきたい。
 もはや気合と根性と努力と誠意だけでは、企業経営は継続できない時代なのだ。マーケット縮小は、勝者だけが生き残るサバイバルレースだ。真面目に頑張るだけでは勝てない。自分と自社の先行きを冷静に判断し、事業継続と雇用維持と自らのハッピーリタイアを勝ち取る。これも経営者の立派な仕事である。

2009年12月

経営の道標10月

改革は新しい人にやらせてみる

 長かった自民党政治が終わり民主党政権が誕生して一ヶ月少々。いろいろな見方があるだろうが、概ね高評価なのではないか。そうなる前は、民主党では力不足ではないか、やはり自民党の方が安心ではないか、鳩山さんではリーダーシップ不足ではないか、といった声があったが、いざそういう立場に立ち、その場に臨んでみれば、それなりに及第点というか、これまで自民党一辺倒で閉塞感があっただけに、天晴れと言いたくなるようなチャレンジもある。中身の良し悪しは専門家ではないので良く分からないが、2020年に向けた鳩山イニシアティブ、ダム建設の中止、羽田のハブ化など、今までそう思っていても言えなかったこと、変えられなかったことが一気に変わろうとしている。個人的には羽田のハブ化は大賛成だ。成田はあまりに不便過ぎる。
 正直なところ、鳩山首相の顔はあまり好きではない。宇宙人と言われるくらいだし、弟さんの方が凄みがあるように感じる。何だか弱々しい感じがしたし、リーダーシップを発揮しそうなイメージはなかった。だが、実際に首相の座についてみると、気のせいかもしれないが、顔つきが引き締まったように思う。重々しい感じではないが、以前よりは表情に自信が感じられる。やはり立場が人を作る。役職が人を育てる。
 政治のことは置いておいて、何が言いたいかというと、経営改革だ。企業経営の改革においても、古い人間に「変われ変われ」と言うのではなく、新しい人に替えて、思い切ってやらせてみるということが重要ではないか。古い人、実績のある人、ベテランにはもちろんそれなりの良さがあるが、古くからのしがらみや成功体験による固定概念が邪魔をすることがある。それよりは、多少実力面で見劣りがしたとしても、若い人、新しい人、改革を望む人に場を与えてみて、摩擦や障壁に立ち向かってもらう方がいい。
 世の中は大きく変わっている。10年前、20年前と比べても経営環境の変化は大きい。30年前とは隔世の感がある。ここ5年ほどは人口減少が現実になり、昨年からはリーマンショックだ。ITの世界でも、15年前にインターネットの普及が始まり、10年前に携帯電話でメールをするようになり、今やブロードバンドが当り前で、SNSだ、ブログだ、ツイッターだ、と次々に新しいツールが出てくる。昨年登場したアイフォンも人気で、携帯電話とパソコンの垣根も取り払われようとしている。
 このような変化に、企業は対応しなければならないわけだが、古い人に世の変化を教え、変革、改革の必要性を説き、苦手なITツールを教えて込んで・・・とやっている間に、勝手にITツールを使いこなし、世の変化を先取りしているような若者にやらせた方が速いのではないか。やらせてみるまでは多少不安でも、民主党がそれなりにやっているように、前原さんとか岡田さんとか長妻さんとか蓮舫さんとか、明らかに自民党時代より若い人たちが頑張っているように、案外できるものではないか。そういう意味では、古い亀井静香大臣が出てきて郵政を元に戻すことの方が、逆に不安を感じてしまう。
 会社を変えよう、企業改革しよう、意識変革させたい、と考えてきたけれどもなかなかうまく行かない、という企業は、一度新しい人にやらせてみるということを考えてみるといいだろう。案ずるより産むが易し。後生畏るべしだ。

