橋本環奈がイメージキャラクター、「AI秘書」がうっかりを防ぐ

2018年11月22日



AI(人工知能)を利用した機器やサービスの発表が相次ぐ中、Webや新聞、雑誌などのビジネス系メディアで、映画やテレビドラマで大活躍の女優・橋本環奈さんがほほ笑む「AI秘書」のビジュアルを目にしたことはないだろうか。このサービスは、AIキャラクターが秘書のごとく仕事をサポートしてくれるというもの。そもそもAIはキャラクター活用と相性がいいという話もある。AI利用への関心が高まる中、開発元のNIコンサルティング・長尾一洋社長に話を聞いた。


――そもそも「AI秘書」はどんなサポートをしてくれるのでしょうか?


長尾一洋社長(以下、長尾氏):基本的には人間の秘書がやってくれるサポートと同様です。商談などの各種取引において、準備不足や漏れがないかなど、AI秘書がユーザーにやさしく教えてくれるイメージです。


 例えば、スケジュール情報に基づき、明日訪問する先について、顧客情報や過去の取引履歴やクレーム情報、さらに先方のWebサイトでの更新情報などもAI秘書が読み取って、訪問時の活動に対して、「この案件、進捗が遅れていますよ」とか、「この製品の営業提案をする時期ではないですか」といったアドバイスをしてくれます。


 また、具体的な取引案件の情報を入力していれば、過去にあった類似の商談情報の成功事例を提示して、商談をスムーズに進められるように導きます。


 こうしたことは、人間でも優秀な人が時間をかけて整理すれば、自分自身でもできることかもしれませんが、日々情報を集める手間がもったいないですよね。従来、時間をかけて収集して、何らかの意思決定を伴うような作業を、AIが代わりにやってくれることで、人間は本来取り組むべき、重要な戦略を考える時間が生まれるわけです。


アプリ版に登場するAI秘書のキャラクター例


――橋本環奈さんをイメージキャラクターに使った「AI秘書」のビジュアルはインパクトがあります。


長尾氏:このAIを使った営業支援システムでは、ユーザーがシステムになじみやすいように、かわいらしい男女のキャラクターを採用しています。ちなみに、この手のシステムでキャラクターを利用したUI(ユーザーインターフェース)はうちだけです。


 そのためプロモーションにも、どなたかイメージキャラクターを採用するのがいいのではないかと社内から提案がありました。そこで、製品リリース当時「千年に一人の逸材」というニュースで、そのかわいらしさに注目が集まっていた橋本環奈さんに、すぐさまオファーした次第です。2014年ですから、まだ彼女が中学から高校1年生に上がる頃かと思います。


 評判は上々で、とりわけパートナー企業の若手の営業マンの方々から、“NIコンサルさん、結構いいセンスしていますね”と話題になりました。また、こうした宣伝効果だけではなく、システムに対してかわいらしいイメージを想起させる取り組みは、人間とAIとの関係上、大事なポイントなのです。


ビジネス誌で見かけるAI秘書の広告でほほ笑む橋本環奈さん



AIは擬人化されやすいことを念頭に開発


――それは、どういうことですか。


長尾氏:AIは擬人化されやすいからです。一般にAI活用にキャラクターを利用するのがいいという意見も、この考えが根底にはあると思います。事実、日本語だとずばり「人工知能」ですし、人間を模したものととらえる人は多いでしょう。


 そうした中で、例えばAIが日々の動きを観察して、ユーザーに対して「あなたはスケジュール通りに行動していませんね」とか、「仕事の進め方が遅いですね」など、行動結果に対して評価をするようになったら、そんな口うるさいAIのことは嫌いになる人がほとんどでしょう。これは、言い換えれば生身の人間からの叱責と同じなわけです。


 リアル世界で怖い上司や、営業コンサルタントが出てきて、「お前、この案件進んでないじゃないか。ダメじゃないか!」とやられるのは、誰だってイヤですよね。さらに、AIのような“機械”にまで怒られるようになったら、もっとイヤになってしまいますよ。


――それは、確かにそうです。


長尾氏:ですが、AI秘書からやさしく問いかけられれば、圧迫感はないでしょう。しかも、システム的にAI秘書のアドバイスはリアル世界の上司には伝わりません。アドバイスはあくまでも秘書とユーザー間のパーソナルなものなんです。「これ、漏れているぞ!」と指摘するのではなく、「あの件、忘れていませんか?」とあくまでも気付きを与えるアドバイスというスタイルにすることが、“働き方改革”の一環としても重要でしょう。


