孫子に学ぶ売るためのIT化 (其の壱)
孫子は、言わずとも知れた、最古にして最高の兵法書である。今から約2500年前の中国春秋時代に斉の国に生れ、呉の国王に仕えた兵法家、孫武が著したとされる。
計篇、作戦篇、謀攻篇、形篇、勢篇、虚実篇、軍争篇、九変篇、行軍篇、地形篇、九地篇、用間篇、火攻篇、の十三篇から成る比較的短文の古典であるが、既に司馬遷、(前145―前86)の史記には、兵法書として広く読まれたとの記述があり、三国志で知られる魏の曹操は、孫子の注釈書を残している。その後中国や日本のみならず、ヨーロッパにも影響を与え、ナポレオンが孫子を愛読したことは有名である。最近では米国のペンタゴンでも孫子の研究が行なわれるなど、二千年以上の長きに渡り、軍事や組織統率、人間洞察における参考書として用いられてきたことは、その内容の秀逸さを物語るものであろう。
本稿では、その孫子の教えを最新のITキーワードであるSFAやCRMに照らして解釈し、その智恵を「売るためのIT化」に活かしてみたいと思う。
情報共有、情報伝達が組織運営の基本
◇孫子曰く◇
衆を闘わしむること寡を闘わしむるが如くするは、形名是れなり。
孫子は、大軍や大組織を、少数精鋭部隊のように動かすには、旗を立てたり、鐘を鳴らしたり、太鼓を叩いて合図をするなど、情報共有と情報伝達が肝要であると説いた。これを現代組織に置き換えると、今更旗を立てたり、太鼓を叩く訳には行かないから、その道具としては、ITということになろう。昔も今も、組織を動かすためには、情報共有と情報伝達が欠かせない。それを紙や口頭でやっていたのではとても厳しい戦いを勝利に導けまい。時代が変わっても原点は変わらないが、やり方や道具は変えなければならないのだ。
全社営業体制を作るためには、部門間や拠点間で生じる矛盾や摩擦を乗り越える組織体制を作ることが必要であり、そうした組織で統制のとれた動きをするためには、情報を共有し、情報伝達スピードを上げ、必要な情報がきちんとやりとりされる仕組みを作ることが欠かせない。SFAやCRM、その基盤となるグループウェアといったITツールはそのための道具である。
戦うストーリーを持って事に臨む
◇孫子曰く◇
勝兵は先ず勝ちて而る後に戦い、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む。
勝利する軍は、まず敵に勝つ段取り、道筋をつけておいてから戦闘に移り、負ける軍は、先に戦闘を開始してから、どうやって勝とうかと考えるものだ、と孫子は説く。現代の営業組織でもよく見られる光景であるが、だいたい売れない営業マンというのは惰性で訪問して、「何かないですか」とやっているものだ。売るためには、実際の営業行動に移る前に、次回予定、行動計画を明示し、それに対して上司や部下が智恵を出し合い、戦い方(商談ストーリー)を描くことが必要だ。
それによって、平凡な担当者であっても商談を有利に進めることができるようになる。この時に必要な道具がSFAやCRMであり、営業日報を計画書運用する「IT日報」が求められる。商談が終わったその日には、日報入力しながら次回の予定を考え、更に翌日予定している商談については、改めてどういう組み立てにするかを考え、事前準備する。次にどういう手を打つかは、考えなければならないが、考えなければ書けない日報は、営業担当者を「勝兵」に育てる。孫子の智恵を現代に活かすSFAやCRM(売るためのIT化)は、先手先考のサイクルを組織に定着させる道具であり、単に営業マンにパソコンを持たせるIT化とは似て非なるものである。