2009年10月

経営の道標8月

人財の見える化

 人材育成、人材活用を考える時、必ず念頭に置くことが、「イカとタコを比べるな」ということだ。イカとタコは違うのに、つい同じように並べて比べてしまう。これがいけない。
 イカもタコも、スミを吐き、足が多い。焼いても、煮ても、刺身にしても食べられる。食感もグニャっとして柔らかいようで、歯応えがある。海洋性の軟体動物である。共に、「軟体動物門 頭足網」に分類され、イカは、「十腕形上目」、タコは「八腕形上目」に属す。一般に足が8本などと言うが学術上は腕らしい。実はイカは10本の腕(足)を持っているが、その内2本は触腕と呼ばれ構造が違うため8本に見えるそうだ。
 イカとタコが似ていることを否定する人はいないだろう。しかし、似てはいるが同じではない。イカにはイカの良さがあり、タコにはタコの良さがある。イカとタコのどちらが上か、どちらが美味いか、と比べてもあまり意味がない。
 私は焼いたイカは好きだが、刺身はあまり好きではない。タコは刺身が美味いと思う。煮てもいい。だが焼いては食べない。「タコ焼き」なら食べるが・・・。「タコ焼き」は好きだが、「イカ焼き」は食べない。イカの丸焼きなら食べる。イカとタコでは優劣がつけられない。時と場合によるし、調理方法にもよる。
 これと同じことが人材にも言える。同じ哺乳類であり人類であって、姿形も似ているが、同じではない。A君とB君が似ていたとしても同じではない。イカとタコに優劣がつけられないように、A君とB君の優劣はつけがたい。A君にはA君の良さがあり欠点もある。B君にはまたB君の良さがあり、不得意分野がある。ある仕事にはA君が向いているし、また別の業務にはB君の方が適していることがある。
 人材を年次や職種、性別、タイプなどで見分けようとせず、一人ひとり、個々、個別に見て、その人に合った仕事、育成、教育、処遇を行う必要があるし、その人のキャリアビジョンを描いていく必要がある。十把一絡げに社員を扱ってはならない。共通のキャリアプランやコース別人事などで充分だと思っていては、個々の能力を伸ばし、活かしていくことはできないと考えるべきである。
 社員個々に応じた育成、処遇を行うためには、社員個々が可視化されていなければならない。人材の見える化である。入社時のデータだけでなく、職務歴、教育歴、評価歴、資格や趣味、家族構成、適性検査などは定期的に実施した方がいいだろう。性格特性は変わることがある。本人の人生プラン、キャリアビジョンなども変化する。それらをきちんと可視化して、イカなのかタコなのかを見極め、その人に合った人材活用、人材育成をしていくことが求められる。最悪なのが、イカをタコにしようとすることだ。
 優秀な調理人は素材を活かす。上司や経営者が調理人だとすると、イカはイカらしい調理をし、味付けをしなければならない。タコにはタコのレシピが必要だろう。人材もA君にはA君に合った調理法や味付けがあるはずだし、B君にA君と同じ味付けをしたのではB君という素材が活かされないことになる。イカもタコも一緒くたにしていては調理人失格である。
 企業は人なり、と言う人は多い。人は石垣、人は城。人は企業価値を生み出す宝である。そう思っていてもお宝である人財が見えていない企業が少なくない。大企業であれば人数が多いからという理由で人事データベースがあるが、固定的な情報が人事部で共有されているに過ぎない。中堅・中小企業では労働者名簿と給与計算データ程度しか整備されていないことも多い。中小企業でも社員数30名を超えたらお宝の見える化に取り組むべきだろう。実際、どこの学校を出たかくらいは頭に入っていても、その人財をさらに磨くための情報は不充分だ。イカなのか、タコなのか、イカならイカをどう育て、どう料理(活用)していくか、もっときめ細かく考えて欲しい。人が企業の素(基礎)であり、価値創出する宝なのだから。