 かわいいキャラクターがやさしく振る舞うことで、AIに対してネガティブではなく、ポジティブな感情を抱いて、AIが学習できるように、ユーザーが持っている情報をさらに入力していく――。この気持ちと行動の好循環がAI利用においては重要なポイントなのです。そして、情報の提供が増えれば、AIは学習してより賢くなるので、アドバイスする内容の精度も上がります。


 ちなみに、先ほど申しました通り、AI秘書は営業マンなどユーザー本人がうっかりして案件の進捗を放置しているようなケースには、パーソナルに本人にアドバイスします。しかし、部下が困っているようなケース――例えば、部下の営業マンは熱心に何度も何度も顧客のところに通っているのに、時間ばかりかかって、うまく進行していないように見受けられる案件については、上司のAI秘書が「部下のBさんの案件がうまく進んでいないようですよ」とアラートを出す機能があります。



ゲーミフィケーション機能で親しみやすさをアップ


――いいアドバイスをしてくれるようになれば、そのAI秘書に愛着を持ちますね。


長尾氏:ユーザーが、「アドバイスされた情報が参考になった」とプラスのフィードバックをすると、AI秘書はリコメンドした情報が正しかったと理解して、成功パターンの商談スタイルに関する学習を進めることができます。


 一方、仮にAI秘書が提案した内容が状況に対して間違っていた場合は、「間違っているよ」とフィードバックしてあげれば、そうした回答は選ばないように学習します。この繰り返しで、AIはどんどん賢くなっていきます。


 こうなってくると、ユーザーもAI秘書が成長するためにがんばろう、という気持ちになってきます。そのためにゲーミフィケーション機能も採用しているんです。


ゲームのアバターと同じく、AI秘書の服装などを好みに合わせて着せ替え


――どのような機能が実装されているんですか。


長尾氏:ゲームなどのアバターと同じく、着せ替え機能があり、「エネコイン」というシステム内通貨を使って、衣装や靴、髪形などを替えることができます。けれども、さすがに橋本環奈さんそっくりにすることはできませんが(笑)。


 また、AI秘書にはアシスタントレベルというものが設定してあり、ユーザーが「いい情報だったよ」と“サンキュー”のフィードバックをするとレベルがアップします。レベルアップすると購入できるアイテムの種類や、キャラクターの動作の種類などが広がります。


 エネコインは、システムを採用した会社ごとにカスタマイズできますが、基本的には商談の経過状況といった業務日報を入力したり、案件を受注したりするなどで、たまる仕組みになっています。ただし、たまる一方ではなくて、1日当たりの一定の消費量があるので、常にアクティブにシステムと向き合わないとエネコインがたまらない仕組みにしています。


エネコイン集めがAIが学習することにつながる


――それはなぜですか。


長尾氏:これはシステム利用を定着させるためです。そもそも、ユーザーが情報を入れてくれなければ、AIは学習できません。ですので、AIが学習するためのモチベーションツールとしてエネコインがあるわけです。


 これはリアル世界の秘書でも同じことでしょう。秘書に必要な情報を与えなければ、何も用意やアドバイスができません。自分のスケジュールや、ミーティングするお客さんの情報、さらにそのお客さんとはどういう関係なのか、そして何をやろうとしているのか――。リアルの世界でも、こうした情報を基に、秘書は資料を用意したり、会食の場所や手土産を選んだりするわけです。


 ちなみにシステムには、AI秘書たちの運動会のような「ダービー機能」もあります。いわゆる受注キャンペーンなどで、その成績に応じて各ユーザーのAI秘書たちが競争をするわけです。1位になればエネコインもたくさんもらえます(笑)。


 自分の秘書が1位になるように頑張ろう!となると、さらにAIは学習ができて、より使い勝手が良くなるという流れになります。


ユーザーのAI秘書たちが一堂に会して競争を



AI秘書が学習できる環境づくりの整備を


――学習させることが重要だということですが、AI秘書を使いこなすにはどんな準備が必要なのですか。


長尾氏:IBMさんのAIがチェスの世界チャンピオンに勝ったり、クイズ番組でクイズ王に勝ったりできたのも、事前に大量の関連データを学習させていたからです。同様に、覚える内容やデータ量は異なりますが、AI秘書もデータの学習が大事なのです。


 ただ、日本全体で考えてみますと、日本の企業の99%、働くヒトの7割が中小企業と言われていますが、それら多くの中小企業に大量のデータがあるわけではありません。ですから、AIの世界でのキーワードの一つである「ディープラーニング」的なアプローチは、多くの企業にとってオーバースペックになると思います。


 とはいえ中小であっても、生身の人間では簡単に処理できない規模のデータは存在しています。中でも、小口取引で多数のお客様を持つような業態であればあるほど、交渉内容、見積情報などは膨大なものになり、人の頭では覚えられないので、それらの情報管理はやっているでしょう。そして、その情報の中から必要なものを、人手をかけて条件設定して検索するよりも、学習したAIが自動的に提案してくれるほうが楽なのは当然です。


 ただ、ここで重要なのはAIが学習できる状態で、「情報」が管理されているかどうかなのです。


――情報の管理というのは具体的にどういうことですか。


長尾氏:端的に言えば、デジタルデータとして情報があるかどうかです。先ほども申し上げましたが、AIがチェスや将棋で名人に勝ったのは、過去の棋譜をデジタルデータ化し、それをAIに学習させたからです。棋譜が紙のままでデジタルデータ化されていなかったら、いくら優秀なAIがあっても学習できませんからね。ですからAI導入を進めるためには、エコ的な資源を守る観点とは別に情報を紙からデジタルに置き換えるペーパーレス化が必要なわけです。


 ただ、大手、中小を問わず、ペーパーレス化を提案すると、「この書類はどうしても紙で持っていないと」とか、「これは重要なお客さんが紙でくれる書類だから、紙で持っていたい」という具合に、抵抗する経営幹部がいるのも事実です。



ペーパーレスとAIの学習環境は表裏一体


――そうした人は多そうですね。


長尾氏:ええ、ですので私は「できるところからやりましょう」と言っています。どうしても残しておかなければならない資料は紙で残して、それ以外のものをデジタル化すればいいわけです。完全ペーパーレスの世界を想像してしまうから、難しく感じてしまうんです。実際、完全には難しいですよ。私自身、紙の方が便利な場面もあると思いますからね。


 だから、まずはできるところからやる。AI秘書に限って言えば、AI秘書がアドバイスしやすくなるようなデータです。例えば商談の経緯などを記録した日報や、見積書などをデジタルデータとして残すのは簡単でしょう。そういうところから始めて、経費精算や請求・支払伝票、さらに営業部門と生産部門などの部署間の依頼書といった具合に徐々にペーパーレスにして、デジタルデータ化することで、職場の業務フロー自体も改善します。


 上司の決裁なども「紙に印鑑」というアナログなプロセスがなくなり、パソコンやスマホ上で決裁権限を管理しつつ、進めていくことができるわけです。そしてAI秘書も学習する環境がどんどん整っていきます。


――では、学習させるデータが少ない期間は、秘書としての能力は限られるということですか。


長尾氏:そうですね。そもそもAIは急に便利になるのではなく、学習を積み重ねることで、賢くなっていくものです。従って、使い始めのときは、学習していないため、スケジュールの漏れ確認などがメーンとなり、AI秘書の大きな特長である「アドバイス」はあまり出てこないでしょう。


 そんな中でも、見積書については学習効果が早いですね。およそ100件程度の見積書を学習させれば、「Aという商品を見積もるなら、次の明細はBという商品ではないですか」と先回りして商品の選択肢を表示してくれます。


 一方、商談情報は過去の経緯のテキストデータを読み込んで、各行動が成功につながるポジティブなものなのか、ネガティブなのかを判断する必要があるため、より多くのデータが必要となります。リアルな世界でも、扱う商品や商談相手にもよりますが、1回、2回の商談経験で、今後の成功パターンを見いだせるケースは少ないでしょう。ましてや新人の営業マンの2回、3回の商談経験の情報だけでは、いかにできる上司であっても的確なアドバイスするのは難しいと思います。せいぜい「時間を守って、見積もりは正確に」とか、「元気に頑張れよ」「お客さんに気に入られるように」とかじゃないでしょうか。これはAIも同じです。


 従って、商談においてAI秘書が適切なアドバイスができるには、3年分くらいのデータ量が必要でしょう。また、それ以上の古い時期のデータですと市場環境なども変わっているため、むしろ使わないほうがいいと思います。


 そうした情報を基に、AI秘書は“現在進めている商談”が、過去データと付き合わせるとポジティブでクロージングまであと少しと判断したら、「次のアポイントを早めに入れないと、もったいないですよ」とアドバイスするわけです。