2009年8月

経営の道標6月

訪問を減らしてコンタクトを増やす

 暑い季節になるとどうしても訴えたくなるのが「エコ営業」だ。昨年も同時期にこの経営の道標で「エコ営業のすすめ」を書いた。あれから一年。やはり地球温暖化は進行していて、二酸化炭素排出量の削減は急務であり、エコカーブーム、エコポイントブームも起こっているから「エコ営業」にも関心が高い。セミナーでもウケがいい。しかし関心は高いが、まだまだ実践している企業は少ない。そこで今年も訴えたいと思う。
 エコ営業とは、「EcologyとEconomyに配慮し、WEB・Mail・TEL・FAX・葉書・資料送付等を活用することで、訪問を減らしコンタクトを増やす21世紀型営業スタイル」のことである。このエコ営業は、地球に優しく、営業マンにも優しく、顧客満足も上げながら、営業経費を削減するという一石四鳥の成果が得られるスグレモノだ。是非取り組んでいただきたい。
 昨年のリーマンショック以降、経営環境は厳しさを増し、景気は冷え込むばかりである。そうなるとどこも考えるのが、営業強化。営業強化と言えば、すぐに「訪問回数を増やせ」「電話本数を増やせ」となる企業が少なくない。これは当然、営業改革にはつながらないし、営業生産性を低下させることになる。「訪問しないよりはした方がいい」「電話をかけないよりはかけた方がいい」という目先のことだけを考えたもっともらしい論拠によって現場の営業マンが追い立てられる。だが、実際には訪問するにも電話をかけるのにも時間がかかるわけで、一日24時間、一ヶ月30日の間にできることには自ずと限界がある。一定のレベルまでは行動量、件数、回数を増やすことがアウトプットを増やすが、一定レベルを超えれば、それ以上は増やせなくなるし、それを無理して増やそうとしたら質を低下させて無駄なものになってしまう。
 我々ビジネスマンは、一日24時間、1ヶ月30日、一年365日という限られた時間の中でどれだけの成果を生み出すかを問われているのだから、良いことをただ多くやればいいのではなく、質と量のバランスをとりながら一定時間内に最大のアウトプットを生み出すためにはどうするかを考えなければならない。
 そこで効力を発揮するのが、エコ営業の「訪問をあえて減らして、その分顧客コンタクトを増やす」という発想の転換である。客先に訪問し、リアルに面談するのが良いことは間違いないが、それには時間とコストがかかる。だから無理して訪問を増やそうとする代わりに、重要度の低い訪問は減らして、それで浮いた時間を使って葉書を書いたり、メールを送ったり、WEB会議システムを使って顧客とのバーチャル面談をしたりする。もし1コンタクトの価値が半減したとしても、それによって3倍量のコンタクトができれば1.5倍の成果を生むことができる。要は限られた時間内での質と量のバランスだ。おまけにコストも下げられるし、CO2の排出も少ない。もうひとつおまけに、新型インフルエンザで外出、客先訪問が制限された場合の備えにもなる。
 WEB会議システムを商談に使うのがイヤなら、葉書はどうだろう?無理してITを使う必要もない。これはすでに実践している人もいるからそんなに難しいことではあるまい。1訪問したと思って、その時間で3枚の葉書を書く。いくらなんでもそれくらいは書けるだろう。これで3倍のコンタクトだ。1コンタクトのコストは100円。官製はがきでは味気ないから、多少の工夫はしたい。私が提唱する「顧客創造葉書道」専用の葉書だと1枚50円。それに記念切手を貼るだけ。3枚送っても300円だ。300円では電車で顧客訪問したら隣の駅までしかいけない。これも立派なecoである。営業の成績が悪くて困っている人は、騙されたと思って、毎日3枚の葉書を見込み先や休眠客やお世話になった人に出してみて欲しい。365日欠かさずやっても10万円ほどのコストだ。これで必ず成績アップするはずだ。1日1訪問増やせと言われるよりよほど楽でコストもかからない。
 エコ営業では、分業も考える。営業マンに何でもやれと言っていては生産性は高まらない。アポをとったり、休眠客の掘り起こしをしたりするような仕事はアシスト部隊を作ってみると良い。是非やりたいのが、WEBを使って24時間365日休まない営業マンを作ること。動画マーケティングだ。ブロードバンド化されたWEBの世界では動画が簡単に見られるようになっている。文字や写真だけではパンフレットの代わりにしかならないが、動画があれば、営業マンの代わりになる。うまく作れば、ヘタな営業マンより分かりやすく説明できるし、YouTubeなどの動画サイトに投稿して自社のホームページへの誘引をすることも可能だ。動画がベテラン営業マンの代わりになるとは思わないが、新人営業マンの代わりくらいにはなるだろう。動画(新人)営業マンが一次コンタクトをして、そこで興味を喚起した先に絞ってベテラン営業マンがリアル訪問すれば、1訪問あたりの効果が高まることは自明のことである。
 工夫次第で営業のやり方は変えられる。何しろインターネットが登場して15年ほどだし、ブロードバンドはまだほんの数年だ。日に日に営業活動の環境も変わっている。何十年も変わらず同じようなやり方をやっているだけではダメなのだ。そして地球環境は待ったなし。地球に優しい営業活動にシフトして欲しい。