AI秘書がユーザーの「うっかり」をやさしくサポート



過去分析ではなく「先行指標」分析で未来を変える


――デジタルデータの整備以外で、AIを使いこなす上で注意すべき点はありますか。


長尾氏:それは経営陣をはじめとするマネジメントが、過去の行動や実績の分析ばかりに重きを置かないようにすることです。つまり、結果的に良かった、悪かったを言うために各種の情報を吸い上げようとする雰囲気だとAIは正しく学習できません。


 例えば、営業マンの行動管理を主たる目的に、商談を記録するような営業支援ツールを入れても、現場の人たちは「そこに書いたことで上司から評価されるんだ」と反応して、“見た目がいい情報”でとりつくろうとするようになります。


 実際、「他社製品のほうが性能はいいので、うちのは売れませんでした」といった商談報告が部下からあったら、こうしたネガティブな情報に感情的になり、正しい情報だとしても「売れない言い訳を書くな」とか、「そこを何とかするのがお前の仕事だろう」と反応する上司や経営層がいることは否定できないでしょう。


 けれども、ネガ情報に怒ってばかりの上司、社長であったら、現場は本当のことを入力しなくなります。商談がうまくいっていなくても、うまくいっているかのごとく記録するようになると、正しい情報がシステムに入ってこなくなります。こうなると、AIとしては商談情報などのテキストデータから、ビジネス成功に至るプロセスのネガティブ、あるいはポジティブ情報が正しく判断できず、その機能は発揮できないわけです。


 AIを使いこなす時代には、ネガティブな情報ほど製品性能や業務プロセスの改善に向けた解析につながるため、本当は必要なはずです。ですから、上司やマネジメント層が「営業は最前線で情報収集する仕事」だと頭を切り替えて、ポジティブ情報、ネガティブ情報を問わずにAI秘書に報告できる環境を作る必要があります。


――なるほど。正しい情報でなければ学習させる意味はないですね。


長尾氏:このほか、週報あるいは月報的な管理ツールとして使うことを主目的にするような上司の下だと、営業マンも日々の入力は面倒だからと、そのスケジュールに合わせて、まとめて入力するケースが多くなるかと思います。そうなるとAI秘書が日々の商談のテキストデータから分析して、アドバイスしようにもできないという状況になってしまいます。


 このようなスタイルで、“デジタル”の営業支援システムを、日々の活動を記録や集計のために使ってしまうと、やっていることは“紙の時代”と実は同じなわけです。過去実績――つまり、動かしようのない結果ばかりを批評することが目的ならば、そんなところに、AIはそもそも必要ないと思います。


 せっかくAIを使うのですから、次に「どうするか」という、未来の行動に生かせる情報をもらわないと意味がありません。AIのチェスや将棋の勝負も、AIは次の一手や二手、三手、数手先を予測して、それを提案していたわけですからね。


AI秘書が類似案件から今回の商談に参考になりそうなケースをアドバイス


――AIは未来を変えるためのアドバイスに使うわけですね。


長尾氏:前月など過去の結果に基づいて改善するのを「フィードバック」経営と言います。済んだことに対して、あれは良かった、悪かったと評価して、来期は「同じような失敗をするなよ」となるわけです。


 一方、私が提唱しているのは「フィードフォワード」経営です。フィードフォワードとは先行指標となるデータをつかみ、そのデータを基に明日以降の未来の行動・活動の改善を提案するものです。


 例えば、10件の成約を確保するには、先行指標として「見積書の提出数」があります。見積書の数の先行指標は「商談数」「案件数」です。そしてこれらの先行指標は最初のきっかけとなるアポイント、つまり「訪問数」となります。先行指標の訪問数が基準に足りてなければ、最終結果の成約数も統計的に下回るでしょう。
 このように先行指標に異常値がある段階で、「明日以降はこうすべきだ」とアドバイスし、結果を出すのがフィードフォワード経営です。


 ただし、本格的にフィードフォワードするためには、過去を含む日々の行動データに加え、顧客関連の情報や市場動向、さらには天候、海外情勢などの多くのデータが必要です。アナログの時代は、こうした多くの先行指標や過去データを組み合わせて分析することができませんでした。しかし現在は、IT技術が発展した結果、AIを活用することでフィードフォワードできる時代になったわけです。