2009年6月

経営の道標3月

営業力強化を営業部門任せにしない

 相変わらず厳しい経営環境が続いている。年度末の駆け込み需要もなく、多くは翌年度への先送り・・・。では4月以降が期待できるかと言うと、更なる落ち込みを予想する専門家も少なくない。定額給付金の支給が始まっているが、焼け石に水程度で終わりそうな感じだ。
 こういう時こそ営業力強化。この急場を何とか営業力で乗り切りたいと考える経営者は多い。実際、私共の「営業力強化セミナー」は盛況だし、この3月は新規契約の受注も伸びている。前向きな手を打つ余裕も無いような企業は新規投資を全面ストップし、縮小均衡で乗り切ろうとしているのだろうが、多少なりとも余力があれば、じっと我慢していても急に景気が良くなることなどないのだから、手を打って行くしかない。何らかの新しい手を打たなければズルズルと落ち込んで悪循環に陥ることになるだろう。
 厳しい時には無駄な経費を削ることも大切だが、売上がないことには経営は維持できない。やはりビジネスの第一歩は売ることだ。「今こそ営業強化だ」「こういう時こそ営業部門が踏ん張れ」とゲキを飛ばしたくなる。だから「営業力強化セミナー」に人が集まって、私とすればありがたいが、営業力強化を営業部門任せにし、営業部長頼み営業マン頼みの叱咤激励を繰り返すばかりでは、本当の意味での営業力強化にはならない。営業部門、営業マンの尻を叩くのは、「営業強化」ではあるけれども「営業『力』強化」ではないし、もちろん「営業改革」にもつながらない。
 ハッキリ言う。営業部門だけでは売れるようにはならない。営業努力だけでは押し付け、売り込み、泣き落とし、お願い営業になってしまって、値引や返品を招き、最後はクレームを生むことになる。今や、営業力強化は、仕入部門、製造部門、開発部門、施工部門、設計部門、企画部門、サービス部門、メンテナンス部門、物流部門、システム部門などを巻き込んだ全社的な「営業『組織力』強化」にならなければならない。
 ハイブリッド車でありながら、189万円という低価格を実現し、販売目標の3倍も売れているホンダのインサイトを見てみよ。売れたのはホンダのディーラーの営業マンの努力のおかげだろうか。営業マンは試乗させて説明しているだけだ。それでも売れていく。
 ユニクロのヒートテックを見てみよ。売れたのは店舗の販売員が頑張って接客したからだろうか。違う。ロクに説明もしていない。POPがあるだけだ。
 今は、他社にないモノ、良いのに安いモノでなければ売れないし、独自の価値がなければ売れても利益がとれない。営業マン、営業部門の役割は、低下したのではなく変質したのだと考えたい。顧客現場、マーケット現場、フィールドに出て、顧客の生の声を拾い、競合の動きをつかんで、それを社に戻って全社にフィードバックするのが営業の役割。そこから新商品、新企画、新サービスのネタや取り組みを引き出すことが営業部門に課せられたミッションである。
 ホンダが189万円という価格にこだわった背景には、営業現場から上がってきた「ハイブリッド車に乗りたいけど高い」という顧客の声があったはずだ。それがあったからこそ安くすればプリウスに勝てるという勝算があったのだろう。
 今度は、トヨタが旧型のプリウスを値下げして対抗だ。きっとホンダの営業マンは苦戦し始めるだろう。その苦戦は営業マンの責任だろうか。違う。会社対会社の戦いだ。だがトヨタのこの安直な値下げは、販売台数は伸ばしても利益を削ることになる。何十万も値下げして利益が出るなら、そもそも利益を取り過ぎていたことになる。どういう戦いになるのか楽しみだ。
 さて、このホンダとトヨタのハイブリッド戦争が行われている裏で、日産やマツダの営業マンはどうしているだろうか。きっと上司から「売れ!売れ!」と気合と根性を注入されているだろうが、本音では「売れって言うならハイブリッド車を作れよ」とでも思っているのではないか。三菱の営業マンは「はやく電気自動車を発売してくれ」と思っているだろう。
 これらは私の想像に過ぎない(事実に反していればご容赦願いたい)が、何が言いたいかというと、売れるモノ作り、売れる仕入れ、売れるサービス、売れる付加価値がなければ、営業に発破をかけても売れないということである。気合と根性があって、訪問件数や電話本数が多い方が、少ないよりは良いので、発破をかけるなとは言わないが、精神論だけではどうにもならない。無駄な営業経費をかけて値引して無理に売るくらいなら、その努力を全社営業体制作りに振り向けて欲しい。営業マンを単なる「売る人」から「情報伝達人」「商品開発リーダー」「製品企画担当者」にシフトさせる営業改革に是非着手して欲しい。この営業改革は営業部門だけではできない。現状の危機感をバネにして、全社を巻き込んだ「営業『組織力』強化」につなげていただきたい。

2009年3月

経営の道標1月

2009年 己丑(つちのと うし)

 一年前にこの「経営の道標」に書いたように、2008年は波乱の年になってしまった。それなりに危機感を持ち、サブプライム問題への懸念も持っていたのに、その予想を越えた波乱があった。想定外の事態に直面し充分な対応ができなかったし、危機意識をもっとクライアント企業の経営者や社員の皆さんに伝えることができなかったか・・・と悔やまれる。
 そして今年、2009年。引き続き厳しい環境が予想される。一層厳しいと言った方がいいか。世界経済はもとより国内の政治も混迷が続き、不透明感が拭えないだろう。ズブズブと足が泥濘に取られるような、底が見えない不安感に覆われる一年。足許が定まらず、立ち往生しそうになる。
 但し、軟弱な地盤でぬかるんではいるけれども、地面が割れて亀裂に落ちるわけではなく、底は必ずある。見えないけれども底はあるわけだから、自暴自棄になったり、諦めてしまったり、思考停止に陥ってはならない。もつれた糸が解れるように、雑踏の中を当てもなく歩いているとビルの間から富士山が見えてきた時のように、今後どう進むべきかの道筋が現れてくる。その道筋を何としても見つけなければならない。
 大切なことは、他者や幸運に期待せず、自らの足で立ち、自らの頭で考えて進むことである。国の景気対策や世界経済が回復するのを期待しない。更に悪化する可能性も充分にあることを前提にして自ら手を打つ。文句を言っても、嘆いていても、誰かの助けを待っていても何も解決しない。ピンチに際して明らかになった自社の問題を解決する機会と捉えて、目の前の自社のことに集中したい。
 そのためには経営者はもちろん、社員一人ひとりが、自分が会社を支える、自分の会社を良くしたいという意識を持つことが必要だ。会社は社員で成り立っており、社員が支えている。会社は社員であり、社員が会社である。その意識を経営者から一社員までが共有し、危機に立ち向かう意識を持つべきである。それができれば、足場は固まる。イザという時にも最悪の事態は避けられる。もちろん金融機関も厳しいご時世だから、資金調達の筋道の確保は必要だ。こういう時に金融機関を信じてはならないことは言うまでもない。
 そして、守りを固めたら攻めに転じたい。与信管理には気をつけながら、営業力強化、販路拡大、販売方法の拡充に取り組みたい。不景気になって一番困るのは客先が限られている会社だ。厳しい時こそ新規開拓。新チャネル開拓。新販売方法の研究。同時に製品面から新用途、新分野への応用も考えたい。今は、顧客も困っている。顧客のお困りごとに対応する新サービス、新商品を提案するチャンスでもある。起死回生の満塁ホームランなど打てないから、トライ&エラーでコツコツと塁を進める。現場を可視化してちょっとした動き、ヒントも見逃さないようにしたい。こういう時こそ「可視化経営」だ。
 最後は、こうした激動の乱世に居合わせたことを楽しみ、ピンチをチャンスに変える覚悟を持って前向きに生きるしかない。やったようになる。やったようにしかならない。

2009年1月

経営の道標 年度別

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