 AI秘書は、秘書機能としてフィードフォワードする範囲は限られますが、基本的には未来志向でアドバイスするコンセプトのツールとして提供しています。


――確かに過去分析も重要ですが、AIによるフィードフォワードは価値がありますね。

長尾氏:これまで過去の実績に対してのみ、フィードバック評価で「いいね」「ダメだね」と評価していたサイクルから、現状の動きから未来の可能性を予測して「こうしたら」「ああしたら」とフィードフォワードする環境になります。フィードバックは、どうしても批評や叱責的な内容が多くなり、感情的にマイナスな雰囲気になりがちですが、フィードフォワードは成功に向けた前向きな提案なので、感情的にはプラス効果を生みます。


 先月の営業成績などの過去情報を前にして、会議室で全員が集まって上司から説教されたり、指示されたりという時間は無駄ですし、全くのナンセンスです。特に今はスマホのような高性能の端末を皆持っていて、簡単に情報を受け取ることがどこにいてもできるわけですからね。前向きで明るくなる情報を提供すべきです。



人間の自由や創造性を生かしたIT、AIの活用を


――なるほど。


長尾氏:ただ、そうしたデジタルツールも使い方にはバランスが必要だと思っています。悪い例として、あくまでも極論ですが、GPSで営業マンの動きを追いかけて、商談の内容もスマホを通して録音してテキストデータに変換すれば、一日中管理できるし、その情報を基にAIも「こうしたら」「ああしたら」とアドバイスができます。しかし、もしこんなことしたら、その会社は、まともな人から辞めていきますよ。


 ですから、現場の人間をがんじがらめにする使い方ではなく、楽しく仕事ができるようなサポートツールでなくてはなりません。人間はあくまでも生き物で、ロボットではないわけですからね。


 営業など人と交渉する仕事は感情労働で、接客労働です。だから本人の気分が仕事に出ます。がちがちに管理されて、イヤイヤやらされている人が営業に来たら、お客さんもいやでしょう。テクノロジーが進展して、やろうと思えば管理がしやすい時代だからこそ、仕事の中に楽しさがあるような配慮が経営陣や上司には必要です。


――結局は人間ですからね。


長尾氏:ええ、そうなんです。少しAIの話から離れるかもしれませんが、部下の商談などを記録した内容に対しては、リアル世界の上司からのコメントも大事なんです。私も含めて人間には誰しも親から認められたいとか、上司から認められたいといった「承認欲求」があります。ですから、日々の商談記録データは上司も閲覧できるので、読んだなら“既読スルー”ではなくて、「グッジョブ」「ご苦労さん」「ナイストライ」など、励ましのメッセージが必要です。


 ちなみにAI秘書には、先ほど申し上げたゲーミフィケーション要素の一つに、グッジョブポイントという加点項目があります。どれだけ人から認められ褒められたかを示す項目です。AIを使う一方で、人間の心理も理解しながら、そうしたツールを使っていかないと、組織はうまく機能しないんじゃないでしょうか。


AIツールは未来志向の使い方がポイント


――確かにそうですね。


長尾氏:もはやAIは当たり前の時代に入りつつあります。逆に言えば、AIを導入するだけでは他社との差別化にはなりません。90年代から続くパソコンの普及、インターネットの普及、スマホの普及と同じレベルの話なのです。AIも高機能になると同時に、どんどん低価格化が進み、誰でも手が出せるものになるはずです。


 そうしたIT化の流れの中で、デジタルツールをうまく使いこなせている会社と、使いこなせてない会社の両方が存在します。ですから、AIについてもポイントは「どう使うか」「使いこなすか」なのです。AIをうまく使っていくには、過去の振り返りのフィードバック中心ではなく、未来を変えるためのサジェスチョンを得るフィードフォワードの考え方で使っていくべきです。


――ありがとうございました。


『AIに振り回される社長 したたかに使う社長』(日経BP社刊)
今回インタビューした長尾氏執筆の「AIに振り回される社長 したたかに使う社長」。
AIなどの新技術に翻弄されずにうまく使いこなすリーダーと、使いこなせないリーダーの考え方の違いをケース別に分かりやすく解説している



長尾 一洋(ながお・かずひろ)氏

NIコンサルティング代表取締役。1965年広島市生まれ。中小企業診断士。経営コンサルティング会社を経て、1991年3月、(株)NIコンサルティングを設立。経営コンサルタントとして活動する一方、中国春秋時代から伝わる兵法書「孫子」の智恵を現代企業の経営に活かす「孫子兵法家」としての活動も行う。「『キングダム』で学ぶ乱世のリーダーシップ」(集英社刊)、「AIに振り回される社長 したたかに使う社長」(日経BP社刊)など著書多数。